14話 新技炸裂8
ンーディオに向け『エクスプロージョン・ハンマー』を放つなり、俺の右腕は爆裂の威力により跡形もなく吹き飛んだ。
「無い、無いっ! 腕が、腕がぁー!」
俺は耐え難い激痛と右腕を失った動揺から、魔王には似合わない程の叫声を上げる。
女神エリシアに授かった、この世で唯一無二の魔法『エクスプロージョン・ハンマー』。
その魔法の正体は、相手に絶大なダメージを与えると共に、放った本人の腕を跡形もなく吹き飛ばすと言う……。
「こんなのアリかよ! いでぇーーーっ!」
暴利並みの犠牲を伴う、ハイリスク魔法だった……!
「ロース様っ! 何をぼんやりとしているのですか!
早くこちらへお戻りを、撤退を!」
痛みに苦しむ最中、背後からデュヴェルコードの叫び声が聞こえてくる。
片腕が吹き飛んだのに、何がぼんやりだ。どう見ても死に物狂いだろ……!
「ロース様っ、早く! 手遅れになる前に!」
「クソッ、クソがぁー! いでぇー!」
俺は後ろを振り返るなり右肩を左手で押さえ、デュヴェルコードたちの元へと走りだす。
両目から、大粒の涙を流しながら……。
だが情けないなんて考えるな、今は生き恥より生き延びる事を考えろ。
独断で攻撃を仕掛けた挙句に負傷し、配下に助けを求めて泣きながら走り去る魔王の姿は、かなり情けないが……!
それでも今は、情けないなんて考えるな、俺!
霰もない逃走劇の末、俺はデュヴェルコードたちの元へと辿り着いた。
そして荒息を吐きながら、地面に片膝を着く。
「ロース様、焦げた肩から煙が! あ、熱いですか!?」
「フフッ。お体を張った一発ギャグ、お疲れ様でした。まるで森の中で迷子になった子供が、親を見つけて駆け寄るような、泣きっ面と全力疾走でしたわね」
俺が逃げ帰ってくるなり、次々と場違いな発言を口にしてくるデュヴェルコードとレアコード。
「貴様ら、少しはかける言葉を考えぬか! 今は先ほどの爆裂パンチについて、ロース様から詳しくお話を聞くのが先であろうに!」
介抱するように俺の背中を摩り、ダークエルフの姉妹に怒声を放つコジルド。
「コジルド、お前もかける言葉を選べ! 腕が吹き飛んで瀕死の真っ最中だと言うのに、パンチの謎に迫ろうとするな!」
「は、はいっ。ご尤もですな……」
「それより、ハァ、ハァ……。デュヴェルコードよ、治癒だ、早く治癒を頼む!」
俺は残った左腕で涙を拭い、デュヴェルコードに振り向く。
「えっ!? チ、チュー……?」
「………………チューじゃない! 治癒だ、回復だ! こんな片腕が吹き飛んだ状況で、どんなメロドラマが始まるって言うんだ!」
「も、申し訳ありません! ロース様の滑舌が悪かったもので、聞き取り辛く……直ちに! 『ヒール』、『ヒール』!」
デュヴェルコードは俺に手を翳し、連続で治癒魔法を唱え始めた。
死にかけの重症者相手に、滑舌のダメ出しなんてするなよ……!
「まったくお前は……! 先ほどまで四天王のドーに、『ヒーラーはもたついたらダメ』だとか教示していただろ……」
俺はデュヴェルコードの治癒魔法を浴びながら、ポケットに入れていたある小瓶をそっと取り出した。
そう、先ほどレアコードから渡された、あの再生薬を……。
「あらあら、ロース様。開けて差し上げますわ」
「…………ありがとう」
見透かしたような笑みを浮かべるレアコードに、俺は渋々と小瓶を手渡す。
――キュポ……。
レアコードは艶やかな美しい手指でコルクの栓を抜き、優しく差し出してきた。
俺はそれを敢えなく受け取り、再生薬を素早く飲み干す。
「レアコードよ、その意味深で惜しみない笑顔はなんだ……?」
「フフッ、いいえ別に。でも良かったですわね。あたくしの持って来たアイテムが、早速お役に立って」
「なんだかお前の笑みからは、役に立てた達成感よりも、悪意に満ちた満足感の方が強く感じられるぞ……」
ご満悦そうなレアコードに不審な目を向ける最中で、俺の右腕がゆっくりと再生を開始した。
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