13話 以心伝心10
「デュヴェルコードよ、今なんて?」
「ですから……死んでいますよ、コジルドさん。静かにポックリと」
ツンツンと指でコジルドを突っつき、目を点にして死亡報告をしてきたデュヴェルコード。
そんな予想だにしなかった突然の悲報に、俺の視線は倒れたコジルドに、釘付けとなる。
「ポックリって…………なぜだ!」
「なぜも何も……死因は明らかに、先ほどのロース様が落とした、あの拳骨ですよ」
デュヴェルコードの推理を聞くなり、俺の脳内に先ほどの光景がフラッシュバックした。
「確かに……つい頭に血が上って、制裁の拳を振り下ろしたが……! た、たかが拳骨だぞ?」
「…………久方ぶりに聞きましたよ、ロース様の脳筋魔王っぷりな傲慢発言。
どこが『たかが』ですか。その言い回しをする時点で、もはや狂気です」
依然としてしゃがみ込んだ体勢で、短いスカートを庇いながら、ジッと俺を見つめてくるデュヴェルコード。
だが訴えかけてくる眼差しとは裏腹に、デュヴェルコードはコジルドの至る部位を、指でツンツンと突っつき続ける。
まさかトチ狂ったこの子に、狂気だなんて言われる日が来るとは思わなかった。
しかし……なら尚更に、死体を弄ぶようなツンツンは止めろよ……! 罰当たりで説得力に欠けるぞ……!
「少し大袈裟ではないか? 狂気と言うほどの事でもないだろ……」
「大袈裟ではありません。ご自身と他者のパワーバランスを、甘く見積もらないでください。
ロース様の一撃は、岩壁をも砕く剛腕。戦闘中でもない無防備で弱体化したヴァンパイアに振り翳せば、結果こうなる程の殺戮パン……魔王パンチですよ!
それを『たかが』とおっしゃるなんて、十分狂気に値します」
デュヴェルコードはコジルドに当てる指を、ツンツンからグリグリに変え、説教じみた口調で俺に訴えてくる。
確かにこの子の言う通り、『たかが』とは無責任な発言だったかもしれない。
あの時は怒りにかられ、自分の持つ剛腕を忘れていた……。
「すまなかった。力の振り翳しは反省し、以後気をつけよう。
だがそれとは別件で…………誰の一撃が『魔王パンチ』だ! 他人の恥ずかしい黒歴史を掘り返すな!」
「それは失礼致しました! わたくしにとって、プフッ……お、お気に入りでしたので。
わたくしも以後、気をつけたいと思います」
デュヴェルコードはスッと立ち上がり、笑いを堪える顔つきで謝罪してきた。
「この際だ、もうその情けないネーミングパンチは忘れてくれ。それより……」
俺は足元でご臨終中のコジルドに視線を向ける。
「うっかり屠ってしまった、このコジったヴァンパイアを蘇生してやってくれないか?」
「は、はぁ……」
煮え切らない様子の返事と共に、黄色のオッドアイを光らせ、コジルドに向け手を構えたデュヴェルコード。
「ロース様の落ち度という不本意な形で、非常に魔力がもったいないですが……。
ここは魔王のお尻を拭って差し上げる、健気で優しい側近としての責務を優先して……『リザレクション』」
俺はぐうの音も出ぬまま、詠唱するデュヴェルコードから静かに目を逸らす。
デュヴェルコードが詠唱するなり、コジルドの死体を取り囲むように魔法陣が出現。
お馴染みの淡く優しい光が、コジルドを包み込んでいく。
「キレイな光と魔法陣ですね、ロース様」
コジルドに手を翳したまま、デュヴェルコードはチラチラと俺の方を見てくる。
「そ、そうだな……」
「因みに……この蘇生魔法は魔王城の中でも、わたくししか使えないのですよ」
「そ、そうだったな。素晴らしい力だ……」
「そんな素晴らしい力を、誰か様のしくじりのせいで使っている最中です。誰とは申しませんが。
…………何かおっしゃりたい事がありましたら、どうぞ?」
………………ここぞとばかりに付け込みやがって、このロリエルフ……!
「き、きっと……そのしくじり誰かさんは、この上ない感謝の気持ちで一杯だと思う……ぞ……」
俺は無理やり言わされながら、コジルドとご満悦そうなデュヴェルコードを交互に見つめた。
「ロース様、そろそろ蘇生が完了致します」
「あぁ、手間をかけさせたな」
次第にコジルドを覆っていた光と魔法陣は、薄く消え始め。
「――うぅ……! あぁ、たまが。あぁ、たまが……」
魔法陣の消失と同時に、コジルドがゆっくりと体を起こした。
「変なところで区切るな、『頭が』だろ。復活するなり、第一声が気色悪いぞ。
それで、どうだコジルドよ。復活して身体に変わりはないか?」
体を起こして間もなく、コジルドは俺の顔を見るなり、ハッと表情を変えた。
「こ、ここはどこぞ!? 我は誰ぞ!?」
キョロキョロと周りを確認しながら、取り乱し始めたコジルド。
「ど、どうしたのだコジルド! まさかお前、頭を強打した衝撃で、記憶が飛んだのか!?」
「だっ、だだだ誰だ貴様は! 我に向かって『お前』だと!? この無礼者!」
コジルドはスッと立ち上がり、透かさずサンシェードのマントを構え、警戒する様子で俺を見つめてきた。




