15話 悪徳魔法10
俺は左腕を振り被りながら、ンーディオの真横を駆け抜けた。
「待て脳筋! どこ行きやがる、冷やかし横断族かゴラァ!」
「ロース様っ、クッ……! 頭湧いてんのかしら! 血迷った冗談は、見窄らしい右腕だけにして欲しいわ!」
次々と飛んでくる、ンーディオの真横を駆け抜けた俺への罵倒。
コイツら、死闘の最中じゃないのか?
特にレアコードなんて、詰り度合いが過剰すぎるんだが……!
死闘を繰り広げるふたりに言いたい放題の罵声を受けながらも、俺は振り返る事なく走り続けた。
慣れない短い右腕を何とか振りながら、足の回転と目の前の目標に向けてひたすらに走る。
そう、俺の向かっている先は……!
「ガラ空きだぞ、ヒーラー娘!」
ひとり置き去りにされたように立ち尽くしていた、ヒーラー役のマイルだった。
「わわわーーっ! また恐ろしいロリコン魔王が、マイルの事を狙っているでごじゃりゅ!」
「人聞きの悪いあだ名を喚くな、特殊語尾ヒーラーが!」
「きゃあぁぁーーーっ! か弱く戦えない女の子を好き好んで狙おうとする悪魔め、変質魔王! 卑劣デーモン! こっちに来るなじゃりゅ!」
「誰が好き好みの変質だ! 戦場に立ちながら、泣き言をぬかすな!」
俺は慌てふためくマイルを目掛け、怒声を放ちながら走り続ける。
そんな最中、俺の背後から聞こえていた魔剣同士の打ち合う音が、ピタリと止んだ。
「待てやゴラァ! ハッタリ魔王がぁ!」
同時に、背後からタダならぬ殺気が迫り来るのを感じた。
思わず確認せずにはいられない程のプレッシャーから、俺はチラリと振り返りンーディオの姿を尻目にかける。
「調子こくなよ、脳筋がぁーっ!」
ンーディオは怒りに満ち満ちた強面で、一心不乱に俺を追ってきていた。
まるで下級生にイジられ、憤怒を抑えられず必死に追いかけてくる上級生のように……!
しかし魔王の体に備わった筋力を持ってしても、今のンーディオにスピードで劣っているのだろうか?
少しずつだが、距離を詰められている気がする。
もはや魔剣の副作用なのか、出し抜かれた事への怒りなのか区別がつかない。
こんな煙を出しながら赤面で迫ってくる、韋駄天のプレッシャーなんて感じた事もない。
――だが、これでいい。俺の思い描いたシナリオ通りだ。
狙いは、あくまで……!
俺はマイルに辿り着く直前で、両足に力を込めて急ブレーキをかける。
そして同時に、右足を軸に全体重を乗せたターンで後ろに振り返り。
「お前なら追って来ると思ったぞ、ンーディオ!」
割りに合わない代償を支払おうが、もう1度……。ひっくり返された戦況を打破するためなら、もう片方の腕だってクレてやる!
「食らえ、『エクスプロージョン・ハンマー』!」
迫り来るンーディオへカウンターを入れるべく、俺は振り被った左手に爆裂魔法を宿した。