14話 新技炸裂4
――今……俺の闘争心に、火が付いている。
勇者ンーディオの身勝手により、デストローガンは斬殺された。ンーディオはその行為を詫びようともせず、反省の色も見せてこない。
これは紛れもなく、怒りから来る闘争心だ……!
今だけは引いてはならないと、俺の中にある正義感が訴えてくる。
だが……。
「戦況が、非常に不利だ……」
期待外れにも、デストローガンは蘇生できない。戦力として申し分ないコジルドも、日差しの下でまともに戦えるか不明。
ついでに、四天王も走り去ったまま、戻ってくる様子もない。戦力になるかは別としてだが。
少しでも敵との戦力差を埋めたい今、打てる手と言えば……!
「コジルドよ、お前にまた別任務を与える!」
俺はコジルドに向け、大きく手の平を広げた。
「好きですな、別任務。それだけ我に信頼を置かれての事でしょうが! フハハッ!」
「あぁ……そうだ……」
嬉しさを隠そうとしているのか、ぎこちなくニヤニヤとした笑顔を浮かべるコジルド。
本当は、誰に頼んでもいい内容なのだが……。
「それで、その別任務とは? また隠し球ですかな?」
「いやいや、この現状で隠し球の有効性が、本当にあると思うか? 既に隠れていないのに」
「では、どう言った別任務で?」
「レアコードを呼んでこい、大至急だ!」
俺はコジルドから目を逸らさず、魔王城に指を差した。
コイツを指名した理由は、選り好みではない。コイツがここに居ても、日光の影響で役に立つのか不安だったからだ……!
「ロース様、それだけはお断りですぞ!」
「はっ? 何をゴネているんだ、こんな緊急事態に!」
「貴公子のロース様には分かりますまい! 我がおつかいですと? それも、あのダークエルフを呼びに!?
そんな役目は、姉妹であるこの側近小娘にやらせておけば良いですぞ! 見た目も『おつかい向け』であるゆえに、ピッタリではないですか!」
コジルドは引き下がる事なく、デュヴェルコードに指を差した。
するとデュヴェルコードは冷め切った表情で、紫のオッドアイを光らせ始める。
「コジルドさん、わたくしの見た目が『おつかい向け』という件に関して、詳しくお聞きして宜しいでしょうか……?」
「おい待てっ! お前たち、敵を目の前にして言い争っている場合か!
デュヴェルコードよ。ひとまずお前は、その物騒に光るオッドアイを鎮めろ!
コジルドは、さっさとレアコードを呼びに行け! デュヴェルコードに消される前に!」
俺は無駄な言い合いを収めるため、ふたりの間に入り、力尽くで双方を引き離した。
「例えロース様からの緊クエ依頼であろうと、あんな超絶美しく性格の悪い魔物を、呼びになど行きたくありませぬぞ!」
コジルドは目を血走らせ、一向に引き下がる様子を見せなかった。
そんな時……。
――コッ、コッ、コッ……!
大扉の方から、聞き覚えのある魅惑的なヒール音が聞こえてきた。
「――あたくしだって、そこのヴァンパイアに呼びに来られるのは御免かしら。このコジったひとりボッチ……!」
両腕を胸の前で組み、腰に魔剣ウィケッドを装備したレアコードが、大扉から姿を現した。
「タイムリー……! 我が出向くまでもなく、呼ばずとも来るではないか。フンッ、我の読み通りだ、この寂しがり屋め」
文句を言いながらも、嬉しげな表情を浮かべるコジルド。
何が読み通りだよ、呼びに行く役を他人に擦りつけようとしたくせに……!
「コジルドよ、お前が寂しがり屋を語るな……!
しかし呼ばれずとも参上してくれるとは、全く恐ろしい察しの良さだな、レアコード」
感心するように眼差しを向けていると、レアコードがこちらへ歩みを寄せ始めた。
「レアコードよ、来てくれて助かったぞ。それに、言わずとも装備を整えて来るとは、流石としか言いようがない」
「当然ですわ。外が騒がしかったので、窓からずっと様子を見下していましたから」
「………………見下すなよ、せめて眺めてくれ」
「あらっ、それは失礼しましたわ。それよりロース様、こちらも持参しましたので、宜しければお役立てください」
俺の前まで歩み寄るなり、レアコードは不敵な笑みを浮かべ、何やら小さな瓶を差し出してきた。
「何だ、この小瓶は」
「これは『再生薬』の小瓶ですわ。レア度の高い回復薬です」
「な、何でこんな代物を私に……」
「フフッ。そろそろあの勇者に、腕の1本でも切り落とされる頃かと思いまして。
しかし、勘違いはなされないで。これは皮肉ではなく、備えですから」
レアコードは俺を揶揄うように、小瓶をクイクイと見せつけてくる。
コイツに心配されても、思いっきり皮肉としか捉えられないんだが……!
「お前は本当に、流石だな……余計な意味で」
俺は顔を引き攣らせながら、悪意満載の小瓶を渋々と受け取った。