13話 以心伝心7
プルプルと怯えた様子で、デストローガンへと両手を翳したテー。
「すいません、すいません……。殴られませんように、殴られませんように……」
「おいっ、テーよ。お前の事は殴ったりしないから落ち着け。やる前からこんなに震えて、大丈夫か?」
俺は未だに信じ切れない。
本当にここまで気弱でか弱いテーが、デストローガンを操れるのだろうか?
デュヴェルコードが言うには、テーは手綱を握ると性格が変わるらしいが……。
手綱を握るだけで、このナヨナヨのテーがオラオラ狂変できるのか……!?
「頑張れよテー! 四天王の名に懸けて!」
「目が泳いでいるぞ、テー! お前そーゆーとこあるよな!」
「いつも通りやれば、きっと大丈夫だテー! 知らんけど!」
デストローガンに両手を構えるテーに向け、口々にエールとプレッシャーを放っていくマー、ボー、ドー。
「みんな、暖かく心強い声援をありがとう。すいません……」
とても心強い声援を浴びているとは思えない、気弱な様子のテー。
暖かい声援をもらった自覚がある時くらい、無闇に謝ったりするなよ……!
「そ、それでは……魔法で竜操作用の手綱を生成します。『トゥレメンダス・マニピュレイト・ドラゴン』」
テーが魔法を詠唱した途端、デストローガンの頭上に魔法陣が出現。
すると暫くして、長い首筋を辿るように、金色の美しい魔法の手綱が、デストローガンの背中へと伸びていった。
「美しい手綱だな……真っ赤なボディと相まって、更に貫禄が増したな」
「真っ赤なボディに、ゴールドのライン。確かに存在感を引き立てる、威圧的なカラーバリエーションですね」
いつの間にか俺の隣に立ち、デストローガンの様子を見届けていたデュヴェルコード。
「お前もそう思うか、デュヴェルコードよ」
「思いますとも、この威圧感…………そうだ! ロース様も金色の手綱など、お着けになられては? 迫力が出るかもしれませんよ!」
「…………絶対ダメだろ。見た目以前に、魔王が着けたら1番おかしいアイテムだろ」
俺は相変わらずのデュヴェルコードを尻目にかけながら、再び詠唱者のテーへと視線を戻してみた。
「どうだ、テーよ。様子は?」
「…………はい、ちょうど準備が整ったところです」
報告を終えるなり、テーはトボトボと歩き始め。
「…………高い、怖い」
デストローガンの背中へと、4本足で器用に登って行った。
巨大な背中まで登り詰めたテーは、翼の根元付近にチョコンと座り込む。
「いよいよか。このドラゴンを操る事ができるのなら、勇者ンーディオを迎え討つのに、申し分ない戦力になるな」
「えっ! ロース様が期待なさっているとこ、そこですか!?」
突然俺の横で、大声を上げ目を見開いたデュヴェルコード。
「『そこですか』って……。なら他に、どんな期待を持てと言うのだ」
「決まっていますよ、それは……」
デュヴェルコードが何かを言いかけた、その時。
「「「オウッ、オウゥゥーーン! ロース様!」」」
テー以外の四天王が、謎に遠吠えを上げてきた。
「なんだ! ビックリするだろ」
「ロース様、テーが手綱を握ります!」
テーに向け指を差し、注目するよう促してくるマー。
俺はデュヴェルコードの返答を聞きそびれたまま、誘導されるようにテーの方を向く。
すると間もなくして、テーは金色の手綱を両手で掴んだ。
「手綱を持ちましたね。ここからテーの性格が変わりますよ、ロース様」
「そうか。しかし……なんの動きも見せないな。本当にあれで……」
テーに注目しつつ、デュヴェルコードと話していた。
次の瞬間。
「――はあぁぁぁぁ…………」
デストローガンの背中に跨がるテーから、凄まじく弱々しいため息が聞こえてきた。
次第にテーの背筋が、前屈みに小さく小さく丸まっていく。
「…………もうダメです。怖い、怖い……怖い怖い怖い怖い、怖いぃーー」
ガタガタと体を震わせ、恐怖の一択を口走るテー。
気づけばテーの背筋は、見た事もない角度で丸まっていた。
「えっ? なんだ、あの直角に近い猫背は……!」
「怒られた、叱られた、憎まれた……。僕なんかが猫背で、申し訳ありません……すいません、すいません、すいません……」
デストローガンの背中で、正座に切り替え土下座を始めたテー。
「どうしたんだテーよ! 手綱を握ると、性格が変わるのではなかったのか!?」
「すいません、すいません。僕みたいな底辺がロース様と口をきいてしまい、すいません、すいません……。
底辺如きが、皆様より高い位置に存在してしまい、すいません、すいません……」
依然として直角猫背をキープしたまま、テーは土下座を続ける。
まさか俺は、言葉の意味を勘違いしていたのか……?
――手綱を握ると、性格が変わる。
俺はこの言葉を聞いて、勝手にオラオラ狂変するものだと思い込んでいた。よくあるパターンだと、惑わされていた。
しかし俺の予想とは裏腹に、テーは斜め上の変貌を遂げてしまった。
目の前にいるテーを見る限り、確かに性格は変わっている。変わっているのだが。
先ほどまでのナヨナヨとした雰囲気から一変し、今のテーは……!
「大腐り、沈痛根暗狼になりやがった……」




