13話 以心伝心5
デュヴェルコードからの思わぬ問いかけに、俺は一瞬だけ固まってしまった。
「デュヴェルコードよ、今なんて?」
「だから、その……先ほどからロース様は、いったい誰とお話しされているのかと」
「誰って……このドラゴンとだろ。怖い事を言うなよ、肝がヒヤッとするじゃないか……」
「それ、本気でおっしゃっています? 今ならまだ、笑い話で済みますが。ちょっと怖いです」
デュヴェルコードは依然として不審な眼差しを向けてくる。
笑い話で済ませようと確認を取ってくるが、表情はまるで笑っていない。
「カオス……! ロース様が、妄想に取り憑かれるとは。お人形さんと会話している者を、目の当たりにした気分ですぞ。
心に病でも抱えられたのですかな?」
コジルドは少し俯き、顔面を片手で覆い隠した。
心に病を抱えているのはお前だろ、厨二野郎……!
「お前たち、何が言いたい! 現に今、お前たちの目の前でこのドラゴンと話しているだろ!」
『ロース様、余はデストローガンと名があります』
「そうだ、すまない。デストローガンと話しているだろ!
お前たちアレか? これは悪質なヤラセか? よくある嫌がらせの上位版なのか!?」
俺はふたりを睨みつけ、必死に反論する。
「クライシス……! もう名前まで、おつけになられているとは……。お願いですロース様、我とこの側近小娘を置いて、おひとりで頂上を目指されないでください。
此奴はドラゴン、羽の生えたトカゲ……これと会話をするなど、ファンタジーの領域ですぞ」
「わたくしも今回ばかりは、コジルドさんと同感です。ただ『ガウガウ、ゴウゴウ』と唸っているドラゴンに、ロース様が話しかけているようにしか見えません。
逆にわたくしたちへの嫌がらせですか? わたくしたちは、何か試されているのでしょうか?」
ふたりの発言に、俺は言葉を失った。
これは本当に、どういう事だ……!
俺には確かにデストローガンの声が聞こえた。それに会話も成立していた。
なのに今までのやり取りが、このふたりには伝わっていない。デストローガンの声は聞こえず、俺が単体で喋っていたと言う……。
ひとり静かに考え込んでいると、正門の外から四天王が4本足で走りながら、俺たちの元へと戻ってきた。
「ドラゴン着地成功ー!」
「この広場が、狭く見える巨体だな! お前そーゆーとこあるよな!」
「相変わらず邪魔なくらいデカいな! 知らんけど!」
「…………です」
到着するなり、順番に口を開いていくマー、ボー、ドー、テー。
もしかすると、ドラゴンを操ると言うテーなら、この事実を解明してくれるかもしれない……!
俺は少しの希望を持ち、テーの方へと体を向けた。
「いい所に戻ってきた。テーよ、ちょっとこっちに来い!」
「えっ、はい……すいません」
叱ってもいないのに、安定に自ら謝り始めるテー。
不安そうな表情を浮かべながら、ポテポテと重い足取りで俺に近寄ってきた。
「テーよ、お前なら分かるはずだ。このデストローガンは、私たち魔族と会話をする事ができるよな?」
俺が問いかけるなりテーは顔を上げ、別人のように大きく目を見開いた。
この反応は、まさか……!
「すいません、逆にお聞きしていいでしょうか……。ロース様は、野に咲く花とお話しできますか?」
「…………できる訳ないだろ」
「すいません、先ほどのロース様からのご質問は、そのレベルです。思わずビックリ致しました、すいません……」
俺に自身の愚かさを認知させるような例えで、モジモジと説明してきたテー。
期待を持てる反応かと思ったが、ドラゴン使いのテーでもダメなのか。
しかし、陰気臭い振る舞いのくせして、分かりやすくてイラッとする表現をしてくるな、コイツ……!
俺は顎に片手を添え、再びひとり考え込み、事実を整理してみた。
デストローガンは確かに言葉を発し、俺と会話を成立させていた。しかし俺以外の魔族には、デストローガンの声が伝わっていない。ドラゴンを乗りこなすと言う、テーでさえも。
それどころか、名前すら知らなかった……。
「どういう事なんだ……」
この事実を基に、俺は推察を続ける。
すると……。
「ま、まさか」
「フハハッ! ロース様、『まさか』とは! またややこしい能力でも覚醒されましたかな?」
コジルドのヘラヘラした絡みに、応じる事なく……。
俺の脳裏に、原因と思しきスキルの名前が過った。
それは邪女神エリシアに、転生トクテンで勝手に会得させられた、最初のスキル……。
「――『オール・ランゲージ』」
このスキルのおかげで、どんな文字や言語でも理解できるようになった。
まさかそのスキルの効果で、ドラゴンの話す言葉が理解できるようになったのか……?
いや、そうとしか考えられない。だから俺だけ、他の者には理解できない言葉が、理解できたのか……!
ただそれって……。
「い、痛すぎるな……!」
傍から見ると、めちゃくちゃ痛いヤツにならないか……?
コジルドの言う通り、人形や動物と架空トークしているヤツにしか見えんわ……!
状況が理解できた途端、俺は耐え難い恥ずかしに染まり込んだ。
だが……!
そんなただならぬ羞恥の最中でも、これだけは確認しておきたい。
「おいっ、そこのデスト……ドラゴンよ。ちょっといいか、耳を貸せ」
何食わぬ表情のデストローガンに、俺は顔を近づけるよう手招きをした。
『どうされましたか?』
長い首を器用に動かしながら、俺へと顔を近づけてきたデストローガン。
もしも『オール・ランゲージ』の効果による奇怪ハプニングなら、コイツにはどうしても確認したい事がある……!
俺はデストローガンの耳を持ち、小声が届く至近距離まで強引に手繰り寄せた。




