16話 友力受諾2
ンーディオがテーを連れて帰ると指示した途端、俺とシノは離れた場所にいながらも、同時に驚きの声を上げた。
シノがどんな思いで驚いたかは不明だが、恐らく俺の意思とは違うものだろう。
魔王軍からすれば、今テーを連れて帰られるのは非常に都合が悪い。厳密には、俺にとって都合が悪い!
魔王城に帰ってくるなり、ンーディオを見て怯えていたテー。
アイツの言いかけた言葉を、聞く必要があると思う。いや、俺は聞かねばならない……!
――恐らく言いかけたのは、ンーディオの……!
「あの、ンーディオ様? なぜこんな獣人族に対して、お持ち帰り行為を!?
もう息なんてありませんし、価値もこだわりも無ければ、ヤリ捨てして帰れば宜しいかと……」
「ツベコベ言うな! お持ち帰りとかヤリ捨てとか、下品な言い回ししやがって! キレイな顔に合ってねぇんだよボケが!
敵には蘇生魔法が使える、厄介なデュヴェルコードがいるんだぞ? 連れ帰らなければ、ここで黙らせた意味がねぇだろーが!」
「た、確かにそうですが……。こんな雑魚を蘇生されても、私たちが不利になる要因なんて……」
「ねぇよ! だから口答えすんなゴラァ!」
「は、はい!」
ンーディオの強引な説得に対し、これ以上の深掘りは危険だと悟ったのか、シノは引き攣った表情で返事をする。
「けどな、1番騒いでいたヤツだけ連れて帰ればいい。他の3匹は置いて帰れ、不要だ。
そもそも、なんで4匹とも連れてんだ、荷物だろ。オレのオーダーは、騒いでいたヤツを潰せだったはずだろ? いちいち言われねぇでも、そのくらいの機転はオメェらで利かせろや」
「あの、ンーディオ様……」
「んだよっ、まだ口答えする気かシノ!」
「1番騒いでいたヤツって……どれでしたっけ?」
シノは自身とイマシエルが抱える四天王を見回しながら、気まずい様子でンーディオに尋ねる。
「バカかシノッ! オメェが倒してきたんだろーが!」
「で、ですよねぇ……! けど戦っている間に、どれがとれか見分けがつかなくなってしまいまして。とりあえず4匹全て潰したのですが……」
「使えねぇオレの右腕だな! 降格させられてぇのか!」
「えっ、見分けがつかないだけで!? ならンーディオ様は、コイツらの見分けがつきますか?」
「………………分かる訳ねぇだろ! 見た目全部一緒じゃねぇか!
重症者に選定なんて求めてんじゃねぇよ! アドリブ下手クソか!」
一瞬固まりながらも、シノへの説教を止めないンーディオ。
だがいつまでも終わらない勇者パーティのやり取りに、俺は痺れを切らし。
「おい勇者サイド! 私たちを前にして、いつまで取り込んでいやがる!」
勇者パーティに向け、大喝を入れた。
するとンーディオたちは、一斉に俺へと姿勢を向けてきた。
「ハァ、ハァ……。見て分かんねぇのかよ、オレの下品な右腕がしくじった失態の、説教が終わるまでだよ。
説教と反省なんて、早いに越した事はねぇだろうが」
さも当然のように、荒息を吐きながら睨んでくるンーディオ。
今の説明だと、ンーディオの腕が下品みたいに聞こえるな。真に下品なのはシノだろ……!
「その理屈は分からなくもないが、敵地でするなよ。ギルドで反省会をすればいいだろ。
とは言うものの、こちらも黙ってこのままお前たちを帰らせるつもりはない。そこの破れた四天王たちの亡骸は、置いて帰ってもらうぞ」
「拒否したらどうする気だ? まぁ、するがな」
ンーディオの煽りに、俺の目尻がピクリと動く。
「力尽くで取り返す、その価値がある」
「やってみろよ、世界最速の逃げ足魔王が」
「………………絶妙に腹立つな、このチンピラが。しかし大口を叩くのはいいが、今のお前たちに抵抗できるだけの戦力と勝率があるのか? 特にお前な、スタミナ切れ勇者」
「んだとゴラァ! こっちのハーレム見てから煽りやがれ脳筋が!
前後衛とヒーラーがひとりずつ万全で残ってんだよ! オレ抜きでも、今のテメェらとなら張り合えんぞ!」
「確かにそうだが、戦闘不能のお前を抱えたパーティメンバーが、戦闘に集中できると思うか? 戦況は読み切れないほど左右されるぞ」
「……………………チッ」
俺の言葉に何かを悟ったのか、何も言わずに小さな舌打ちをしたンーディオ。
「そこでだ……」
俺は勇者パーティの方向へ、数歩ほど前に出る。
これから行う、交渉のために。
ンーディオの言う通り、シノとイマシエルは万全に近い。マイルも魔力にはまだまだ余裕があるだろう。
シノとイマシエルが戦闘を仕掛けてくれば、こちらも多少なりとも被害を受ける。加えてその最中に、ンーディオを回復させられる可能性もある。
その時は隙を見て、四天王の亡骸を回収するまでだが。
しかし更に厄介なのが……この場で即座に『テレポート』をされる事だ。そうなれば最早、俺たちに打つ手はない。
まだ最悪の一手を相手が打ってこない内に、四天王を取り戻すための交渉に出る。
――とっておきの、切り札を使って……。
「勇者ンーディオ。ここは互いの利益のために、等価交換といかないか?
私は大切な仲間を取り返したい、だから四天王を差し出せ。その代わりに、私からは……」
「なんだ、さっさと言いやがれ! クソみてぇな代物だったら即却下だからな!」
俺は威張るンーディオに向け、勢いよく右手で指を差した。
まだ右腕の再生が、途中であった事も忘れて……。
「――私からは囚われの姫、シャインを差し出す!」
魔王としての交渉姿勢は貫いたものの……何て迫力に欠ける指差しだ……!
俺は恥じらいを悟られぬよう、腕の長さに削ぐわない程の睨みを利かせた。