13話 以心伝心6
俺はこのデストローガンと言うドラゴンに、どうしても確認したい。
もしも『オール・ランゲージ』のスキル効果により、俺だけがこのドラゴンと話す事ができるのなら……。
――このドラゴン、奇妙すぎる!
「ひとつ聞いてもいいか、デストローガンよ」
俺は手繰り寄せたデストローガンの耳元で、他の者に聞こえないよう小さな声で囁いた。
『はい、なんでしょう』
耳元で囁く俺に、ギョロリと眼球を向けてきたデストローガン。
恐らくコイツの声は、俺にしか聞こえていない。だとすると……!
「お前……私以外の者と、会話した事はあるのか?」
『…………ありません。本日のロース様が初めてです。
会話という初体験を、余はこの上なく楽しんでおります』
デストローガンは目を閉じ、優しい笑顔を見せてきた。
先ほどまでの、俺との会話が初めてって……!
やはりこのドラゴン、奇妙だ。初めてのくせに、会話慣れしていやがる……!
コイツにとって先ほどまでのやり取りは、生まれて初めての会話だったはずなのに、緊張も動揺も見受けられなかった。
それどころか、魔王城で誰よりも心地良いトークを披露してきた。
「お前……不自然だろ。初会話のくせに、どんだけ流暢に話してんだ……!
自分と話せる相手が現れるまで、会話のシミュレーションでもしていたのか?」
『えっ、いいえ……。ロース様の様子を窺いながら、口にして喜びそうな返答を、繰り返していただけなのですが。
脳筋と聞いていた割に、理解力も申し分なく、冗談も通じる御方でしたので助かりました』
「…………バカにしてんのか! 私にどれだけ低知能でチョロいイメージを持っているのだ!」
『そんな滅相もありません……! 余との会話を、ロース様も楽しんでおられるとお見受けし、余も楽しかったです』
「今更そんな楽しかった発言をされても、先ほどの意を聞いた後だと、白々しくて薄っぺらいぞ。
途端に手の平を返してくるな」
『いやはや…………しかし驚きました。余がまさか、誰かと会話できる日が来るとは。今日は余とロース様にとっての、記念日ですな。
これぞ、まさに以心伝心』
勝手に記念日にされた……コイツ図々しいな……!
「何が以心伝心だ、何も分かり合えていないわ。無理やり親近感を詰めてくるな」
俺は冷淡な視線を向けながら、デストローガンの耳を手放した。
そんな矢先に。
――ポンポンッ。
背後から誰かに、2度ほど肩を優しく叩かれた。
そんな促してくるようなアクションに、俺は素早く背後を振り向く。
「ロース様……」
そこには、俺の肩に右手を添え続ける、コジルドがいた。サンシェードのマントを構える事なく、自身を日光に晒した状態で。
「な、なんだコジルド。そのお情けに満ちた表情は!」
「もうお辞めください、ロース様。既に黒歴史は誕生しておりますぞ。これ以上、ロース様の闇……いや、病みの部分を見ていられませぬ」
「違っ、これには理由が……」
俺が弁解を図ろうとした途端、コジルドは再び俺の肩をポンポンと叩き。
「――ロース様、拗らせ……いや、コジッたのですな」
慈悲に満ち溢れた、悲しい笑顔を向けてきた。
そんなコジルドを前に、血管が切れそうな勢いで、俺の頭に血が上った。
魔王城一拗らせている、この厨二野郎だけには言われたくない!
「コジルドよ……! 私にも言っていい事と、悪い事くらいあるぞ」
俺は右手をグーに握り締め、怒りでプルプルと震える拳を振り上げ……。
「ちょっ、ちょちょちょっと、お待ちをロース様、誤解ですぞ! 我は冷やかしたのではなく、『それは痛い』という意味で申しただけで」
「…………もっとダメだろ!」
――ゴンッ!
コジルドの脳天に、拳骨を落とした。
「ゴヘッ!」
俺の拳骨を食らうなり、地面に吸い込まれる勢いで倒れたコジルド。
「仕切り直しだ! テーよ、早く私の前でドラゴンを操って見せろ!」
気持ちを切り替えるため、俺は体をテーの方に向け指示を出した。
「は、はい……すいません。期待通りにならないと思いますが、どうか殴らないでください、すいません……」
テーは怯えた様子で震えながら、倒れたコジルドにチラチラと目を配る。
「これは気にするな。不可抗力と言うか、コイツの自業自得だ」
「…………その矛先が僕に向いたら怖いので、速やかに始めます、すいません」
プルプルと震えた手つきで、テーはデストローガンへと両手を翳した。