16話 友力受諾4
気を落とし嘆くシノが呟いた、『テレポート』での即時帰還志望。
シノは無意識に呟いた志望だろうが、どんな理由であれ、俺が想定していた最悪の一手だ。
「――おい待てっ!」
俺はシノの呟きが終わる前に、全力で声を張り上げ阻止を図る。
ここで即時帰還を果たされては、取り返しのつかないシナリオになってしまう!
しかし。
「シノ、オメェ冴えてんな。最高のチョイスじゃねぇか……!」
「え? なぜか急に褒められた!」
ンーディオのひと言により、俯き気味だったシノの表情が、途端に明るさを取り戻した。
逆に俺の思考は、一気に焦りで満たされる。
「オレも魔剣の力に翻弄されて、熱くなり過ぎていたようだ。意識もかなり朦朧としていたからな。
オメェの言う通り、ソッコー帰りゃいいんだよ。そもそもオレは初めから、そのつもりで時間稼ぎをしてたんだっけか、戦術的撤退のためによ……!
マイル、少しだけ魔力をよこせ。オレがこの場で『テレポート』してやる」
仲間からの名案にご満悦なのか、苦しそうにもマイルに笑いかけるンーディオ。
これは本気でヤバい、ンーディオもその気になった……!
ここで帰還を果たされては、本当にテーを取り戻せなくなる。
「デュヴェルコード! このままヤツらを逃す訳にはいかない! 何とかできるか!?」
俺は慌てて振り向き、デュヴェルコードに助けを求める。
「こんな現状で打てる方法なんて、三択しかありません!」
「…………えっ、そんなに?」
予想以上に多かった選択肢に、俺は一瞬だけ固まってしまった。
いつもはトチ狂った洞察力しか持ち合わせていないデュヴェルコードが、こんな土壇場で側近としての実力を開花させたのか……!?
「時間もありませんし、ここからは早口でご説明します! 聞き遅れないよう、ついて来てください!」
「わ、分かった」
デュヴェルコードの押せ押せな態度を前に、俺はゴクリと唾を飲み込む。
この子に『ついて来い』と言われる事に、とてつもない不安を覚えてしまう……!
「まずひとつ目は、わたくしが魔力を使い果たす覚悟で、『トゥレメンダス・サンダーストーム』をお見舞いする策です!
その場合、わたくしはまた魔力切れを起こし、3日ほど寝込むことになりますが。加えて、こちら側も雷撃に巻き込まれ、敵味方諸共、皆殺しになる可能性が大いに考えられます!」
「諸共って……本末転倒じゃないか」
「もろっともです!」
………………そこは『ご尤も』だろ。早口ついでに、燃費良さげに返事を融合させやがった。
「ふたつ目は、このまま四天王の回収を諦めます! わたくし的に、リスクを冒してまで救うほどの価値を感じませんので」
「おい……」
「そして最後は!」
――ビッ!
デュヴェルコードは勢いよく、コジルドの顔を指差した。
「この場で木偶の坊化しているコジルドさんの身柄を、ロース様が敵さんに向けてぶん投げる手段です! ヤケクソに、力任せに!
1番成功率が低いと思いますが、何もしないよりかはマシだと思いまして。
まぁ自身の愛槍に、不名誉にも『当たランス』なんて名付けるようなヴァンパイアをぶん投げた所で、敵さんにヒットするとは思えませんが。持ち主に似るとよく言うので!
はいっ、早口のご説明はこれで終了です!」
俺に選択を迫る様子で、小さな足で貧乏ゆすりを始めたデュヴェルコード。
最後のは選択肢と言うより、ただ使えないコジルドをディスりたかっただけだろ……!
「アナーキー……! 槍使いの我を、そんな投げやりな作戦に起用するなど……。シャレにならんぞ、小さき者よ」
「今はコジルドさんの意見なんて、求めていません!
どう致しますかロース様、三択です! 早くロース様、三択、ロース様! 早く三択、ロース様!」
デュヴェルコードは両手をグッと握り締め、俺の顔を覗き込むように背伸びをしてきた。
何だよ、そのクリスマスを思わせる単語の並びは。俺はサンタさんじゃないぞ……!
「う、うるさい、その連呼やめろ! プレゼントを熱望する子供に見えてくる!」
俺はデュヴェルコードの顔を片手で押し除けながら、素早くレアコードに視線を向けた。
「どの選択肢も却下だ、四択目を使う! レアコードよ、『インパチェンスヴェノム』だ! 急げ!」
一刻を争うこの場面、俺は敢えて魔法を指定して、レアコードに指示を出した。
いくらキレ者のレアコードとは言え、効果的な魔法を選定するのに、僅かでも考える時間を有するはずだ……。その一瞬の迷いとタイムロスを無くすために、敢えて魔法を指定した。
俺自身も咄嗟の指示だったため、見た事のある魔法しか思い浮かばなかったが……。
それでもこの緊迫した状況下で、俺の知り得る最も有効性の高い魔法だと即断した。
「偉そうに、まぁ的確ですけど」
愚痴を溢しながらも、レアコードは迷いなく勇者パーティへ片手を翳した。
「――もぅ、おせぇよ。じゃあな脳筋!」
まるで逃げ切りを確信したような、ンーディオの雄叫び。
見るとンーディオは、ニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。
「『トゥレメンダス・インパチェンスヴェノム』!」
レアコードが力強く詠唱するなり、勇者パーティの頭上に魔法陣が出現。
――ドドドドドドォ……!
大量のドス黒い猛毒液が、勇者パーティを目掛け滝のように魔法陣から流れ始める。
そして、暫く様子を窺っていると。
「頃合いかしら」
タイミングを見計らったように、レアコードは静かに翳した手を下ろす。
すると同時に、降り注がれていた猛毒液も徐々に止んでいった。
だが、そこには。
「何だよ、この戦に勝ったが勝負に負けたような気分は……クソッ……」
猛毒液の止んだ正門前に、勇者パーティの姿はなかった。
当然、取り返したかったテーの姿も、その他の四天王たちの姿も……!
「クソがぁーーっ!」




