13話 以心伝心9
テーが不吉を思わせる呟きをした途端、デストローガンが大きく翼を広げた。
「「「早まるなーっ!」」」
そんな様子を前に、マー、ボー、ドーの3人は口を揃えてテーに叫びかける。
「あぁ、また怒鳴られた……怖い。もう世界とか、滅びればいいのに……。
やっぱり火山にでも突っ込もう……」
再びテーが呟くなり、デストローガンは広げた翼を扇ぎ始めた。
魔法の手綱を通し指令でも受けているのか、次第に羽ばたく勢いで翼を動かし、デストローガンの足がゆっくりと地面から離れ始める。
「何を吹っ切れた顔してんだ、テー! さっきまで、あんなに楽しかったのに!」
「マーの言う通りだ! 縁起でもない事を静かに呟くなよ! さっきまで、あんなに楽しかったのに!」
「ボーの言う通りだ! 早く降りてこい! さっきまで、あんなに楽しかったのに!」
デストローガンが浮上を始めて焦りを募らせたのか、次々と制止を訴えていくマー、ボー、ドー。
「お前たち……その叫びは違うくないか? どんな引き止め方だよ……!」
「こんな土壇場で、言葉なんて選べませんよ!」
マーはあわあわと慌てた様子で、俺の方を向いてきた。
「いやぁ……少なくとも、『さっきまで、あんなに楽しかったのに』なんて、選ばずして出る言葉か?
土壇場で、敢えて口にしたりしないだろ、普通……!」
絶望や悲観を叫ぶ事はあるが、まだ飛び去ってもいない状況で、わざわざ哀楽のギャップを叫ぶ必要があったのだろうか……?
「早く……早く逃げたい、逃げ出したい。僕なんか、僕なんか……アァァァァーーー!」
テーが爆発するような叫声を放った瞬間。
――バサバサッ……!
デストローガンは空を目掛け、目を見張る速度で急上昇した。
「待てー、テー! 僕たちを置いて飛び立つな!」
「そうだよ! せめて僕たちも乗せろ、抜け駆けするなー! お前そーゆーとこあるよな!」
「そうそう! お前、忘れたのか!? 『できれば優秀なドラゴン使いになりたい』って、僕たちに夢を語っていたじゃないか! 知らんけど!」
できればって……! なんだその、行けたら行く程度の目指し方は……。
「夢っ……今は自由になりたい。無に帰したい」
上空からボソボソと、テーの声が聞こえてきた。
すると浮上したデストローガンが、魔王城とは反対の方向へ前進を始める。
「ヤバいってこれ! ロース様、帰還して早々なのに申し訳ありませんが、テーを追います!」
「そうです、そうです! 僕たちは4人でひとつ! このまま飛び去って行くテーを、見捨てられません!」
「だよね、だよね! テーのいない四天王なんて、四天王じゃないよね!」
マー、ボー、ドーの3人は力強く拳を握り締め、俺の方へ向き直った。
「そ、そうなのか……? なんだかテーだけ、ハブられ感が漂っていたが」
「そんな事ありません! 僕たちは4人でひとつ、4人いないと四天王とは言えません! メンタル的にも、人数的にも!」
「そうです、そうです! 僕たち個々の力は大した事ないけど、4人集まれば無敵です! だからテーが欠けたら、いけません!」
「だよね、だよね! だってテーがいれば、ドラゴンの力を借りる事ができるので! まさに無敵!」
………………それはもはや無敵の四天王と言うより、無敵のドラゴンだろ。
それにデストローガンと話せる俺がいれば、四天王は不要な存在になるんじゃ……。
「個々の力は大した事ないって、完全にドラゴン頼りじゃないか……!
四天王なら、他者に頼らず己の力で戦えよ」
「戦えますよ! 人族の農民や村人なら、ドラゴンなしでも勝てる実力は持ち合わせております!」
非戦闘員への勝利宣言を、自信満々に言ってのけるマー。
やめろよ、みっともない。ただの雑魚狩りじゃないか……!
「とにかく、テーを追います!」
「再会を楽しめず申し訳ありません、ロース様! 僕たちはテーを追います!」
「きっとドラゴンを連れ戻してきます! また後程、再会を楽しみましょう!」
各々に宣言を言い残し、マー、ボー、ドーの3人は正門の外に向かい、4本足で走り出した。
最後のドーだけ、『ドラゴンを』と言っていたが、目的を見失っているぞ……!
連れ戻すターゲットはテーだろ。
「まったく……チグハグと言うか、本当に何しに帰ってきたのだ、あの狼たちは。何も得られる事なく、再び魔王城から去って行ったぞ。
よくあれで四天王が務まるな」
「ロース様のおっしゃる通り、ドラゴン頼りの四天王ですからね。
ドラゴン抜きだと、ロース様おひとりでも勝てる程度の実力しかない四天王なので、必死なのですよ」
去って行く四天王とデストローガンを眺めながら、デュヴェルコードは俺の隣でボソボソと呟く。
さっきも聞いた気がするぞ、その癇に障る比べ方……!
「お前のものさしは、悪意を注がないと測れないのか? 本当に余計だぞ、その比較表現……!」
「も、申し訳ありません! 現在生存している魔族の中で、実力的にロース様が1番比べやすかったもので」
「………………更に余計が積まれたが、まぁ良い。今後は気をつけて発言してくれ。
ところで、嵐の如く勝手に去った四天王はいいとして……!」
俺は四天王とデストローガンを見送るなり、いつまでも地面に突っ伏して倒れているコジルドに視線を向けた。
「この無礼な構ってちゃんは、いつまでここに倒れているつもりだ……!」
俺は呆れながら腕を組み、微動だにしないコジルドに冷ややかな視線を送る。
「さぁ……直に起きるとは思いますが……」
デュヴェルコードは状態を確認する様子で、コジルドの元にしゃがみ込んだ。
すると得体の知れない者を扱うように、コジルドの頭をツンツンと指で突っつき始める。
「ロース様。これ……死んでいますよ」
「………………はっ!?」
死亡確認をとったデュヴェルコードの報告に、俺の目が見開いた。




