表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
134/304

15話 悪徳魔法3





「コジルドよ、お前が戦う気か? そんなUV対策みたいな格好をしているお前が?」


「ユーブイ……とは存じ上げませぬが、その通りですぞ!

 あんな変態キューピットなど、我の手に掛かればひと突きですな!」


 念のために聞き直した俺の質問に、堂々と答えてきたコジルド。


「ちょっと、誰がキューピットよ! 私はアーチャーよ!」


 コジルドの申し出に、シノは弓矢を構えたまま大声で訂正を入れてきた。

 キューピットは否定しても、()()の方は否定しないんだな……!


 シノのリアクションに反応を示す事なく、コジルドは数歩前に出るなり、俺たちの方を振り返る。


「ロース様、そして貴様ら姉妹よ、我の言葉に耳を傾け!

 変態キューピットの放つファーストアローが過ぎ去るまで、誰も動くでないぞ! 動かねば、どうせ当たらぬからな!」


「………………それはこの場にいる全員が、既に知り尽くしている事だぞ。

 それより私は、お前の方がはるかに不安なのだが。コジルドよ、お前にとって不利な戦場で、本当にひとりで戦えるつもりなのか?」


「フハハッ! 我にかかれば、ひと突きですぞ! しかし我にとって、アウェーなフィールドである事は事実。真剣に一撃しか打てそうもないゆえ、文字通りひと突きで決めるしかないですがな!」


 コジルドは高らかに笑い声を上げながら、俺たちに背を向ける。

 なぜコイツは、そんな状況で堂々と大役を買って出たんだ? 不安しかないんだが……!


「おいっ、変態キューピット! 貴様(ごと)まとの外し屋に、勝ち目など微塵みじんもないと知れ!

 この自惚うぬぼれし、勇者の()()()が!」


 勇者のスワンって、右腕うわんだろ。スワンだと勇者の白鳥じゃないか……!


「誰が外し屋よ! そのみにくい魔族(づら)、絶対に射抜いぬいてやる!」


 怒声を放つシノに向かい、コジルドは人差し指を差す。そして定番通り、素早く人差し指を折りたたみ、小指でシノに指を差し直した。


「貴様のファーストアローは、自然と必ず外れる。そしてネクストアローのリロードについやすすきを見計らい、我が愛槍あいそうでひと突き。これでデュエルは決するのだよ!

 フハハッ! 我も一撃の際、一瞬だけ日光にさらされ弱体化はするが、ハンデにもならぬ! 貴様をつらぬくのに、一撃あれば十分!」


 既に勝利を確信したように、意気揚々(ようよう)と熱弁するコジルド。

 今の戦略を聞く限りだが、確かにコジルドの透察とうさつは正しいのかもしれない。

 いくら魔王城が完全攻略されたとは言え、それを成し得たのは司令塔であるンーディオの存在が大きいはず。ならばンーディオが戦闘不能である今、コジルドでも勝てると言える。


 もしもシノの言う策が俺との一対一であり、それ以上の秘策がないのであればだが……!


「分かった、お前に一任しようコジルド。ただし、予定外の事態におちいった場合は……。レアコード、サポートしてやれ。お前が適任だろ」


 俺は指示を出すなり、レアコードへと顔を向けた。


「却下ですわね、死んでも御免ごめんかしら」


「おい……今は感情抜きで共闘しないか……!」


 全くコイツは、勇者パーティの均衡きんこうが崩れた今がチャンスだと言うのに……!


「フハ、フハハッ……。貴様の手を借りずとも、我ひとりでフィールドを制するさ」


 コジルドは俺たちに背を向けたまま、自作したサンシェードからやりを外す。

 そして槍を両太ももで器用にはさみ、空いた両手で自身のマントを頭巾ずきんのように頭に巻き付け、あごの下ではしを縛った。

 まるで今から畑をたがやす、農民みたいだ……!


「おいっ! そこのヴァンパイア、舐めてんの!? 私を前にして槍を股下なんかに構えて、それで愛棒とか抜かす気!?

 言っとくけど、ンーディオ様の方がもっと立派でたくましい……」


「貴様はバカかっ!! 頭の中サキュバスなのか! 我ともあろう紳士が、こんな槍構やりがまえをする訳がなかろうに!」


 あられもない事を口走るシノをさえぎり、コジルドは怒声を飛ばしながら透かさず槍を構えた。

 右手で槍を持ち、狙いをますように左手と槍先やりさきをシノに向ける。


 そして……。



「――光の速さで、お前を射抜いぬく! 『シャイニング・アロー』!」


 シノは詠唱と共に、こちらを目掛け矢を放ってきた。

 その矢は読んで字の如く、ピカピカと輝きを帯びた一矢だった。思わず背筋が寒くなるほどするどく光る矢先が、俺の恐怖心を湧かせる。


 だが皆の期待を裏切る事なく、目でとらえる事も難しい速度の一矢は……。


 ――ヒュンッ…………。


 隙間をくぐるように、俺たちに当たる事なく光の速さで通過していった。

 分かってはいたが、こんなけようもない大技を止まっているまと相手に外すとは。いつにも増して、残念な女だ……!


 しかし、呑気のんきに敵をあわれんでもいられない。シノも次の攻撃は、確実に命中させてくるはず。



「――お膳立ぜんだて、ご苦労であった……」


 シノの矢が通過した直後、コジルドの目つきが変わった。寸分のたがいも許さない、ターゲットを狙うスナイパーのように。


「息絶えるまで、貴様から抜ける事のない恐技きょうぎ。一撃限定、『酷深こくぶか死中しちゅう』……!」


 何やら美味しそうな洋食風の技名を唱えた途端、コジルドの構える槍が禍々(まがまが)しいオーラをまとい始めた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ