7、許婚
イザベラ・スワン・デザイヤノートには許婚がいる。
なんと王子様だ、第二だけど。
そこで、ヒャッホー!ってなれない私。
だって面倒臭そうだよ。
第一王子が側室の子で、第二王子が王妃の子ってだけでもうお腹いっぱい。
一方で、お貴族サマ生活を続けたいなら受け入れるしかないわけで。
この不便で不衛生な格差社会。平民として生きられる自信がない。
暗殺とか、処刑されなきゃいいかぁ。
恋愛体質じゃないから、いかにも貴族的な付き合い方も苦にならない。
せいぜいエスコートやダンスで触れ合うだけなんて、いいじゃないの。
そもそも相手は十歳児だ。
恋愛? 結婚?
いや普通、無理でしょう。
下手したら孫世代。事案ですよ。
成長したって、この精神年齢差は埋まらないからね。
ただまあ、相手がクソガキな分、気は楽だ。
イザベラ自身その我儘っぷりは大概で、精神的に挫けるってことはなかったみたいだけど、そこはやはり子供。健気なところもあってね。
初対面で「ブス」って言われたこととか、それ以降二回に一回はお茶会をすっぽかされてることとか、両親にはいっさい告げてなかったんだ。
代わりにユリアには盛大にこぼしてて、それを逐一事細かに日付付きでメモしてたうちの侍女が偉い!
私はそれを清書し、さらに「一月ほど殿下を我が領にお招きして教育したい」旨書き添えて父親に提出。
そう、私は婚約破棄など望んでいない。
私の安穏とした生活のため犠牲にしても惜しくない相手なので、このままストレートに結婚まで行くつもりだ。
成長した姿を想像して、生理的嫌悪をもよおさないってことも大事だけど。
だからって殴られっぱなしは気に食わないし、このままじゃ将来の自分がもっと苦労するのが目に見えてる。鉄は熱いうちに打て!
「王家相手とはいえ、取引材料として十分だ」って片頬をぴくぴくさせる父が頼もしい。
たぶん、これも笑顔。