2話 転生事変8
「魔王軍を脅かす存在、それは……」
まるで語り手のように、魔王が眠っていた時の状況を説いていくデュヴェルコード。
芝居を打つ可愛らしい語り手さんの邪魔をしないよう、俺は静かに固唾を飲み、話の続きを待った。
「…………それは驚く事に、意外な人物。
そう、ひとりの勇者ですっ! チラッ……!」
迫力を出したかったのか、気迫を込めて勇者の存在を明かしたデュヴェルコード。
だがその後に、またしても俺の様子を薄目で窺ってきた。
意外も何も、思いっきり予想通りの勇者登場だったのだが……。
しかしせっかく俺のために、語り手さんが臨場感を込めて、話してくれているのだ。ここは雰囲気的に、驚いたフリを……。
「何っ!? 勇者だと……! あまりに意外で、ビックリしたぞ!」
俺はオーバーリアクション気味に、驚いた素振りを見せる。
「…………ロース様、パカみたいに芝居がお下手ですね。ちょっと引きます……」
お前が言うな、ロリエルフ……!
可愛らしい容姿のくせして、可愛らしくないな……!
「す、すまない。水を刺したな。続けてくれ」
「かしこまりました。では続きを。
勇者の存在は、ロース様が昏睡なさる前から、警戒の対象にありました。ただでさえ戦闘力に長け、厄介な存在であった勇者。
しかしそんな勇者が、選りすぐりのメンツを揃え、パーティを結成したのです。先ほど現れた勇者の右腕も、そのひとり……。
魔王軍にとって、まさに脅威として他ならない存在となったのです」
「そうか。あの恐ろしい弓矢を扱う下品美女でさえ、勇者パーティの最高戦力になり得ないと……。
勇者はそれほどまでに、強い存在という事か。勝てる気がしないな……!
そのパーティが、私の眠っていた隙に?」
「はい。勇者は全てを見透かしたように、魔王軍が指揮を失った最悪のタイミングで、魔王城を攻め始めました。
来る日も、来る日も……」
少しずつ、デュヴェルコードの表情が曇り始める。芝居がかった表情に感じられない、滲み出たような悲しげな顔つき。
しかし、なぜ勇者は好機を悟る事ができたのだろう……?
恐ろしく勘が鋭いのか、予知能力を持っているのか。考えたくはないが、まさか城内にスパイが潜り込んでいる可能性も……。
望みは薄いが、どうか偶然であってほしい案件だ。
ひとりで考察にふけていた矢先、デュヴェルコードが続きを話し始めた。
「ここから先は、地獄絵図です。勇者の率いるパーティが、魔王城を攻め始めて以来……。
城内に配備された各エリアや区画が、日に日に攻略されていきました。
エリアボスたちは勇者に敗れ、エリアは制圧され……。エリア復興を図るも、その猶予すら与えてもらえず、次が攻められ……。
魔族のわたくしが言うのもなんですが、アイツらは悪魔です……! 穢れなき悪魔です!」
両手をグッと握り締め、涙目で訴えかけてくるデュヴェルコード。
人として穢れているから悪魔と呼べるんだぞと、ツッコミたいが……。
どうやら、冗談で言っているわけではなさそうだ。こんな目で見つめられると、とてもデビルズジョークに聞こえない。
だがこの時、俺の背筋にザワつきが駆け巡った。
魔族であるダークエルフが、勇者を悪魔呼ばわりするほどの事態……。よっぽどの事だ。
デュヴェルコードの目を見ていると……。
『――そろそろ、城も落ちるころじゃないかしら?』
勇者の右腕が去り際に放った言葉が、俺の脳裏を過る。
「最後に勇者がパーティを率いて、魔王城に攻め込んできたのは、つい先日の事でした。
そしてその日……。ついに最終エリアである玉座の間も、勇者によって攻略されました……」
「お、おいっ……! それってつまり……!」
「はい、ご察しの通り……。勇者による最終エリアの攻略をもちまして、この魔王城は……!」
突然、クラシックが鳴り止んだ……。
物音ひとつ立たない無音の空間が、凄まじいプレッシャーを与えてくる。
重苦しい空気を破り、デュヴェルコードはゆっくりと口を開いた。
「――この魔王城は、勇者に完全攻略されました…………」
俺はひとり静かに、空を見上げた……。
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