2話 転生事変7
ガラの悪いゴブリンを、チリも残さず燃やし尽くしたデュヴェルコード。
「聞いてくれ、デュヴェルコードよ。私への無礼を罰するのはいいが、今のは度がすぎるぞ。
あれでは反省する暇もなく、死を迎えるだけだ。もっとこう、希望とか慈悲を与えてだな」
「はい……ご命令とあらば……。さすがに、2発目はやりすぎました」
しょんぼりと顔を下げ、反省の様子を示すデュヴェルコード。
2発目どころか、1発目で既にやりすぎだったぞ。口が悪いだけで、普通あんなに燃やすか……?
「今後気をつけるのなら、それでいい。
ところで、先ほどの放送を聞きつけて、ここへ来たのは私たちだけか?
誰もいないが、勇者の右腕に恐れをなしているのか?」
「もちろん、恐れもあるのですが……。根源を申しますと、現在魔王城は多大な戦力不足と、人手不足に陥っているのです」
デュヴェルコードは顔を上げ、訴えかけるような視線を向けてきた。
人手不足とは、不景気なのだろうか。魔王城という響きからして、ホワイト企業感はなさそうだが……。
「景気が悪いのか?」
「そんな生ぬるい状況ではございません。壊滅寸前です」
「壊滅って……まさに、滅びそうって事か!!」
「……………………あぁ、はいっ。声量と勢いの割に、単語を言い換えられただけでしたので、ちょっと固まってしまいましたが。
敵軍、つまり人族の猛攻に圧され、わたくしを除き、残ったのはカスばかり……。先ほどのゴブリンのように、カスみたいな者が数体しか、城に残っておりません」
悪状況なのは理解できたが……。
同胞をカス扱いかよ。それに……!
「『わたくしを除き』って……。その言い方だと、魔王である私まで、カス枠に入っているように聞こえるぞ」
「何をパカな事をおっしゃいます! ロース様はカスではなく、記憶を失くされて、今は使えないだけです!」
………………つまり、カス枠じゃないか。
悪気がない分、リアルカス扱いされた気がする……!
「記憶がお戻りになれば、ロース様はきっと魔王としての力を発揮されます!
記憶の方は、追々思い出していただくとして。まずは手短に、ロース様の記憶にない近況、つまり昏睡なされていた間のお話を……」
デュヴェルコードは祈るように、胸の前で両手を組んだ。そして、静かに目を閉じ。
「『アトモスフィア・クラシック』……」
柔らかく、魔法を唱えた。
すると……。
どこか悲しみを誘う、切なげな楽曲が周囲に流れ始めた。
なぜ雰囲気の出る演出を? ここはブロードウェイの特等席かよ……!
「デュヴェルコードよ、そこまで求めていないぞ。雰囲気の演出はいいから、普通に口頭で教えてく……」
「――それは、魔王ロースが眠りにつき、しばらくしての事だった……」
ダメだ。幼い役者さんが、魔王フル無視でひとり舞台を始めた……。
「この地では、魔族と人族による争いが、長年続いていました。
長きに渡る戦いの最中……。魔王軍の頭脳であるロース様が突然、長い眠りにつかれたのです。わたくしに、あるひと言を言い残して……。
指揮官を失った魔王軍にできる事。それは城を守り、ロース様をお守りする事のみ。
ロース様がお目覚めになる、その日まで…………。
しかし、ロース様の昏睡からしばらくして、タイミングを計ったように、ひとりの人物が戦況を激変させました。
そう……。魔王軍を脅かす、ひとりの存在が……!」
両手を組み、目を瞑りながら話を続けるデュヴェルコード。
そんな語りに、俺は少しずつ話に引き込まれていた。
たまに薄目を開けて、チラチラと俺に視線を向けてくるのが気になるが……。
なんだか、小動物みたいだ。
俺は静かに固唾を飲み、話の続きを待った。




