15話 悪徳魔法5
俺たち魔王軍に向け、弓矢を構え『マシンガンアロー』を唱えたシノ。
威圧感のある魔法陣に加え、こちらに向いた鋭い矢先が悪寒を誘ってくる。
「まさかあんな人族に、我が駆け引きで後れを取るとは。弱体化した上に愛槍『当たランス』を失った我に、もはや太刀打ちできる術は……これまでか……」
「そのようね、感謝するわヴァンパイア。ハハハッ、思い通りのお膳立てをしてくれて!」
高らかに笑いながら、シノは構えた矢を放った。
放たれた矢が魔法陣を通過するなり、続々と同じ軌道を描く無数の矢が出現し、こちらを目掛けて一列に連射され始める。
「まったく愚かだ……死を予告する妖精バンシーにでも、我は気に入られたのだろうか。
今宵を迎える事なく、1日に2度も命を散らす羽目になるとは。フハハ……まぁこのまま生き恥を晒すより、甘んじて死を受け入れ……」
「――『ワンサイド・ブラックホール』」
コジルドの悲嘆を、突然レアコードの詠唱が遮った。
すると忽ちコジルドの目前に、闇を思わせる漆黒の魔法陣が出現。
「なっ! これは!」
コジルドの無念を裏切るように、続々と飛んでくる無数の矢を、魔法陣がブラックホールのように造作もなく吸い込んでいく。
「フフッ、失礼。助ける気なんて更々なかったけど、気が変わったわ。
ねぇコジりボッチ、どうかしら? 消えた方がマシなくらい恥をかいたのに、生き残れた気分は」
魔法陣を持続させるように手を翳したまま、意味あり気に不敵な笑みを浮かべるレアコード。
なんて酷いドライモンスターだ。肉体的に助けたとは言え、精神的に殺すなよ……!
静かに空っぽの瞳をレアコードに向けるコジルドを、尻目に掛けていた最中。
「――ンーディオ様! 回復の度合いは!?」
レアコードの魔法陣で死角になった勇者パーティサイドから、シノの声が聞こえてきた。
「右手は動く! マイル、回復はもういいぞ」
「ご、ごじゃりゅ!」
向こう側の会話を聞く限り、ンーディオは動けるだけの応急処置を済ませたのだろう……。
「シノ、オメェはもう引け! 後はオレが時間を稼ぐ。気に食わねぇが、戦術的撤退だ。
て言うかシノ、大口叩いた割に誰ひとり倒してねぇじゃねぇか!」
「すすす、すいませんでした!」
シノの謝罪と共に、絶え間なく飛んで来ていた矢の連射が、ピタリと止んだ。
「レアコード、こちらも魔法を解いて大丈夫だろう。助かったぞ」
「そのようですね」
俺の指示にすんなりと了承した様子で、レアコードは翳していた手を下ろし魔法を解除した。
そして魔法陣が消失するなり、死角で見えなかった勇者パーティの姿が現れる。
「もう、立ち上がれるまで回復したのか。体力までバケモノかよ……」
見ると勇者パーティは再び集結しており、ンーディオは荒息を吐きながらも立っていた。しかし左手を負傷したままなのか、プラリと力なく下に垂らしている。
「ハァ、ハァッ。イマシエル、あれを出せ!」
「承知です!」
ンーディオからの指示を受けるなり、大きなカバンを漁りだしたイマシエル。
するとカバンの中から一振りの剣を取り出し、ンーディオへと手渡した。
その途端、俺の背後で。
――ドサッ……。
誰かが、崩れ落ちる音がした。
音に反応し後ろを振り向くと、ギョッと目を見開いたデュヴェルコードが、地面に尻餅をついていた。
「どうした、デュヴェルコードよ」
「…………………………」
俺の問いかけに、ダンマリのデュヴェルコード。何やらモゴモゴと口を動かし、指を差しながらアピールしてくる。
まさか、待っているのか? 喋ってもいい許しを……!
俺はただ、大人しくしてくれと言っただけなのに……。
「静かだと思えば……いいぞ、発言を許可する」
「ロース様っ!! あれはっ、あれはっ!!」
暫く黙っていた反動なのか、デュヴェルコードは溜まりに溜まった声量で叫んできた。
「ちょっ、声量……! あれはって、ンーディオの持つ剣を知っているのか?」
「あれは、あの剣は………………ま、魔剣……!」
「はぇっ!? 魔剣!? 勇者がっ!?」
勇者が持つには不相応すぎる武器に、俺は驚きを隠せなかった。




