15話 悪徳魔法6
「デュヴェルコード、今……なんて?」
俺は伝えられたンーディオの武器に驚きを隠せず、デュヴェルコードに聞き返した。
「チンピラ勇者が手にしたあの一振り……間違いありません、魔剣です。魔剣『キャタリスト』です」
「何で、そんな代物をンーディオが……!」
「分かりません。あの魔剣は本来、魔王軍が所持していたはずですのに。どうして、どうして敵さんの手に……!」
依然として地面に尻餅をついたまま、体を小さく震わせて語るデュヴェルコード。
「待て待て、震える要素がズレていないか? 私からすれば、勇者が魔剣を使おうとしている事に驚いているのだが」
初めて魔剣を目にした時、レアコードは俺に説明してくれた。この世界の魔剣とは、魔族のステータスを引き上げる武器だと。
その説明が真実なら……。
俺は確信に迫るため、デュヴェルコードに近づき体を屈ませた。
「なぁ……聖剣を持つべき勇者が、魔剣とかアリなのか? どう考えても、正反対の組み合わせだと思うのだが」
「ご尤もです。魔剣とは魔族にちょっとした力を貸与してくれる武器であり、魔の者に応えてくれるアイテム。
苦し紛れのハッタリかも知れませんが、何のつもりなのでしょう……?」
「それは私にも、皆目見当がつかない。だってアイツは勇者だろ? チンピラみたいだが……」
「常識的に考えて、あのチンピラ勇者が魔剣を扱えるとは思えませんが、もしも扱えたら……」
「扱えたら、何だ? 根っからの悪党とでも言うのか?」
「おっしゃる通りです。我々魔族が扱うべき剣であり、言い換えれば勇者とは正反対の種族が扱えし剣ですから」
デュヴェルコードは未だに小さく震えながら、訴えかけるような眼差しで見つめてくる。
何だか、嫌な予感がする。ンーディオが魔剣を扱える気がしてならない。だってアイツは、勇者とは名ばかりのチンピラだからだ……!
使う剣技と言い、手に持つ武器と言い、俺の持つ勇者像を毎度のように覆してきた。
このままハッタリだけで終わるほど、浅はかな勇者だとは思えない……!
「不穏を感じるな……」
「わたくしもです、あのチンピラ勇者なら、もしかしたら……。だって裏を返せば魔剣なんて代物は、性格の悪い者しか扱わない剣ですからね。扱えても不思議じゃないかもしれません」
俺を真っ直ぐ見つめ、デュヴェルコードは魔剣について論述してきた。
そんな矢先に。
――ゾクッ……!
何やら背中に、徒ならぬプレッシャーを感じた。
「ロース様、いかがなさいました? まさか今更、魔剣なんかの力に頼ろうと目論む輩が、『性格の悪い者』であるとお気づきになったとか……」
「お、おいっ。ちょっと黙れ」
不思議そうに尋ねてくるデュヴェルコードを、俺は慌てて遮る。
まさかこの子は、無自覚なのか……?
俺の背後から凄まじいプレッシャーを与えてくるお前の姉も、魔剣使いだぞ……!
俺は恐る恐る、首だけを後ろへ振り向かせる。
すると案の定、レアコードは何も言わずにジッと俺たちへ冷たい視線を向けていた。
「「…………………………」」
互いに言葉を交わす事なく、俺はゆっくりとレアコードから目線を切り、デュヴェルコードへと向き直る。
あんな冷たい殺気を醸し出すレアコードと、これ以上目を合わせ続ける事なんてできない……!
「い、今は魔剣の真相を突き止めるぞ」
俺はデュヴェルコードに向き直るなりソッと左手を差し出し、立ち上がるよう促した。
「そ、そうですね。不可解な事しかありませんので……」
デュヴェルコードは俺の左手を両手で握り、ふたりで同時に立ち上がった。
透かさず俺は、勇者パーティへと体を振り向かせ。
「ンーディオよ、答えろ! お前はその剣が、どんな物か理解した上で握っているのか!?」
挙動を悟られないよう、ンーディオに大声で質問を飛ばした。
「ハァ、ハァッ……当たり前だろ! テメェが爆睡こいていた隙に、魔王城の宝物庫から借りパクした魔剣『キャタリスト』だゴラァ!」
依然として荒息を吐きながら、勇者らしからぬ返答をしてきたチンピラ勇者。
借りパクって……。一端の勇者が魔族相手に、堂々と軽犯罪を自白するなよ……!
「この横領勇者が、抜け抜けと……! 魔剣など盗み出して、人族の身であるお前が扱える剣だと思っているのか!」
「…………試してやるよ、この場でな」
ンーディオは負傷した左手をプラリと垂らしたまま、口で魔剣のグリップを噛み締め、右手で鞘を引き抜いた。
そしてンーディオは鞘を乱暴に投げ捨て、魔剣を右手に持ち替える。
鞘を抜き取り姿を現したのは、青黒い光沢のある剣身。
「さぁ、始めっぞ! 去り際のひと暴れだ……!」
ンーディオは苦しげにも笑みを浮かべ、俺たちに向け魔剣を構える。
すると、ンーディオの体が……!
「なんだ、あの現象は。何が起き始めた……」
俺は変わり始めたンーディオの状態に、思わず冷や汗をかいた。




