15話 悪徳魔法7
魔剣『キャタリスト』を構えるなり、様子を変え始めたンーディオ。
「――ハァ、ハァ……ハァアアアアーーッ!」
魔剣を構えるなり、ンーディオの顔がみるみると赤く染まり、露出した至る部位の血管が激しく浮き上がっていった。
相当の熱を帯びているのか、全身から異常なほどの煙も放出され始める。
「いったいンーディオに、何が……! 魔剣に拒絶されているのか?」
「その逆です。あれは魔剣『キャタリスト』が、チンピラ勇者の魔力を吸い始めたのです」
「ま、魔力を吸うだと?」
突然解説を始めたデュヴェルコードに、俺は勢いよく振り向いた。
「そうです。魔剣『キャタリスト』はその名の通り、使用者の魔力を触媒とし、一時的に戦闘力を引き上げる特性を持っています。
その現象が始まった、つまりあのチンピラ勇者は魔剣を扱えたと言う事です」
………………魔剣に応えてもらえるって、この世界の摂理的に悪党認定されたって事かよ、あの勇者。
「インスパイア……! 魔族の中では、あれを鬼人術と言う者もおりますぞ」
デュヴェルコードの後に続き、説明を補足してきたコジルド。
「鬼人術か……見るからにあれは、赤い鬼だな……」
「そこでロース様、少しばかり提案なのですが」
「何だ、こんな時に」
「我々の中であれを、鬼を入れる形態と称して、『オニオンモード』と呼んではいかがですかな?
我らだけの、センス抜群なオリジナルネームですぞ」
俺の隣でモジモジと、コジルドが場違いな提案を囁いてくる。
何だよ、その玉ねぎみたいなモード名……!
「本当に何なんだ、こんな時に! そんな緊張感もセンスもないネーミング提案は、後にしてくれ!」
「ナンセンス……! やはり槍もロクに当てられぬ我では、閃きさえも外すと言う事か……」
ダメだこの厨二野郎。シノとの撃ち合いに負けて以降、心まで使い物にならなくなっている……!
コジルドによる、下らない申し出を受けていた矢先に。
「ハァーッ、ハァーッ! 聞け、ハーレムメンバー共!」
更に荒い呼吸へと変わり、俺たちに睨みを利かせたままンーディオがパーティメンバーに叫びを上げた。
「オレが一撃を入れる間に、『テレポート』できるように準備しとけ! 迅速に動けよ!」
「わ、分かりましたが、その状態で大丈夫ですか!? 全然だいじょばない様子ですが……」
「ハァーッ、ハァーッ! 見たまんまだゴラァ! オレよりテメェの心配してろ、シノ!」
心配するシノを他所に、ンーディオは乱暴な様子で怒鳴り散らした。
その時……。
「ロース様ぁ! 何故かドラゴンを探しに行ったはずなのに、テーだけを見つけちゃって!」
「そうそう! 物足りないけど、とりあえず帰って来ました! 僕たちそーゆーとこあるよな!」
「あるある! あれっ!? 帰って来て早々、なんだか変なヤツらもいる! 知らんけど!」
勇者パーティの背後から、ドラゴンを探しに行ったと称する四天王が、本来の目的であったテーを連れて戻ってきた。
背後から迫る四天王の声に気付いたのか、こちらに集中していたンーディオたちも、後ろに注目を集める。
しかし、次の瞬間……!
「マー、ボー、ドー! 止まって! あれは人族の勇者だ!」
先ほどまでナヨナヨとネガティブな態度だったテーが、急に慌てた様子で指示を叫んだ。
テーの叫び声をきっかけに、四天王は次々と駆け寄る足を止めていく。
「マー、ボー、ドー……大変だよ、本当に大変だよ……!」
足を止めるなり、ジリジリと後退りを始めたテー。
ンーディオの狂変した姿を目にして怯えているのか、他の四天王に語りかける声が震えていた。
初めてテーを見た時は、自信がなくナヨナヨとしたイメージだったが、今の様子は……。何かに、怯えているのか?
「――ロース様っ!! 何が起こっているのですか! この勇者の匂いって……!」
何かを感じ取ったのか、テーは血相を変えて俺に叫声を上げた。
ンーディオの匂い……?
たしかテーは他より鼻が利くと聞いていたが、魔剣を手にしたンーディオが異臭でも放っているのだろうか?
しかしテーの焦り具合を見る限り、もっと深刻で重要な他の意図を訴えかけている気がする……!
テーが叫んで間もなく、ンーディオは何かを悟った様子で、魔剣をテーへと翳した。
「ハーレムメンバー共っ、オーダー変更だ! 至急あの獣人族の雑魚を黙らせろ!
このオーダー、絶対にしくじりは許さねぇ!!」




