12話 四強帰還1
「あのぉ、ロース様? 先ほどのお話なのですが……」
ベットに腰をかけ頭を抱える俺に、デュヴェルコードが顔を覗かせて来た。
「なんだ? まだ何か言いたいのか? 牢獄帰りで、私は少し疲れた。
急ぎでないなら、時を改めて欲しいのだが」
「急ぎと言うわけでは。ただ先ほど暴露してしまいました、わたくしの片想いについてですが……。
聞かなかった事になど、できません」
うっとりとした可愛らしい上目遣いで、こちらを見つめてくるデュヴェルコード。
「………………断言!? 今のは事実確認か!?
そこは普通、『聞かなかった事にできないか?』と、質問する流れではないのか!?」
「えぇー! できるのですか!? 聞かなかった事に!」
「まぁ……そこは私の匙加減と言うか、意識次第だが。心配しなくても、他人に喋ったりなどしないし、なかった事にだってしてやるさ」
「それは改竄行為ですか!? 事実を捻じ曲げようとなさるとは、さすが魔族の王であらせられるロース様。恐縮です。
それとも、お得意の『忘れちゃった』的な記憶喪失術ですか?」
ベットに腰をかける俺の側で、デュヴェルコードは片足を床につけ頭を下げた。
何がお得意のだ。目が覚めたら魔王だった俺を、忘れん坊扱いするな……!
「そんなに驚く事か? たかが、聞かなかった事にするだけだぞ。
側近の片想いと言うのは、そんなに非常な事なのか?」
「だって、だって! 片想いのお相手は、ロース様ですよ!」
俺が問いかけるなり、勢いよく顔を上げ目を見開いたデュヴェルコード。
「あっ、あぁ……それはそうだが。恋心など個人の自由であるゆえ、魔王に片想いをしたところで私は気にしないし、烏滸がましいとも思わないぞ。
高嶺の花など、誰もが欲するものだろうしな」
「そのような『高飛車』の問題ではございません!
だってだって、わたくしの心を奪ったお相手は、ロース様なのですよ!
ロース様なんかに片想いをするなんて! よりによって、ロース様なんかに片想いをしてしまうなんて!」
デュヴェルコードはその場で、自身の頭をポカポカと叩き始めた。
なんだか自分で高嶺の花なんて言った事が、途端に恥ずかしくなってきた。烏滸がましいのは俺じゃないか……!
自身に抱いた恥を隠すように、俺はベットから勢いよく立ち上がった。
「いっ、言いすぎだろ! 私に恋をする事が、そんなに恥ずかしい事なのか!? 株が落ちるのか!?
どいつもこいつも、いったい私をどんな目で見ているのだ!」
「うぅ…………失礼致しました。魔法もろくに覚えられない、脳筋として見ていると思います……」
再び頭を下げ、ゴニョゴニョと言い辛そうに告げてくるデュヴェルコード。
つい勢い余って怒鳴りつけてしまったが、まさかバカ正直に評判を告げてくるとは思わなかった……!
「み、耳の痛くなる返答だな……。これからは私も、不名誉な事を言われないよう努力を……」
俺が思いを伝え切ろうとした、その時。
『――報連相! 報連相!
ただいまー、入った情報を放送します!』
例によって、場にそぐわない城内放送が俺の声を掻き消した。
「また変な放送を! 今度はなんだ、報連相? ただいまー? 今回もいろいろとツッコミどころ満載の言い回しだな!」
「シーッ! ロース様、ここは一旦放送を聞いてみましょう」
デュヴェルコードは人差し指を口に当て、俺の片腕をポンポンと叩いてくる。
「そ、そうだな。すまなかった、続きを聞くとしよう。まさかまた、勇者パーティが攻めて来たのか……!?」
『――ただいまー。正門に、魔王軍の誇る屈強な魔族集団、『四天王』の皆様がお戻りになりました!
これより正門にて、ご帰還を祝したパレードを実施したいと思いますが、いかがでしょう? 冷やかし目的ではないので、手の空いている者は正門にお集まりください』
その放送は、これまでのような襲撃を知らせる内容ではなく、同胞と思しき魔族の帰還を知らせる内容だった。
――四天王……! 魔王軍に、そんな期待の持てそうな存在がいたのか……!?




