地球外生物に撃ち込む缶コーヒーはブラックに限る。
ぼしゅっという鈍い音とともに、スチール缶が巨大な地球外生物に吸い込まれていく。
「おー、命中」
弾けた缶から黒い液体が飛び散ると、サヤカが能天気な声を上げた。
「さすが先輩。外しませんねえ」
「あんなでかい的、外すかよ。そんなことよりお前」
俺は缶シューターを下ろしてサヤカを睨む。
「これ微糖だろ」
虫と魚の合いの子のような地球外生物の身体は、黒い液体のかかったところから煙を上げて収縮していく。だが、その反応が鈍い。
「あ、やっぱり分かりますか」
サヤカがぺろりと舌を出す。
「ブラックは貴重だから。とりあえず微糖でもいけるかなって」
「いけるかよ」
俺は舌打ちした。案の定、敵はまたこちらに向かってずるずると前進を開始した。
地球外生物の大群による無差別な侵略に突如晒された人類は、近代兵器を全て無効化する彼らの唯一の弱点がコーヒーであるということにようやく気付いたものの、その時には世界の供給網はズタズタにされていた。
日本各地のスーパーや自販機に残っていた大量の缶コーヒーを利用するために開発されたのが、缶シューター。装填した缶コーヒーを敵の内部に撃ち込み破裂させる射撃武器だ。
最も効果があるのはブラック無糖。砂糖やミルクが入ると途端に効果は減退する。
ブラックは恐ろしく高値で取引されているが、今目の前にいるのは特Aクラスの大物だ。出し惜しみしている場合ではない。
「おら、早くブラックよこせ」
「はあい」
サヤカに渡された二本の缶コーヒーを装填して、狙いを定める。発射。
敵のど真ん中にぶっ刺さった缶が破裂して、黒い液体が飛び散る。
「よし、もういっちょ」
続けてもう一発。これも命中。敵は身をよじって苦しんでいる。
「やったか?」
だが、敵がまたも前進を再開する。
「ブラックだよな」
「ブラックですよ」
「アメリカンじゃねえだろうな?」
「……」
「おい」
「いや、アメリカンの方が安いんですって」
薄いんだよ、アメリカンは。
俺は問答無用でサヤカのジャケットに手を突っ込む。
「あ、ちょっと!」
抗議の声に構わず、一回り小さいその缶を取り出すと、缶シューターに装填した。
「先輩、それは!」
発射。命中した缶が爆ぜ、漆黒の液体が飛び散る。
今度は効果覿面だった。敵の身体はぐずぐずと崩れていく。
「ああ、私のエスプレッソ」
サヤカが情けない声を上げた。
「仕事終わりに飲もうと思ってたのに」
「カフェオレでも飲んでろ」
俺はため息をついて缶シューターを下ろした。