9、娯楽1
言うと思ったけど、やっぱり言ったね「嫌だ、帰りたくない」って。
あやすにもその場限りの言葉はダメだ。一年後にまた呼ぶからと期日を含め約束する。
不満そうに顔をゆがめて、それでも侍従がフォローを入れる前にうなずく。
ちょっとは成長したかな。男の子だもんね。
一方で「絶対だぞ」って指切りまでする念の入れよう。
我慢をし慣れているあたり、ちょっと可哀そうかなって、私も情が移ったかな。
余計なサービス精神を発揮して、お茶会に行く時に新しい遊び道具を持っていくなんて約束をしてしまった。
いや、この世界ほんと娯楽に乏しくて困るのよ。
テレビはないしスマホはないし、演劇や演奏会はあるけど大掛かりすぎて、ちょっと楽しむってわけにはいない。
本はあっても娯楽小説って分野がない。艶本はあるところにはあるらしいけど。
もっとも子供なら広々とした空間があって、遊び相手がいれば退屈することはない。そう、うるさい見張り役がいなければ。
追いかけっこからはじまって、かくれんぼ、石蹴り、石投げ、木の枝を使った落書き、そんなので何時間でも遊べる。
室内でだってかくれんぼはできるし、一緒に歌を歌ったり、それに絡めて手遊び、なぞなぞ、しりとり、早口言葉。
モンタージュを作るみたいに、眉は何番、口は何番って顔を描くの、前世では女の子の遊びだったけど、王子はけっこう気に入ってたな。
気ままに選んだ番号で、いろんな顔ができるのが面白かったみたい。
しかし、これから小鳥は籠の中に帰らなくちゃならない。
私以上に人に囲まれて、ちょっと外れたことをしただけであれこれ言われるんだろうな。
そんな可哀そうな子のために、私は知恵をしぼった……いえ、嘘です。
まんま前世のパクり。せいぜい簡単な図を描いて説明するだけだから楽なもの。
作るのは御用商人にお任せ。もちろん父親の許可はとってある。
完成品を殿下に献上した後、売り出される商品たち。
裕福な人だけが買うのかと思いきや、劣化板を作って庶民にも広めちゃう商人はたくましい。
特許制度はないけど、デザイヤノート家の紋章を入れて抑止力に。
おかげでけっこうな金額が公爵家に入ってくる。そこから何分の一か私のお財布にも、ぐふふ。
あれ、これは独身を通しても大丈夫そう?