12話 四強帰還2
『――繰り返します。報連相! 報連相!
ただいまー。正門に、魔王軍の誇る屈強な魔族集団、『四天王』の皆様がお戻りになりました!
これより正門にて、ご帰還を祝したパレードを実施したいと思いますが、いかがでしょう? 冷やかし目的ではありませんので、手の空いている者は正門にお集まりください』
例によって寝室に流れた、緊張感のない放送。
「だそうです、ロース様」
「だそうですって……。今回の放送も、中々ふざけてるな……!
スピーカーの向こうにいる者は、本当に『報連相』の自覚があるのか?」
放送で相談を持ちかけられても、こちらからは返答の仕様がないんだが……!
「少なくとも、助言をもらう気はなさそうですね」
「だよな、そう思うよな……!
それに『ただいまー』って、『只今』だろ。軽い挨拶じみたトーンで報告してきたが、まさか帰還した本人たちが放送していないよな?」
「それは……さすがにないと思われます。自分たちの帰還を自ら祝してパレードを催すような、痛い魔族はおりませんので」
至極当然のように、俺へと返答してくるデュヴェルコード。
自作自演する痛い魔族なら、身近にいるだろ。まるで痛いのお手本と呼べる、とびきりピッタリな実例、コジルドが……!
まさか、コジルドを魔族扱いしていないって魂胆じゃないよな……?
「何度も頼んですまないが、また放送を変えるように指示しておいてくれ。
ちゃんとマジメなテイストでなっ……!」
「かしこまりました。ところで、これから正門へ向かわれますか?
四天王の帰還が本当でしたら、パレードはともかくとして、労いのお言葉などをお掛けになられたら、きっと喜びますよ」
「そうだな……。私にとっては事情も素性も分からない、情報皆無な存在だ。四天王と呼ばれる者たちを見てみたい。もしかすると、手薄な魔王城の即戦力になるかもしれないしな!
デュヴェルコードよ、歩いて正門へ向かうぞ。歩く道中、その四天王についての情報を聞かせてくれ」
「承知致しました。まず四天王とは、4名の獣人族からなる、狼獣人の集団で……」
その場に立ち止まったまま、突然説明を始める型破りなロリエルフ。
「デュヴェルコードよ。『まず四天王とは』の前に、まずは正門に向かおうか……!」
指示をフル無視した説明を遮るように、俺はデュヴェルコードの小さな手を取り、寝室のドアへと歩き出した。
「ドキッ……! まさか、これは愛の逃避行ですか!?
ロース様のお導きでしたら、わたくしはどこへでも着いて行きます!」
俺の背後から、デュヴェルコードの上擦った声が聞こえてくる。
いらん事を言うな、これはただの催促だ……!
「なら一先ず、正門へ着いて来い……!」
俺は寝室のドアを開けて外へ出るなり、デュヴェルコードの手を引き、俺の隣を歩くよう誘導した。
「それで、四天王とはどんな者たちだ?」
「はい。四天王は4名の狼系獣人族からなる、魔王軍の戦闘員です。
ここ暫くの間は、昏睡前のロース様が命じられていた別任務により、魔王城を離れておりました」
俺の横を歩きながら、スラスラと答えていくデュヴェルコード。
「そうだったのか。推察するに、ンーディオが魔王城を完全攻略に追い込んだ最中にも、その四天王が不在だったという事か?」
「おっしゃる通りです。ロース様の昏睡に加え、四天王不在と言うタイミングで、チンピラ勇者が猛攻を仕掛けて来ました」
「やはりか……。私の昏睡中と言い、四天王の不在と言い、つくづくンーディオは狙ったように魔王城を攻めに来ていたのだな……!」
――なんだか、同情が芽生えてくる。
四天王などと、大それた通り名で呼ばれる者たちだ。きっとエリアボスやデュヴェルコードに匹敵する程の戦闘力を持っているはず。
そんな猛者集団が、勇者パーティとの奮闘中に不在だったとなると……。城に残っていた魔族からすれば、かなりの痛手だったに違いない。
城に残り奮闘した者たちは、さぞ遣る瀬ない気持ちだっただろうに……!
「――まぁ、四天王が魔王城にいたとしても、結果は変わらなかったでしょうが」
推察にふけていた矢先に、デュヴェルコードが気になる事を囁いてきた。
「はぇっ? お前、今なんて!?」
そんな不安を煽るような小言に、俺は思わずデュヴェルコードへと視線を移す。
「四天王がいたところで、どの道魔王城は完全攻略されていましたよ。
だって名ばかりで、そこまで期待を持てるほど強くもありませんから」
更に不安を煽るようなデュヴェルコードの告発に、俺は戸惑いながら歩みを止めた。
俺がまだ日本にいた頃、アニメやゲームで四天王と言う通り名は、何度も耳にしてきた。
名に恥じず、誇らしい強さを持つ四強といった、猛者集団のイメージを持っていた。
そんな四天王が、この魔王城では……。
「な、名前負けする……弱者なのか……!?」




