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16話 友力受諾3





「――私からはとらわれの姫、シャインを差し出す!」


 俺は四天王の亡骸なきがらを取り戻すため、交渉材料としてシャイン姫の解放を提示した。


 右腕が再生途中という事も忘れ、ンーディオに力強く右手の指を差しながら……。


「プッ、プフッ……!」


 ンーディオに指を差し続ける最中さなか、俺の隣からデュヴェルコードの吹き出す笑い声が聞こえてきた。

 俺だって分かっている。今の俺が、どれほど見窄みすぼらしく敵に指を差しているかなんて……!

 迫力を出そうと指を差したが、自分の右腕がまだ短い事に気づいた瞬間、恥ずかしさで気が狂いそうになった。


 はたから見ると、きっとエレベーターのボタン押し程度のリーチしか無いんだろうな……!


「今は笑わないでくれ、敵との交渉中だぞ」


「申し訳ございません。こんな緊迫した交渉中なのに、我慢できませんでした。その右腕の短さ……!」


 デュヴェルコードをチラリと見ると、笑いをこらえるように肩をヒクつかせていた。

 なぜか小さな両手で、とがった両耳を押さえながら……。


 そこはせめて吹き出しそうな口か、これ以上笑いの原因を直視できないよう目を隠してくれ。

 少なからず、今は耳から受信できる面白い情報なんてないだろ……!


「レアコードよ。お前の妹がこれ以上、場の雰囲気をなごませないよう、この子の口と目を隠しておいてくれ」


「承知しましたわ、迫力満点リーチな魔王様」


 未だに機嫌を損ねたままなのか、レアコードは乱暴にデュヴェルコードの口と目を両手で押さえ込んだ。


「で、どうだンーディオ! 私の要求をむか!?」


 俺は返事を求め、再びンーディオへと視線を向ける。


「何が……等価だ、バカにしてんのか脳筋が!」


「はぇっ!?」


 ンーディオによる予想外の返答に、俺は驚きをあらわにした。


 いったい、何がダメなんだ……?

 姫はおのれの手で救い出すための、ハンティングトロフィーにしたいのか。

 それとも、どんな犠牲をともなおうとテーを連れ帰らなければならない、特別な理由や価値があるのか?


「よく聞け脳筋! テメェらの出すカードは生存中のシャイン姫で、オレたちが差し出すカードは死んだ四天王だぞ!」


「あ、あぁ……その通りだ」


「これのどこが等価だ! 明らかに生存中のシャイン姫を返してもらえるオレたちの方が、利得りとくすぎんだろうが! 命の重み舐めんじゃねぇよ!」


 ンーディオは最後の力を振りしぼるように、震える右手を派手に広げる。

 交渉に応じない理由、そこかよ……。的外まとはずれにも程があるだろ。

 

 無闇にデストローガンを斬殺ざんさつするようなチンピラに、なぜ俺が命の重みについて説教されなければならないのだ……!


「いや……なら尚更なおさら、私の交渉に応じろよ。お前たちに利得がありすぎるのなら、文句のつけようがない申し出だろ!」


「ケッ! それだけの理由で、この獣人族を返さねぇ訳じゃねぇよ」


「何だ、その理由とは」


 俺の深掘りにこれ以上答えたくなくなったのか、ンーディオはしばらく黙り込み、地面に向けつばを吐いた。


「ペッ……! テメェには関係ねぇよ、単なるオレの気まぐれだ」


「ンーディオ様、私のくつに掛けないでくださいよ、おつば……」


 思いがけない不運に見舞われたのか、ンーディオの吐いた唾はシノの靴に掛かっていた。

 こんな時まで、残念な女だな……!


「たまたま唾が掛かるような位置に立ちやがって! オメェが悪いのになげいてんじゃねぇよ、シノ!」


「す、すいません! まさか立ち位置で怒られるなんて……。

 ンーディオ様の『虫の居所いどころ』が悪いと、怒りに理不尽りふじんがプラスされる……」


 軽くうつむきながら、ボソボソと嘆き悲しむシノ。


居所いどころが悪かったのはオメェだろ! 虫のせいにすんじゃねぇ!」


 上手い事を言っているようだが、さすがに理不尽がすぎるぞ、チンピラ勇者……!


「…………ンーディオ様、もう帰りませんか? こんな汚れた靴ではまりのない女と思われそうなので。何より今日は怒られすぎて、私のメンタルが……!

 戦況的にもこちらが不利なのは確かですし、この獣人族を黙らせただけでも良しと考えて、早く『テレポート』で帰りた……」


 あろう事か、俺の想定していた最悪な一手を、イレギュラーなところでシノが呟き始めた。

 今ここで『テレポート』をされると、非常にマズい! テーを取り戻す手立てが、一気にしぼられてしまう!



「――おい待てっ! そこの締まりのない女!」


 俺は最悪の一手を阻止するため、シノが言い終わる前に全力で叫声を放ちさえぎった。




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