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2話 転生事変5





 俺に向け真っ直ぐ放たれた、1本の矢。

 白銀にきらめく矢先が、俺の恐怖心をあおる。


 ――こんなの当たったら、死ぬ……!


 心は叫ぶものの、体が応えない。

 恐怖で微塵みじんも動けない。


 ――シュンッ……!


 まさに、間一髪。

 矢は身の毛もよだつ風音を立て、硬直した俺の耳元をかすめた。

 横切った矢の行方ゆくえを追い、俺は無言で後ろを振り返る。


「…………………………」


 矢は後方の壁に、突き刺さっていた。


 あれ、岩壁だよな。こんなの俺が知っている弓矢じゃない……!


「1ミリもけないなんて、さすが魔王ね。威嚇いかく射撃って、バレてたかしら? 威嚇射撃って……!」


 違う。怖くて動けなかっただけだ……!

 それにしても、威嚇射撃って強調してくるな。まさかコイツ、外したんじゃ……。


「次は、外さないわよ」


 挙句に自分で言いだした。やっぱり外したのか……。


 さとられまいとしているのか、りんとした表情で、次の矢を取り出す勇者の右腕。

 再び半身になり、俺へと弓矢を構え。


「『ライトニングアロー』」


 あからさまに危なげな詠唱を、鋭い目つきで口にした。


 勇者の右腕が詠唱した途端、足元に魔法陣が出現し、矢は雷のような電気をまとい始めた。

 もし俺の推測が正しければ、これはさっきの矢よりも危険だ。そんな矢を、けられるわけがない……! 


 考えるほど増していく恐怖に、俺は立っていられなくなり。


 ――ドサッ……!


 数歩の後退あとずさりに足がもつれ、地面に尻もちをついた。


「ロース様! 反撃反撃っ!」


 デュヴェルコードによる、極端な無茶振り。

 尻もちをついた魔王に、なんて注文してんだ。反撃はおろか、逃げる事もできないから、へたり込んでんだよ……!


「ちょっと、ふざけないでよ魔王! 地面で開脚なんてさらして、あおってんの!? 

 当てられるものなら、その大股おおまたに撃ち込んでみろって言いたいの!?」


 ご立腹の様子で、矢の照準を俺の股元へと狙い直した勇者の右腕。

 逆に俺が腰を抜かした事に、なぜ気がつかない。狙われている場面で、敵に大股を広げる変態魔王がいてたまるか……!


「もういいわ……! そんな見窄みすぼらしい挑発、騎士への侮辱ぶじょくだわ。万死ばんしに値する!」


 勝手な勘違いの末、青白い電気を纏った矢は……俺を目掛け放たれた……!

 こんな知りもしない恐ろしい矢を、けられるわけ……!



「――『トゥレメンダス・シールドウォール』!!」


 諦めかけた時、背後からデュヴェルコードの力強い詠唱が響いてきた。

 詠唱と共に地面はうなり、俺の足元から巨大な岩壁いわかべが生え始め……。


「わわわっ、なんだこれ! やりすぎだろ、天変地異かよ!」


 目の前に、高さ数十メートルにも及ぶ分厚い岩壁が、一瞬にして天に向かいそびえ立った。

 弓矢どころか、大砲をも通さぬであろう分厚く高い壁は、『ライトニングアロー』を完璧にシャットアウトした。


「ロース様! 間一髪でしたが、おケガは!?」


「あぁっ……あぁっ……」


 心配した様子で、俺の隣へと駆けつけてきたデュヴェルコード。

 俺は目の前で起きた現実に、気力の抜け切った微声びせいを返す事しかできなかった。


「やってくれるじゃないの、ロリエルフ! 怒りの一矢だったのに、とんだ邪魔が入ったわ!」


 壁の向こうから、イラ立ち気味に声を飛ばしてくる勇者の右腕。


「誰がロリですか! まだやり合うと言うのなら、本気でいきますよ! …………ロース様が!」


 おい、ロリエルフ……! 

 それは敵への牽制けんせいか? それとも魔王イジりか……?


「ふんっ……! 今日は引いてあげるわよ。魔王復活の有力情報も手に入ったし。勇者様に伝えておくわ。

 よく聞け魔王っ! 3日後だ! 3日後に勇者様を引き連れ、ここへ戻ってくる!

 そろそろ、城も落ちるころじゃないかしら? 首を洗って待っていろ……!」


 次第に声は小さくなり……。

 歩き去る足音と共に、壁の向こうは静寂へと変わった。


「どうやら、勇者の右腕は去ったようです。ロース様」


「そうらしいな。まったく、末恐ろしいヤツだ。

 だが……ヤツの口振りだと、勇者の戦闘力は更に上をいく気がしてならん」


「恐れながら申し上げると、その通りです」


 俺は、途端に逃げたくなった。

 思い描いていた転生と、全然違う……!


 異世界に沈められたと思えば、なぜか魔王に転生し。

 戦い方も分からない序盤から、敵や味方の魔法に圧倒され。


 本当に今日は、分からない事しか起こらない。


「常識を超えた力ばっかり使いやがって……! どいつもこいつも、非常識だ……!」


 やりようのない現実を目の当たりにし、俺は怒りのまま。


 ――ズドォォンッッッ……!!!


 目の前にそびえ立つ岩壁に、拳をぶつけた。


「痛っ。お、おい……。なんだよこの力……」


 高く分厚い岩壁は、俺の殴った打点を中心に。


「これが、魔王……!?」


 岩壁は粉々にくだけ散り、正門の景色を露わにしていた。


 ――どうやら、俺も非常識の仲間入りをしたようだ……!



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