花の無い公園で
季節が進み…木々の葉が染まりかけた公園で…
私は彼の告白を聞いた。
「…オレ、大学に受かって初めて東京に出てきで…管理費込6万の家賃や周りの物価が高いのもきつかった。学食や学生街の定食屋が御用達で…酒はコンパ以外は帰宅から発泡酒かチューハイ。課題とバイトに明け暮れ、たまのオアシスがサークル活動…
同じサークルの短大の女の子となんとなくいい雰囲気になった事もあったけど、カネなし暇なしのオレとじゃ所詮ソリが合わなかった。
今から考えると幼い失恋だったけど、その痛みは胸の内にずっとくすぶっていて、意地になって…しゃにむに勉強とバイトに打ち込んだんだ。
4年次の6月に『商實』の内々定を取ってひと段落付いたけど…学費の自己負担分に原チャの残債の支払いにクルマの免許と卒業旅行…お金のかかる事はまだまだ目白押で…掛け持ちバイトのひとつで仲良くなった年上の女と付き合うようになって…
オレ、その人の事、ホントに真剣で…卒業旅行は止めて免許取得も後回しにしてカノジョとの引っ越し費用に当て…会社には内緒だったけど翌年の5月には同棲を始めたんだ。
こうして迎えた社会人としてのスタートは希望に満ち溢れていた…
カノジョとは結婚の約束をしていたし、毎日が本当に充実してた。
カノジョは店勤めで…なかなか休みは合わなかったけど、良く連れ立って近場に出掛けた。
ショッピングモールなんかで親子連れを見かけると
オレもあと何年かしたらあんなふうになれるんだなって思ったんだ。
その頃には取れなかったクルマの免許も取って…子供と奥さんを載せてドライブしたいなって…
笑っちゃうよね。オレがこんな事思っていたなんて
ようやくお金が工面できる立場になって勢い込んで入った教習所。
仮免取って第二段階での高速教習で立ち寄ったサービスエリアで
オレは信じられないモノを見たんだ。
慣れ親しんだストレートのサラサラヘアの後ろ姿。
両手にソフトクリームと串焼き持っていて…
窓から片肘を出して手を振ったオトコの車に近づいて行ったんだ。
見間違えだと信じたかったけど…その後ろ姿は間違えようも無く…今朝、カノジョが仕事に出かけていった服装そのままで…そのオトコに…手に持った物を交互に食べさせて…自分をもキスで食べさせていた。
自分の運転の番が終わっていて良かったよ。
もしあの後、運転していたら別の罪を背負っていたかもしれない。
教習所から家に戻ってもカノジョはまだ“仕事”から帰ってなくて
家探ししたら『証拠』が出て来た。
カノジョが勤めている…昔のオレのバイト先へ訪ねて行っても皆、口を濁すし…
結果、オレは店を飛び出して夜の街をさまよっていて『美人局』に引っ掛かった。
更に悪い事に相手が15歳で『保護育成条例や児童福祉法』をタテに脅迫されて…応じなかったらオレが警察に逮捕された。
そんな目に遭うなんて思いもよらなかったから…法的対抗措置を何も取れずに実刑判決。
言わずもがなで会社もカノジョとの仲もすべてご破算!
罪状が罪状だけに家族,親戚、友人すべてから縁切りされた。
だからオレは…小日向さんから好意を受けられるような…そんな人間じゃないんだ。
その場の衝動に溺れたどうしようもない前科者なんだ。」
勇気を振り絞って…やっとの思いで…「あなたの事が好きです」って告白したその答えがこれだった。
『ひょっとして断る為の口実?』と一瞬、頭をよぎったけど、それはあり得ない。
今私の目の前にいるのは未成年に対して淫行を行った前科者…
でも!でも!
「…教えてください。本当にその…未成年の子と…いたしたんですか?」
カレは私の問いに首を横に振ったけど
「でも、オレが間違えを起こしたのは事実だから」と自分を戒めるように私に言った。
きっと誰に聞いても言われるだろう
「そんなヤツ止めておけ!」って
ムリ押ししたら…
私も親から勘当されるかもしれない。
「でも、それでも」
私はこの人が好き
「大好き!!」
今、やっと分かった。
この人の…息を殺すようにして降り注いでくれる優しさが
やっぱり本物だったって事が…
私が“心”で感じたのが
間違いじゃなかったって事が…
だから私は手を伸ばし、顔を背ける彼の頬に流れる涙をツイッ!と掬った。
「ねえ!陽くん! 私、こんな事じゃ諦めないから!!
あなたが!!
『小日向陽』になってくれるまで
絶対!絶対!
諦めないからね!!」
ふと思いついて書いてみました。
説明不足の感が拭えず…申し訳ございません<m(__)m>
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