11話 牢獄視察12
「大人しく、私を解放すると?」
俺が姫の解放を提案し直すなり、懸念を抱くように聞き返してきたシャイン。
「そうだ。解放も悪い話ではないだろ?」
俺から目を逸らしたシャインはひとり俯き、考える素振りを見せる。
そして、少しの間を置き……。
「これは悪魔の囁き、仄めかし……!
やはり裏があるようにしか思えません。どの道、ンーディオ様の助けを待つつもりでしたが、魔王がそんな平和的解決に思考を傾けるわけがありません! このゲス魔族、堂々と本性を晒しなさい!」
シャインは途端に顔を上げ、俺に鋭い睨みを利かせてきた。
「いやぁ……かなり平和的に傾けているんだが……!」
なんなら妙な裏読みなどなしで、早く送り返したいだけなんだが……。
「せっかくロース様のご意向で、シャバに出られるチャンスが訪れたと言うのに、性格が災いして好機を逃しましたね、ドM姫。
こんなまたとないチャンス、後でオネダリしても叶いませんからね、欲しがり姫」
「そこのダークエルフ! 何度も言わせないでください、私の名はシャインです!
国王である父上に授かった、大切な名前です!」
「名前負けしていますよ、いったいどこが輝かしいお姫様なのでしょうか。
まぁ、先ほどの痛みに耐えながらの挑発は、『もっとちょーだい』と目が輝いておりましたが。このアブノーマルフェチ姫」
デュヴェルコードが挑発した途端、シャインはその場に勢いよく立ち上がった。
「なんて無礼なダークエルフ! 私の名を穢す事は、名付け親である国王への侮辱に値しますわ!
名前の由来だってちゃんとあるのです! 私の住む王国という社会の中で、立派な歯車として輝きなさい、活躍しなさいと。そんな歯車のような思いを込めてつけられた、特別なシャインという名前です!」
「………………それではシャイン姫と言うより、ギヤ姫だろ。聞いていて、歯車の方が強調されていたぞ……!」
それに、先ほどの鎖に縛られた光景を目にした後だと、輝く意味のシャインより……。
過酷労働に縛られた、耐え凌ぐ社員の意味に思えてくる……!
「ふんっ……! 魔族になんと言われようとも、私はンーディオ様に助け出される運命を選びますわ!」
シャインは拒否するように、小さく舌を出した。
「このお姫様は、どんな教育を受けてきたのでしょうか。舌を出すなど、端ない振る舞いですね。『チェーン・バインド』」
「お、おいっデュヴェルコード、またかよ……!」
デュヴェルコードはシャインに冷ややかな目を向け、魔法を詠唱した。
すると案の定、先ほどと同様の鎖がシャインの体に巻きつく。
「くっ……! 結局は暴力頼りですか! 気に入らない相手を屈服させる手口、やはり魔族は野蛮で穢らわしいですわ!
ンーディオ様ーっ、助けてくださーい!」
鎖に巻かれながら、ジタバタと演技くさい抵抗を見せるシャイン。
「届きもしない叫声を出さないでください、パカみたいですよ。
どれだけ期待しているのかは知りませんが、チンピラ勇者に連れ出してもらえる運命なんて、あり得ませんよ」
「きっと訪れます! それが姫に用意されるべき、運命のシナリオと言うものです!」
「何がシナリオですか、パカパカしいっ。そこまでチンピラ勇者の助けを期待して、まさか好きなのですか? あんなチンピラ勇者の事が」
「あっ、当たり前ですわよ! 至極当然の恋心です!!
そう言うダークエルフも、他人の事が言えるのですか!? あなただって、魔王ロースの事が好きなくせに!」
デュヴェルコードに負けじと、でっち上げのような叫声を放つシャイン。
だが……。
「…………………………」
突然デュヴェルコードは、静かに俯いた。そして……!
「なっ、なんで! なんであなたが、そんな事を知っているのですか!!
ロース様が好きって、誰にも話した事ないのに!!」
デュヴェルコードは慌てた様子で頭を上げ、真っ赤に染まった顔を露わにした。
「「……………………えっ!?」」
見事にハモった、俺とシャインのリアクション。
突然の事態に俺とシャインは目を見開き、互いに顔を見合わせた……!




