16話 友力受諾5
勇者パーティによる襲撃の応戦も終わり、敵の撃退に成功した俺たち魔王軍。
敵の主力である勇者ンーディオをあと一歩のところまで追い込み、敵自ら逃げ去る選択を取らせた。
しかし、戦果とは裏腹に……。
「クソがぁーーっ!」
俺は天に向け、ありったけの声量をぶち撒ける。
――ある意味で屈辱的な敗北を期したのは、むしろ俺たちの方だ……!
敵を追い込めたのは事実。
敵の方から逃げ去ったのも事実。
戦績としては、魔王軍の勝利に映るだろう。
しかし、そんな事は形式上であり……真実は違う!
デストローガンは斬殺され、四天王もみすみす倒され、挙句に連れ去られた。
ンーディオは逃げ去る直前に、ニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。まるで俺に、『ざまぁみろ』とでも言いたげに。
戦闘においては俺たちが勝利したが、勝負に勝ったのは俺たち魔王軍ではなく、勇者パーティじゃないか!
「なんで、なんで……! テーの言いかけた意味深な言葉も、聞きそびれた……」
込み上げてくる凄まじい怒りから、俺は。
「クソッタレがぁーー!」
――ドゴンッ!
左手で、地面を力任せに殴りつけた。
勇者パーティが去り、静寂化していた広場に、俺の怒声と殴打の音が轟く。
――バリバリバリバリッ……。
拳の打点を中心に広がっていく、地面のヒビ割れ。
劣等感に囚われた俺は地面に拳をつけたまま、クモの巣状に地割れしていく様子を見つめていた。
そんな矢先に。
「『オブジェクトリペア』……」
優しく唱えられた、デュヴェルコードの修復魔法。
ゆっくりと顔を上げてみると、俺の側でデュヴェルコードが地面に手をつき、魔法陣を出現させていた。
「…………………………」
優しい光を浴びながら、ジワジワと修復されていく俺の壊した地面。
巻き戻しのように直っていく地面を、俺は言葉も出ないまま見つめる。
――どうしよう、非常に居た堪れないんだが……!
つい怒りに任せて拳を打ちつけ、変わり果てるほど地面を壊してしまった。それは悪かったと思う。
それに残り少ない魔力を使用して、壊れた地面を直すデュヴェルコードの行動は、非常に素晴らしい行いだと思う。
しかし……!
「デュヴェルコードよ」
「はい、ロース様」
俺は未だに拳を地面につけたまま、何食わぬ顔のデュヴェルコードに語りかける。
「その……。物を大切に思うような、お前の行為は素晴らしい。逆に物を大切にしなかった私の行為は、勿論愚かで悪い。
しかしだな……! 今は空気を読んでくれないか?」
「と、おっしゃいますと?」
「私がどんな心境で地面を殴ったか、察してくれ……!
壊した直後に、目の前で無言のまま速攻で修復されると、居た堪れなくなるわ。生まれて欲しくもない罪悪感が、凄まじく生まれたぞ」
「も、申し訳ありません! わたくしはただ、ロース様ならもう1発くらいお殴りになるかと思い、速攻で直したのです。
おかわりは、所望される前に用意しておくのが、側近としての務めかと考慮しまして」
まるで、わんこ蕎麦みたいなシステムだな……!
「理由はどうあれ、さすがの私でも目の前で直してもらった地面を、これ以上の憂さ晴らしに壊したりはしない。
余計な気を使わせて、すまなかったな」
「気になさらないでください! 形ある物、いつかは壊れるものなので!」
俺に向け、満面の笑みを浮かべたデュヴェルコード。
これは……何の励ましだ? そもそも励ましなのか?
全く意図が読めない。
「………………壊した私としては、返す言葉が見つからないのだが」
言葉を詰まらせながら、デュヴェルコードの真意を考えていた。
その時。
『――グゥ……。そ、こに、居られる、のですか。ロ、ロース様ぁ……』
突然、苦しそうに俺を呼ぶ、デストローガンの声が聞こえてきた。
「えっ!」
俺は慌てて、声のした方へ振り返る。
ンーディオの剣技で斬殺されたはずのデストローガンが、なぜ……!
「ロース様、いかがなさいました? 突然『えっ!』って。頭パカになられましたか?」
デュヴェルコードが何か失礼な事を聞いてきたが、今はそんな場合ではない。
俺は何も答える事なく、デストローガンの巨大な口元へ歩みを寄せ始める。
まさか死を超えて、アンデット化でも果たしたのか……!?




