13話 以心伝心8
デストローガンの背中で魔法の手綱を握るなり、様子が激変したテー。
手綱を握ると性格が変わると聞いていたが、俺の想像とは裏腹に……。
「ぼ、僕みたいな世界の底辺が、こんな高い所に……。あぁ嫌だ、怖い、死んじゃう怖い……。存在が辛い……」
ナヨナヨとした態度から更にマイナスの方向へ悪化し、沈痛で根暗な大腐り体質へと変貌を遂げてしまった。
「おいデュヴェルコード、ひとつ答えてくれ」
「なんでしょう、ロース様。アヒル口の作り方とかですか? そう言ったモテテクでしたら、ロース様専用の爬虫類のお友達に聞いてみては?」
「待て待て、色々とおかしいだろ。何が私専用のお友達だ、皮肉にも程があるだろ。
それに今の私が、本当にアヒル口の作り方なんて知りたいと思ったのか?」
「失礼致しました。ではどんなご質問でしょうか?」
「テーは手綱を握ると、性格が変わると申していたな。…………アレの事か?」
「はい、おっしゃる通りです。見事に『ドラゴンを操るヘビーネガティブ』になりま……」
「性格が変わるって、そっちかよ! こんな時は、オラオラ狂変するもんだろ普通! ネガティブが悪化してどうすんだ!」
俺はデュヴェルコードの説明を遮り、全力で声を張り上げた。
「わたくしに怒鳴られても……。でもあれで、ドラゴンは操れるはずですよ。魔法の力は、ちゃんと発動しておりますので」
「…………魔法うんぬんより、問題はメンタルの方だろ。あんな最底辺のような精神状態で、まともな指令が送れるのか……?」
俺は懸念を抱きながら、ガクガクと震え続けるテーを見つめる。
すると、地上に残った四天王が……。
「大丈夫ですよロース様! そのための四天王です! 僕たちが面白おかしく、そして的確にテーをサポートするので!」
「そうそう! テーが底辺モードになっても、僕たちが居るので! なぜかいつも、マーだけ真顔でテーに指示を出すよう煽っているけど! お前そーゆーとこあるよな!」
「あるある! テーが『もう楽になりたい』って言っても、マーは容赦なく『四天王の楽しみを乱すな』って従わせるよね! 知らんけど!」
「そんなこんなで、テーが底辺モードになっても、僕たち3人が楽しく元気づけているから大丈夫なのです!
今回もその仲良しサポートでいきたいと思います!」
まるで無自覚なハラスメントのように、ひとり何食わぬ顔で淡々と説明していくマー。
コイツは気づいていないのか? ひとりだけ、空気が違う的な告発があったぞ……!
「お前たち……テーのアレを、『底辺モード』なんて呼んでいるのか? 仲良し四天王じゃなかったのかよ。
マーに関しては、もはや脅しレベルだし……!」
「そうですか? しかし仮にプレッシャーを与えていたとしても、問題ありません!
テーは手綱を離すと、いつものナヨナヨに戻ります。きっと嫌悪なんて忘れますよ!」
マーは依然として何食わぬ顔で、無神経にもテーの事を語る。
そう言う問題ではないと思うが、きっとあのタイプは忘れず根に持つぞ……!
予想を膨らませ、直角猫背のテーを見つめていた。そんな時……。
「――僕はお荷物……魔族のお荷物……世界のお荷物……!」
デストローガンの背中に跨がったまま、テーは再びマイナス思考な嘆きを呟き始めた。
「おいテーってば、落ち着いて! お荷物なんかじゃないから! 知らんけど!」
テーに向け両手を振り、フォローに聞こえない慰めを叫ぶドー。
「僕なんて底辺なんだ……。みんなの邪魔者、みんなの足手纏い、みんなの引っ張りだこ……」
ドーの慰めがまるで聞こえていない様子で、テーはガタガタと震え続ける。
最後は足引っ張りと言いたかったのだろうか? 『引っ張りだこ』は、人気者の例えだろ……!
「テー! 今そっちに行くから、待ってろ!
ボー、ドー、僕たちも早くドラゴンの背中に登ろう」
「「オッケー!」」
マーが指示を出すなり、3人はデストローガンへと近づき始めた。
「み、みんなが僕に近づいてくる……怖い。またいつもみたいに脅される……辛怖いが近づいてくるよぉ……」
テーは近づく3人に首だけを振り向かせ、体を小さく丸め始める。
やはり根に持っていたのか……!
テーのフォローをするため、デストローガンの足元に向かい歩いていくマー、ボー、ドーの3人。足並みを揃えた早歩きの末に、あと数メートルの距離まで差し迫った。
その時……!
「――そうだ……。このままドラゴンで、飛び去ればいいんだ。
そのまま噴火前の火山にでも突っ込んで行けば……」
急に諦念した様子で、空を見上げたテー。
遺言じみた意味深な呟きをした途端、デストローガンが翼を大きく広げた。
「「「早まるなーっ!」」」
そんな終わりを始めるような光景を前に、マー、ボー、ドーはテーに向け同時に手を伸ばした。