11話 牢獄視察13
デュヴェルコードの思わぬ暴露に、驚きを示した俺とシャイン。
「うぅ……きゅっ……!」
一方でデュヴェルコードは顔を真っ赤に染め、俯き気味に目を泳がせていた。
「えぇっ! ダークエルフ、嘘っ、えぇー!」
「ちょっ、ちょちょちょっ! ちょっと待ってくれ! いろいろ待ってくれ!」
俺は騒々しく荒れ始めた雰囲気と、自分自身の取り乱した心を落ち着かせるため、両手を大きく上下させ沈静化を図る。
なんだこれ、急になんだこれ……!
まずは、一旦落ち着け……俺っ!
「そっ、そもそも! なぜお前まで驚いているのだ、シャイン!
言い出しっぺが一緒になって驚くな!」
「私はただ! 適当にこのダークエルフをイジり返したくて、『魔王ロースの事が好きなくせに!』と言っただけです!
まさか本当に魔王ロースの事が好きだったなんて、予想もしていませんでしたわよ! それをこんな場で暴露するなんて、もっと予想外でしたわよ!
責任なんて取れませんからね!」
「いやっ……そこまで言ってない。どちらにしても、責任の取りようがないだろ……!」
鎖に胴体を締められながらも、焦りながら俺に弁解をしてくるシャイン。
適当にイジるにしても、もっとマシな内容はなかったのか……? それに流されて、バラしてしまうデュヴェルコードもデュヴェルコードだが……!
「イジり返したですって!! お姫様の救出劇は、恋に落ちて当然のパターンで文化でオキマリなので、イジられてなんぼでしょうが、逆サイドは厳禁でしょ!
魔王と側近の恋なんて特殊なのに、そんなわたくしの特別なオフィスラブを、イジりネタにしないでください!」
顔中から汗を撒き散らしながら、シャインに怒声を放つデュヴェルコード。
魔王城内の片想いを、オフィスラブ言うな……!
「デュヴェルコード、一旦落ち着け! 今の暴露は聞かなかったこ……」
「かっかかかか、勘違いなされないでくださいロース様! 先ほどの好きは『ライク』ではなく、『ラブ』の方ですので!」
デュヴェルコードは首を左右に激しく振りながら、慌ただしい早口で俺の発言を遮った。
ラブの方って、ガチ恋じゃないか……! 普通は訂正の仕方が逆だと思うが、更なる暴露に変わってしまった……。
思い返してみれば、心当たりがない事もない。確かにデュヴェルコードの様子がおかしい時が、何度かあった気がする。
レアコードの復活前にしてきた注意喚起や、ハピリによる告白じみた城内放送を聞いた時の急変。更にはそのハピリへの、見え透いた悪戯。
ハピリへのイラ立ちを剥き出していた時、コジルドも言っていたな。『貴様があの鳥娘を嫌っているのは、違う理由で……』と。言い終わる手前で、容赦なく口封じされていたが……。
その違う理由とは、きっとシンプルな嫉妬の事だろう。
「ラ、ラブの方ねぇ……。それにしては、私への振る舞いが不当だったと言うか、雑な扱いだったと思うのだが」
俺の思いを告げた途端、デュヴェルコードは首を振るのを止め。
「――乙女の愛情は、裏返るのです……」
穏やかに、そしてふんわりとした照れ顔で、デュヴェルコードは斜め下を向いた。
シャインに向けた拳を、静かに握り締めながら……。
「それを言うなら、『愛情の裏返し』ですわよって、痛い痛いぃっ! どさくさ紛れに、鎖を強めないで!」
見るとシャインに巻きついた鎖は、徐々に締まりを増していた。
「あらら、これは失礼。ですがお姫様、痛いの大好きでしょ?」
「矛先の向いていない攻めは、私の欲する痛みと違いますわ! これも愛情の裏返しとでも言いたいの!?」
どうやらこの欲しがり姫は、ただ痛いだけではダメらしい。ややこしい欲求だな……!
「そんな訳ありませんよ。人族のお姫様相手に愛情は疎か、慈悲の欠片も持ち合わせておりません」
「いいいっ痛いっ! 無慈悲上等ですわ、この恋する乙女魔族!
今からこの攻めに、あなたの感情は必要ない。屈服させる意思のない攻めでも、私が勝手に自分好みの痛みだと、自分に言い聞かせて順応してみせますわよ!」
………………いろいろと何言ってんだ、このお姫様……!
「急になんの宣言ですか。自分に嘘までついて、欲するべき事ですか?
特殊すぎて力が抜けますね、この的外れ姫」
デュヴェルコードは呆れた様子で、ゆっくりと拳を開いた。するとシャインに巻きついた鎖は解け始め、ジャラジャラと音を立てて床に落ちていく。
「ちょっと、勝手に止めないで! 私の意を決した成長途中だと言うのに!
この獣好き! ゲテモノ好き! 魔王好き!」
鎖が解けるなり、子供のように単純な野次を連発し始めたシャイン。
魔王好きって、最後のは悪口になっていないぞ……!
「おいシャイン、誰がゲテモノだ! あまり調子に乗るなよ!」
「そうですよ! ロース様がゲテモノなのはともかく、わたくしがゲテモノ好きだなんて、聞き捨てなりません!」
俺の怒声に続き、自身への罵倒を訂正に入ってきたデュヴェルコード。
庇い方が逆だと思うんだが……!
ここは普通、好きな相手を庇う流れじゃないのか……?
「もう良い、今日の対面はこれで終いだ! こんなアブノーマルな姫と話していては、気分が悪い!
おいシャイン、覚えておけ。次に勇者パーティが来た時、お前をンーディオに引き渡す! ダメなら強制送還だ!
デュヴェルコードよ、もう戻るぞ。『テレポート』だ……!」
俺は勢いよくシャインに背を向け、デュヴェルコードへと片手を差し出した。
「は、はいっ! 『テレポート』!」
デュヴェルコードは返事と共に俺の片手を取り、魔法を詠唱した。
すると薄暗い牢獄内を明るく照らす魔法陣が、俺たちの足元に出現し。
「全く、なんなのだ! あのややこしい姫は!」
一瞬にして寝室へと帰還し、部屋中に俺の怒鳴り声が響き渡った。
「おいデュヴェルコード! 今度またンーディオが城に来た時、シャインを問答無用で突き返すぞ!
いったい誰だ、あんな姫を連れて来たのは!」
俺は声量を下げる事なく、デュヴェルコードにイラ立ちを露わにした。
「誰って…………連れて来たのは、ロース様じゃないですか……」
気まずそうなデュヴェルコードの返答を聞いた途端、俺の思考が一瞬だけクリアになった。
どうやら俺が転生する以前に、前魔王が連れて来ていたようだ。
「えっと………………すいませんでした。今のは忘れてくれ」
俺はゆっくりとベットに腰を降ろし、お門違いの過ちを謝罪した。
――負の遺産ばかり残しやがって、なんて事してくれたんだ、前魔王……!
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