13話 以心伝心11
「コジルド、お前……」
蘇生するなり、まるで記憶を失った様子で俺に叫声を放ってきたコジルド。
「コジルドさん、まさか……! ロース様と同じく、記憶を失ったのですか?
蘇生させただけで、普通そんな事は起こらないのですが……打ち所が悪かったのでしょうか?」
「マジかよ……! お前、本当に分からないのか? ここがどこかも、お前が誰なのかも……」
デュヴェルコードの推察を聞き、俺は堪らず不安が募った。
憤怒の念に駆られたとは言え、俺の一撃で後遺症を与えてしまったとなると、責任の取りようがない……!
「またも『お前』と! 我をお前呼ばわりする貴様! 名を名乗れ、魔王よ!」
コジルドは俺に人差し指を差した途端、透かさず人差し指を仕舞い、小指を差してきた。
「おい、コジルド……!」
俺はそんなコジルドの言動と指使いに、すぐさま直感が働いた。
「お前、記憶あるだろ。なんの芝居だ……?」
俺の追求に、コジルドの肩がギクリッと動く。
「なっ、なんの事であるか……!」
「惚けるな。記憶を失っているのに、なぜ私が魔王だと分かるのだ?
それに、その痛々しくコジった指の差し方はなんだ? 人差し指を差した途端、すぐさま小指に切り替えるそれだよ」
更なる俺の追求にコジルドは目を泳がせ、差した小指を静かに隠した。
「………………まさか貴様、イビルアイでも持っていると言いたいのか?
貴様の探偵ごっこに付き合うほど、我は暇ではないですぞ……!」
「お前、まだ続ける気か? もうバレバレだし、むしろお前の茶番に付き合う暇がないのは、私の方なのだが」
魔眼をわざわざ『イビルアイ』とか言ったり、まんまコジルドじゃないか……!
なぜか途中から、いつもの変な敬語に戻っているし。ただの構ってちゃんに、心配して損した……!
「………………易々とバレたようでありますな」
「途中から、わたくしも気付いていましたよ、コジルドさん」
「なっ! この側近小娘までもだと!?」
「はい。だって声とか、まんまコジルドさんでしたから」
デュヴェルコードは両手を背後で組み、何食わぬ顔で答える。
「デュヴェルコード、そこは関係ないと思うぞ……!
しかしコジルドよ、今のは何のマネだ!? 記憶を失ったフリなど、些か不謹慎と捉えられるぞ!」
「そのですな、今のはロース様の真似を……」
「おい、マジで何のマネだ。別の意味で……!」
なんだか、このツッコミをするのは初めてじゃない気がする。そう……俺の隣にいる、このロリエルフにも言った覚えがある。
どいつもこいつも、嫌味たらしい真似して魔王をイジるなよ……!
「お前、もう1度眠りにつきたいのか!?」
「フィジカル……! ロース様、お待ちを! コンティニューして早々の我としては、もう頭に被弾は遠慮したいですぞ!
この閃きには、正当な理由が! 目覚めたら記憶喪失、なんてレアな体験をリスペクトすれば、物忘れフレンドとしてロース様と更に距離を縮められるかと……目論んだのですぞ」
「何が閃きだ、非常に下らん企みの間違いだろ。
そもそも私が目覚めた時、お前はこの世に居なかったじゃないか。真似にもなっていないだろ!」
「誠に失礼しましたな……。そこまでディープに見抜かれるとは、鋭き推理ですぞ」
コジルドはサンシェードの構えをキープしたまま、片膝を地面につけ頭を下ろしてきた。
「とは言えだな……。お前が弱体化していた状況も把握せず、怒りのまま拳骨を落とした事については、私にも落ち度がある。痛い思いをさせて、すまなかったな」
俺の謝罪に、コジルドがスッと顔を上げた。
「今回はお互い様ゆえ、水に流しましょうぞ! 『死ぬほど痛かった』とは、今の我にこそ相応しい決まり文句ですな! フハハッ!」
気を取り直したのか、いつものように高らかな笑い声を上げるコジルド。
その痛みを与えた俺にとって、笑えないジョークだぞ……!
「み、水に流れたところで、そろそろ城内に戻るか。
先ほどの様子だと、四天王も直ぐには戻って来ないだろうしな」
「おやおや? そう言えばロース様、あの子犬共とトカゲは何処へ?」
「お前の死んでいた間の出来事は、後でデュヴェルコードにでも聞いてくれて」
「承知しましたぞ」
俺たち3人は足並みを揃え、大扉の方へと歩き出した。
そして暫くして、俺はある事を思い出す。
「そうだ、デュヴェルコードよ。先ほどは聞きそびれてしまったが、お前はあのドラゴンに戦力以外の期待を持っていたな。
他に何か役立つ能力でも備わっているのか?」
俺は歩みを止める事なく、隣を歩くデュヴェルコードに聞いてみた。
「そうでしたね! わたくしも無視された事を、今思い出しました」
「いや、あれは無視ではなく、話が途切れただけだと思うが……」
「失礼致しました。わたくしが先ほど驚いたのは、ロース様があのドラゴンを、食用として考えておられなかったからです」
「はっ? 食用って……美味なのか?」
「味は……好みによるでしょうが、ドラゴンとは食用として生まれてきた種族みたいなものです。
その血肉を食らえば、己の戦闘力が跳ね上がると言い伝えられています。ドラゴンが年々数を減らしているのは、食用として狩られているのも原因のひとつです」
「そんな、残酷で身勝手な狩猟が……」
「そうですね……残酷な話です。いったい生き物の命を、何だと思っているのでしょうか……。
ですからロース様も、食されたいのかなって思ったのです」
「いやいや、待て待て! それでは私も残酷で身勝手の一員じゃないか!
ナチュラルに私を残忍サイドに陥れるな。それに……!」
「それに、いかがなさいました?」
「いや、何でもない」
俺は喉まで出かかった言葉を、直前で飲み込んだ。
そして歩きながら、ひとり静かに考え込む。
残酷とか以前に、食いづらいわ……!
さっきまで普通に会話していた相手なのに、『いただきます』なんて言えるか……!
その後は誰も口を開く事なく、俺たちは向かっていた大扉へと到着し、無言のまま城内へと入って行った。
その時……!
――ドオォォォンッ!
背後から、何かが落下したような衝撃音が響いてきた。
「こ、今度はなんだ!?」
俺はその衝撃音に、すぐさま後ろを振り向く。
すると、そこには。
「デ、デストローガン……! なんで……!」
腹部に巨大な傷を負ったデストローガンが、正門前広場で無残に倒れていた。
作品を読んでいただき、ありがとうございます!
「ちょっと面白いかも」「次のページが気になる」と感じましたら、ブックマークやお星様★★★★★を付けていただけますと、大変嬉しいです!
皆様の応援が、作者のモチベーションとなりますので、是非よろしくお願い致します!




