表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/304

13話 以心伝心2





 俺たちの頭上に現れた、翼を広げるドラゴンのシルエット。

 降り注ぐ日差しを遮るように、俺たちの周りを巨大な影がおおう。


「デ、デカい……!」


「お待たせ致しました、ロース様。あの上空に見えるのが、僕の操るドラゴンです」


 テーは手を震わせながら、自信なさげに空を小さく指差す。

 なんだか、少し不安になってきた。こんな指を差すだけで手が震えるようなヤツが、本当にドラゴンを操れるのか……?


「…………すいません、ロース様」


「なんだ? 今度は何を謝っている」


「先ほど指笛を鳴らした時、爪が鋭くて口の中を切っちゃいました……。痛いです……」


 片手を口元に添え、モゴモゴと小言を伝えてくるテー。

 どうしよう、更に不安が大きくなった。か弱すぎないか、コイツ……!


「負傷したのか、テー! なら治癒ちゆ担当の僕に任せて!」


 片手を大きく上げ、にこやかに笑顔を振りくドー。

 そして上げた片手をそのまま、スッとテーの方に向け直した。


「真心を込めて、いやしくないいやしの魔法を。ヒー……」


 ドーが治癒魔法を唱えかけた、その時……!


「――『ヒール』」


 たちまち淡い光に包まれていく、テーの体。

 ドーの詠唱えいしょうを遮り、俺の横でデュヴェルコードが治癒魔法を唱えていた。


「…………あ、ありがとうございます。デュヴェルコード様」


「ありがとう、じゃないよテー!!

 酷いじゃないですか、デュヴェルコード様! 今の完全に横取りですよね! 知らんけど!」


「横取りですって? 勘違いしないでください。あなたがチンタラしていたからですよ。

 ヒーラーがもたつきや躊躇ためらいを生じると、救える者も救えなくなります。外野に先を越されるようでは、ヒーラー失格ですね、ドー」


 怒りの様子を見せるドーに向け指を差し、教えをくデュヴェルコード。

 立派な心得こころえだが、大袈裟すぎないか? ちょっと口の中を切っただけだぞ……!


 それに、俺は忘れていないからな……!

 ご大層な教えをいているが、俺がコジルドと模擬戦を行った、あの時。

 コジルドから『死のフラット』をこの身に受けた、あの後。

 回復の一択しかなかった状況で、この子は謎に躊躇ためらい、大いにもたついていた事を、俺は忘れていないからな……!


「…………あの、ロース様。次から次にすいません」


 デュヴェルコードに冷淡な視線を向けていた時、またしてもテーが謝罪してきた。


「今度はなんだ? よく謝るヤツだな」


「あ、はい……すいません。お伝えしないと、大変な事になるかと思いまして」


「大変って……なんの事だ?」


 俺が不審な目を向けていると、テーはゆっくりと空を見上げ。


「恐らく、そろそろ降りてきます。ここに……」


 空を見上げたまま、テーはジリジリと後退あとずさりを始めた。


 そんなテーの行動を目の当たりにし、俺は一瞬でこの後の展開をさとった。



「――全員、速やかに離れろ!!」


 俺は空の様子をうかがいながら、周囲にいる全員に向け、大声で指示を放った。

 降りてくるって、まさかここに着地する気か? あのデカいシルエットをしたドラゴンが、この正門前の広場に……!


 俺は指示を終えるなり視線を下げ、遅れを取らぬよう大扉の方へ振り返ろうとした。だが……。


「えっ……取り残されてる……」


 周囲を見渡すと、その場に残っていたのは……俺だけだった。

 四天王は既に正門の外へと豪速で走り去っており、デュヴェルコードとコジルドに関しては、ふたりとも早々と姿を消していた。

 どうやら俺が喚起かんきするまでもなく、各々(おのおの)に危険を察知していたようだ。


「危機感は良いのだがな、お前たち……私をひとり放置して、黙って立ち去るなーっ!!」


 俺は大扉を目指し、全力で初速を切った。

 体に受ける風を感じながら、逃げるようにあしをフル回転させる。


 スタート地点から大扉までの中間に差し掛かった所で、ドラゴンの様子が気になってしまい、走りながらチラリと上を確認してみた。


「おいおいっ、待てよデカブツ! せめて下くらい確認しろー!」


 みるみると拡幅かくふくしていくドラゴンのシルエットが、俺のいる地面へと上から迫ってきていた。


 魔王の体に備わった筋力を最大限に活かし、俺は死に物狂いで大扉へと激走する。

 こんなにも恵まれた脚力を、まさか必死で逃げるために活用してしまうとは。

 転生して以来、今(もっと)も筋力を活かしている気がする……!


 俺が本気ダッシュを繰り広げていた、そんな矢先に。


「ロース様、ハリアップ! 早くこちらへお逃げを! そんな所に居られては、危ないですぞ!」


「ロース様、もっと早く駆け足! そのままドラゴンの下敷きになるおつもりですか!?

 心配です、本当に心配なので、死力を尽くして走ってください!」


 俺の目指す大扉から飛んできた、釘を刺すようなふたりの呼びかけ。

 危惧きぐするように俺へと注意を叫んでくるデュヴェルコードとコジルドだが、ふたりは既に安全な城内に身を置いていた。


 心配してくれるのは嬉しいが、何だろう……非常に他人ひと事のように聞こえてくる。ピンチの魔王に対して、配慮はいりょが薄っぺらいんだが……!


「それよりも、アイツら……逃げ足が早すぎないか!?」


 俺が大扉へと急ぐ最中さなか、既にあのふたりは城内に入っていた。この現状を推察するに……!

 コジルドなら、まだ理解できる。俊敏しゅんびん性をね備えているし、現実味がある。

 だが、例えフライングしたとしても、デュヴェルコードがあんなに早く安全圏まで、走れるだろうか……?


「アイツ……早々と『テレポート』で逃げやがったな。側近のくせして……!」


 叫ぶくらい俺の事が本当に心配だったら、初めから俺も連れて『テレポート』しろよロリエルフ……!


「ロース様! お願いですので、もっと早く駆け足! その無駄にたくましい筋力で、どうかお逃げを!

 逃げる魔王など見窄みすぼらしいですが、今は恥を気にせず走って! 逃げ遅れて魔王がひとりつぶされた方が、もっと見窄らしいので、走って!」


 人の気も知らず、言いたい放題に叫んでくるロリエルフ。


「どんなエールの送り方だ! 後で説教を覚悟しておけよ!

 だがその前に、そこを退け! このまま突っ込む!」


 頭上にドラゴンが迫る最中さなか、俺は疾走しっそうする勢いのまま。



「――間に合えーっ!」


 城内に向かい、全力でダイブした……!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ