14話 新技炸裂2
デストローガンの死後、突如として正門に現れた勇者パーティ。
「やはり、アイツの仕業か。ンーディオ……!」
俺は正門に立つンーディオに、鋭い視線を飛ばす。
お馴染みのパーティメンバーを連れ、肩に聖剣エクスクラメーションを担いでいるンーディオ。
担がれた聖剣は、感嘆符のような真っ赤な剣身を剥き出し、不祥を思わせる輝きを放っている。
「ロース様、お聞き願いますぞ」
「なんだコジルド、何か気付きでもあったのか?」
隣でボソボソと話しかけてきたコジルドに、俺も同じ声量で返答する。
「アンサー……! そうです、我はピンと来ましたぞ。このトカゲを斬殺した、クリミナルの正体が……。
恐らく、あの二流勇者だと思われますぞ」
「………………あ、あぁ」
「コジルドさん、こんな時まで痛々しい発言をしないでください。そんな事、ロース様もわたくしも、とっくに気が付いています」
デュヴェルコードの指摘に、一瞬だけ固まるコジルド。
そして何かを悟った様子で、静かに空を見上げた。
「ジーザス……! どうやら我の嗅覚は、心なしか鈍っているようだ。
フハハッ……恐ろしき、病み上がり」
「お前は確かに、病み上がりかもな」
拗らせが仕上がっている方の意味でだが……!
空を見上げるコジルドを放っておき、俺は勇者パーティのいる正門へと体勢を向けた。
「おいっ、ンーディオ! ひとつ答えろ、このデスト……このドラゴンを手に掛けたのは、お前たちか!?」
俺は拳をグッと握り締め、ンーディオに問いかける。
するとンーディオは、わざとらしく笑みを浮かべ。
「ハハッ! 軽くワンパンだったな!」
肩に担いだ聖剣を、地面へと派手に振り下ろした。
「なぜっ……軽々しくそんな事ができる……」
俺が心苦しさを口にするなり、ンーディオは下目遣いで不適な笑みを浮かべた。
「決まってんだろ、オレが強いからだ!」
「………………いや、そういう意味ではない。精神面を聞いたつもりだったんだが、間抜けた返答だな……」
俺のダメ出しに、ンーディオから微かな舌打ちが聞こえてきた。
「やっぱテメェみたいなバカとは、話も噛み合わねぇな。物事はストレートに言いやがれ。奥歯に物でも挟まってんのか、脳筋魔王が」
空いた片手で、頭を掻きむしるンーディオ。
話が噛み合わないのは、こっちの台詞なんだが……!
イライラとした様子を見せるンーディオの隣で、勇者の右腕であるシノが、ゆっくりとンーディオの背中を摩り始める。
「ンーディオ様。魔族と話してイラつくお気持ちは分かりますが、ここは聳り立つ怒りを抑えてください」
「なんだとゴラァ、横から下品なブレーキかけてんじゃねぇよ!」
「すいません! 私はただ、ンーディオ様がブチギレたら何を仕出かすか分からないので、未然防止を試みただけです!」
ンーディオの背中を摩り続けながら、勢いよく直角のお辞儀を見せたシノ。
しかし下げた頭がンーディオに当たらないよう配慮したのか、なぜかシノのお辞儀は、正面である俺たちの方へ向いていた。
傍から見ると、頭を下げない不良の代わりに、謝罪してくる保護者みたいだ……!
「ハハッ! シノよぉ、変な心配しすぎだ。間違っても、オメェたちハーレムメンバーに危害なんて加えねぇよ」
ンーディオは途端に笑顔を取り戻し、スッとシノの手を振り払った。
コイツは忘れたのか……?
俺と初めて会った時、自分の放った一撃でパーティ全員を瀕死に追いやっていただろ……!
ンーディオはシノの手から逃れるなり、1歩だけ前に出てきた。
「ハッキリと教えといてやるよ。テメェが知りたがっていた、もうひとつの真実をな……!」
意味深な笑顔を浮かべ、ンーディオは真っ直ぐ俺を見つめてきた。
真実って、そんなに何個もあっていいのか? 普通はひとつだと思うが……!
「深掘りするほど知りたい訳ではないが……。まだ胸の内に秘められた思いがあるのなら、この場で聞いておこう。
なぜこんな悲惨な事が、軽々しくできる」
「ハハッ! なんかオレの上を、飛んでたからだよ」
「…………は?」
ンーディオの返答を聞くなり、俺の眉がピクリと反応した。
「なんか飛んでたからよぉ、気になって剣技『アブノーマル・デンジャラス』をカマしてみただけだ。そしたら当たって吹っ飛んだ。
ハハッ! このドラゴンからしたら、冥土の土産になったかも知れねぇな!」
空いた片手をポケットに入れ、再び聖剣を肩に担いだンーディオ。
毎度思うが、なぜこんなヤツが勇者なのだ。戦闘に長けただけのチンピラに、大役を任せるなよ人族……!
「――何だその、ふざけた理由は……!」
ンーディオのヘラついた態度を前に、俺の中にある正義感が、メラメラと怒りを帯び始めた。




