12話 四強帰還6
「お前たちは、四天王マーボードーテーと言うのか……!?」
予想もしていなかった斜め上な名前を聞き、俺は驚きを隠せなかった。
「そうですが、何かおかしいですか?」
「それに先ほど、テーの事を『フーか?』っておっしゃってましたね。
フーの方が好ましいですか?」
不思議そうな顔つきで、俺に問いかけてくるマーとボー。
「いや、すまない。何となくで言ってみただけだ。不快な思いをさせたな、テーよ」
「…………大丈夫です」
俺の謝罪に、依然として自信なさげに佇むテー。
気にしていないのか、それとも落ち込んでいるのか……。ナヨナヨとした態度のせいで、全てマイナスに見えてくる。
「大丈夫そうには見えないが、まぁ良い。改めて宜しく頼むぞ、四天王とやら。
少し話を戻すが、先ほどボーが申していた成果報告とはなんだ? 以前に私が命じていた、別任務の件か?」
「ご察しの通り、その件です! 僕たち四天王は、ロース様に命じられた別任務から帰って来たのです!」
「けどしかし! 別任務は未達成のまま、帰って来ました! 僕たち、そーゆーとこあるので!」
「なのに、こんなにも堂々としています! 知らんけど!」
「…………堂々、です」
始めのマーに続き、次々とおかしな発言を繰り出していく四天王。
最後のテーに関しては、どこが堂々とした姿なのだろうか……?
「あなたたちは別任務が未達成だと自覚しておきながら、ノコノコと魔王城へ帰って来たのですか?
四天王ともあろう者が、情けない報告をするのですね」
両腕を胸の前で組み、鋭い下目遣いを四天王に向けるデュヴェルコード。
するとマー、ボー、ドーの3人が、片足を後ろに引きながらギクリッと肩をすくめる。
しかし……。
「あの……デュヴェルコード様。いくらなんでも、そんなキツい言い方はどうかと……。僕たちだって、長い月日と労力を費やして頑張ったのです……。
むしろ情けないのは、デュヴェルコード様の背後に聳える、ボロボロになった魔王城の方と申しますか……。
僕たちの留守中に、何があればこんな有り様になるのでしょうか……すいません」
ひとりモジモジと、顔を俯かせながら論破するテー。
どうやら格上相手にも、言いたい事はちゃんと言うタイプらしい。
気弱な性格に見えて、なかなかキツい嫌味を言うな……!
「見て分からないのですか、テー。勇者に完全攻略されたのですよ。いちいち言わせないでください」
デュヴェルコードは片足で貧乏ゆすりを始め、早口気味に言い返す。
内容的に、威張って言い返す事じゃないだろ……!
「そうか! つまり僕たちが不在だったから、こんな有り様になったのですね!」
「なるほど、なるほど! つまり僕たちが魔王城を守護していれば、こんな有り様にはならなかったのか! 僕たちそーゆーとこあるよね!」
「そうだね、そうだね! 僕たちさえ居れば、こんな有り様にならなかったはずなのにー! 知らんけど!」
頭を抱えながら、悔しそうに上半身をクネクネと動かすマー、ボー、ドー。
「いちいち癇に障りますね。そんなロース様みたいな、パカ下手くそな芝居まで打って。
そもそも、あなたたちが居ても居なくても、結果は変わら……」
「デュヴェルコードよ、そこまでだ。こんな意味のない『もしもトーク』で言い争っても、今更なにも解決しない。
それと、どさくさ紛れに私を貶すな……!」
俺は始まりかけた討論を遮るように、デュヴェルコードの肩にポンッと片手を置いた。
「失礼致しました。雑魚の煽りに、少々気が立ってしまいました」
「おいっ……本人たちを前にして、蔑む言い方は止めろ……!
それで、四天王よ。話が逸れたが、以前に私が命じた別任務とはなんだ?」
俺が問いかけるなり、四天王は透かさず気をつけの姿勢を取った。
「ご説明とご報告を致します! 僕たち四天王は、ロース様からとある探索を命じられました! そのターゲットは……」
「カオスベリー! 希少価値の高い、カオスなベリーを手に入れるよう、命じられました! その目的は……」
「マンドレイクちゃんのおやつ! ロース様がこよなく愛するペット、マンドレイクちゃんに食べさせたいからと、任務を与えられました! その結果は……」
「…………知りませんでした」
順に事の成り行きを説明していったマー、ボー、ドー。
しかし最後のテーのみ、流れにそぐわない報告をしてきた。
「「知りませんでした』だと? どんな報告の仕方だ、そこは『見つからなかった』ではないのか?
未達成の報告と言うより、言い訳に聞こえるのだが」
「言い訳ではありません。むしろ、よりリアルな真実です!」
「見つけられなかった以前に、そもそもお目当てのカオスベリーという果実自体、誰も見た事がなかったのです!」
「ロース様には、『行けば分かる』と指示されておりましたので、とりあえず行ってみたのです!」
「…………です」
「随分とアバウトな下調べだな。手掛かりもなく、いったいどこへ向かえと指示されたのだ?」
俺の質問を機に、マー、ボー、ドーの3人が両手を腰に当て。
「分かりません! ロース様が行き先をおっしゃられたかも覚えておりません!」
「『行けば分かる』の場所さえ分からず、当てもなく手当たり次第に、各地の森をフラフラと!」
「しかし半年近く続けていると、目的も分からなくなりました! そもそも、マンドレイクちゃんがカオスベリーを食べられるのかも、分からなくなりました!」
誇らしくもない報告を、堂々と言って退けてきた。
………………だろうな。そんな状況で半年も探索していたら、目的くらい見失うわ……!
「…………そ、それで一旦、帰って来ました……です」
「お前たち……本当に何しに行ったのだ? 探し物も行き先も分からず、終いには目的まで見失って。
ノープランが過ぎるぞ……!」
しかも、勇者に叩きのめされている真っ只中の、魔王城をそっち退けで……!
ただでさえ強くないと聞いていたのに、中身まで頼りないと来た。今のところ、目立った取り柄のひとつもないが……。
――コイツら、本当に大丈夫か?
四天王と言うより、ヨンバカの方がしっくり来るんだが……!
「ハァァ……それで? お前たちは半年もの間、意味もなくそこら中の森を走り回っていたのか?」
俺は呆れながら、大きなため息と共に肩を落とした。
「…………いいえ。ドラゴンに乗って、空から探していました……すいません」
「…………はぇっ!? ド、ドラゴンだと!?」
モジモジと身を縮めるテーの口から、とてつもない存在の名が飛び出した。
――この世界にもいるのか?
どんな世界でも伝説級の扱いをされ、カリスマ性を持ち合わせた究極のモンスター、『ドラゴン』が……!




