14話 新技炸裂6
「デュヴェルコード、レアコード! 今だっ、やれ!」
俺はふたりに気合を込めた指示を出し、勢いよく身構えた。
あの罰当たりでふざけたチンピラ勇者に、デストローガンの死を償わせてやる!
そして教えてやる。ンーディオの言う俺のハッタリが、今やハッタリでない事も……!
俺はこれから起こりうる衝撃に備え、全身にグッと力を込めた。
すると同時に、ンーディオの構えた聖剣が眩く光り始める。
「何をしている、デュヴェルコード! 好機を逃すぞ!」
「は、はいっ……もうっ、どうにでも! 『クリスタルドーム』!」
デュヴェルコードが魔法を詠唱するなり、俺の体を包み込む球状の結晶が出現した。
そして、間を置く事なく……。
「無謀すぎて心配ですけど、フフッ。お好きにどーぞ。『トゥレメンダス・フレアバースト』」
デュヴェルコードの後に続き、背後からレアコードの詠唱も聞こえてきた。
何がお好きにだ。心配しているのなら、その薄ら笑いは止めろよ……!
レアコードの詠唱と共に、結晶の表面を乱反射しながら、強い閃光が後方から伝わり始め。
――ドォーーーンッ!
耳を劈くほどの激しい爆音が、俺の背後から響いた。
そのまま爆発の衝撃に逆らう事なく、俺の体は結晶ごと前方に吹っ飛ばされた。
「ロース様ぁ! 我は何をすればっ……」
俺が飛んでいく最中、何やら背後からコジルドの焦る声が聞こえたが……。
躊躇なく無視していると、勝手に声は掻き消えた。
「ちゃんと当たってくれよ、俺の新技……!」
俺は結晶の中で、飛んでいく勢いに体勢を崩されないよう、小さく体を動かしながらバランスを保つ。
レアコードの放った爆発魔法が想像していた火力よりも強く、俺は瞬く間にンーディオとの距離を縮める事ができた。
この速度なら、ンーディオが一撃を放つより早く、こちらが先制を打ち込めるかもしれない……!
そう思った矢先に。
「ハハッ! そう来る事も想定済みなんだよ、脳筋魔王が! 馬鹿のひとつ覚えみてぇに突っ込んで来やがって!
剣技『カプリシャス・バイオレンス』!」
ンーディオが剣技を唱えた途端、構えられた聖剣の放つ光が、瞬時に色を変えた。
先ほどまでの神々しい光とは打って変わり、毒々しさを思わせる黒い光へと切り替わる。
俺の知らない剣技だ。
毎度の事だが、当たり前のように勇者が物騒な剣技を使うなよ。直訳したら『気まぐれの暴力』じゃないか……!
危機感が芽生えるも、構う事なく俺の体は結晶と共に真っ直ぐ飛んでいく。
そしてンーディオもお構いなしに、迫る俺へと聖剣を振ってきた。
「逆にしてやられて、どうすんだ……!」
ンーディオの振り切った聖剣から、黒い斬撃の衝撃波が出現し。
――ギギギギギギギィ……!
俺を包む結晶に真っ向から打ち当たり、金切音を立てながら激しく競り合う。
衰える事のない衝撃波に耐え切れなくなったのか、次第に結晶は正面からヒビ割れ始めた。
「このままでは、耐え切れ……!」
「――『トゥレメンダス・クリスタルドーム』」
焦りを呟いた途端、背後からデュヴェルコードの詠唱が聞こえてきた。
すると間一髪のところで、ヒビ割れた結晶の周りを更に新しく頑丈そうな結晶が包み込み、正面からの攻撃を防いでくれた。
凄まじくナイスなフォローだが……。
普段は全く気遣いのないウチの側近が、なぜ守りに徹する時だけ、異様に気が利くのだ? 未だに目を離せない雑魚だと思われている気がする……!
デュヴェルコードのフォローが功を奏し、鉄壁の守りによって剣技の衝撃波は軌道を変え。
――ヒューンッ……。
どこか上の方へと、逸れていった。
「デュヴェルコード、解放しろ!」
俺はンーディオから視線を逸らさず、デュヴェルコードに指示を出す。
「はいっ、『クリスタル解除』!」
デュヴェルコードの号令と共に、全ての結晶は消滅した。
同時に俺は地面に着地し、そのままンーディオを目掛けありったけの脚力を使い初速を切る。
「ハハッ! 怪力任せも大概にしやがれ! 単純な拳打なんて、余裕でガードできんだよ!」
ンーディオは俺が懐に飛び込む前に、素早くガードの体勢を取った。
やはりンーディオは、俺が上級魔法を使えないと思い込んでいる。ならばこの一撃が、最大で唯一のチャンスだ……!
俺は一気に加速し、ンーディオに一撃を打てる間合いに入った。
そして胸を張り、グッと右手を振り被る。
今回ばかりは、あの邪女神に感謝しなければな……。
――エリシアさん、俺に唯一無二の最強パンチを授けてくれて、ありがとう。
「食らえ、ンーディオ! 『エクスプロージョン・ハンマー』!」
振り被った右手に魔法陣が出現し、俺の拳に爆裂魔法が宿った……!




