15話 悪徳魔法3
「コジルドよ、お前が戦う気か? そんなUV対策みたいな格好をしているお前が?」
「ユーブイ……とは存じ上げませぬが、その通りですぞ!
あんな変態キューピットなど、我の手に掛かればひと突きですな!」
念のために聞き直した俺の質問に、堂々と答えてきたコジルド。
「ちょっと、誰がキューピットよ! 私はアーチャーよ!」
コジルドの申し出に、シノは弓矢を構えたまま大声で訂正を入れてきた。
キューピットは否定しても、変態の方は否定しないんだな……!
シノのリアクションに反応を示す事なく、コジルドは数歩前に出るなり、俺たちの方を振り返る。
「ロース様、そして貴様ら姉妹よ、我の言葉に耳を傾け!
変態キューピットの放つファーストアローが過ぎ去るまで、誰も動くでないぞ! 動かねば、どうせ当たらぬからな!」
「………………それはこの場にいる全員が、既に知り尽くしている事だぞ。
それより私は、お前の方が遥かに不安なのだが。コジルドよ、お前にとって不利な戦場で、本当にひとりで戦えるつもりなのか?」
「フハハッ! 我にかかれば、ひと突きですぞ! しかし我にとって、アウェーなフィールドである事は事実。真剣に一撃しか打てそうもない故、文字通りひと突きで決めるしかないですがな!」
コジルドは高らかに笑い声を上げながら、俺たちに背を向ける。
なぜコイツは、そんな状況で堂々と大役を買って出たんだ? 不安しかないんだが……!
「おいっ、変態キューピット! 貴様如き的の外し屋に、勝ち目など微塵もないと知れ!
この自惚れし、勇者のスワンが!」
勇者のスワンって、右腕だろ。スワンだと勇者の白鳥じゃないか……!
「誰が外し屋よ! その醜い魔族面、絶対に射抜いてやる!」
怒声を放つシノに向かい、コジルドは人差し指を差す。そして定番通り、素早く人差し指を折り畳み、小指でシノに指を差し直した。
「貴様のファーストアローは、自然と必ず外れる。そしてネクストアローのリロードに費やす隙を見計らい、我が愛槍でひと突き。これでデュエルは決するのだよ!
フハハッ! 我も一撃の際、一瞬だけ日光に晒され弱体化はするが、ハンデにもならぬ! 貴様を貫くのに、一撃あれば十分!」
既に勝利を確信したように、意気揚々と熱弁するコジルド。
今の戦略を聞く限りだが、確かにコジルドの透察は正しいのかもしれない。
いくら魔王城が完全攻略されたとは言え、それを成し得たのは司令塔であるンーディオの存在が大きいはず。ならばンーディオが戦闘不能である今、コジルドでも勝てると言える。
もしもシノの言う策が俺との一対一であり、それ以上の秘策がないのであればだが……!
「分かった、お前に一任しようコジルド。ただし、予定外の事態に陥った場合は……。レアコード、サポートしてやれ。お前が適任だろ」
俺は指示を出すなり、レアコードへと顔を向けた。
「却下ですわね、死んでも御免かしら」
「おい……今は感情抜きで共闘しないか……!」
全くコイツは、勇者パーティの均衡が崩れた今がチャンスだと言うのに……!
「フハ、フハハッ……。貴様の手を借りずとも、我ひとりでフィールドを制するさ」
コジルドは俺たちに背を向けたまま、自作したサンシェードから槍を外す。
そして槍を両太ももで器用に挟み、空いた両手で自身のマントを頭巾のように頭に巻き付け、顎の下で端を縛った。
まるで今から畑を耕す、農民みたいだ……!
「おいっ! そこのヴァンパイア、舐めてんの!? 私を前にして槍を股下なんかに構えて、それで愛棒とか抜かす気!?
言っとくけど、ンーディオ様の方がもっと立派で逞しい……」
「貴様はバカかっ!! 頭の中サキュバスなのか! 我ともあろう紳士が、こんな槍構えをする訳がなかろうに!」
霰もない事を口走るシノを遮り、コジルドは怒声を飛ばしながら透かさず槍を構えた。
右手で槍を持ち、狙いを研ぎ澄ますように左手と槍先をシノに向ける。
そして……。
「――光の速さで、お前を射抜く! 『シャイニング・アロー』!」
シノは詠唱と共に、こちらを目掛け矢を放ってきた。
その矢は読んで字の如く、ピカピカと輝きを帯びた一矢だった。思わず背筋が寒くなるほど鋭く光る矢先が、俺の恐怖心を湧かせる。
だが皆の期待を裏切る事なく、目で捉える事も難しい速度の一矢は……。
――ヒュンッ…………。
隙間を掻い潜るように、俺たちに当たる事なく光の速さで通過していった。
分かってはいたが、こんな避けようもない大技を止まっている的相手に外すとは。いつにも増して、残念な女だ……!
しかし、呑気に敵を哀れんでもいられない。シノも次の攻撃は、確実に命中させてくるはず。
「――お膳立て、ご苦労であった……」
シノの矢が通過した直後、コジルドの目つきが変わった。寸分の違いも許さない、ターゲットを狙うスナイパーのように。
「息絶えるまで、貴様から抜ける事のない恐技。一撃限定、『酷深い死中』……!」
何やら美味しそうな洋食風の技名を唱えた途端、コジルドの構える槍が禍々しいオーラを纏い始めた。




