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聖なるアリア  作者: 柊なつこ
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集う子鳥達

文章少なくして投稿頻度上げた方がいいか、それともそのままの文章量でいくか迷ってます。

私が目を覚ましたことがよほど嬉しかったのか、ベッドから一歩引き膝を付いていた天使達は今はベッドの傍らに腰をおり、上体を起した状態の私に対して各々喜びの言葉を発している。ミカエルに関しては私の右手をその両手で掴み声を殺しながら号泣していた。

しかし、依然変わらず忠誠の体勢を取りながら動かない二人いる。その内の一人が口を開いた。


「お母様のお目覚めを今か遅しとお待ち申し上げておりました!」


「最近の見せていた憂いの表情が消えたところを見ると自身の心に巣くっていた暗闇(くらやみ)が晴れたようで何よりです。しかし、他の熾天使(してんし)殿達は主であるアリアお父様の御前であることをお忘れのご様子」


「お前達はお母様がお目覚めになったことを嬉しくはないのか!」


「己の感情を主の礼儀より優先されるのは間違いではないのでしょうか?」


「お前達は俺たちの忠誠心を疑っておるのか!?」


「やめなさい」


「「「っ!? 申し訳御座いません」」」


カマエルはハキハキと部屋の外まで聞こえる声でアリアの目覚めたことに歓喜する。その隣にいるザドキエルは以前と変わらず膝を付きながら頭を垂れ、他の従者達を牽制(けんせい)するように静かに、しかし周りの天使達には聞こえる声で制した。


「子供が親を心配するのは至極自然なこと。きっと皆は寂しかったんだろう。今日、この時に限っては無礼を許そう」


「お父様のお気持ちを知らず、出すぎた態度をとってしまいました」


私の声に唯でさえ深い頭がさらに地面にめり込まんばかりに頭を下げる。


「それよりお前達も近くに来なさい。私に顔を見せてくれ」


「「はい!」」


私がそう言うと二人は花が咲いたように喜び、近くに寄って来る。二人共走りたいのを押さえているのかソワソワしながら気品高い足取りで近づいてくる。


「皆に心配をかけてしまったようだ。許してくれ」


「い、いいえ。とんでも御座いません!」


ガブリエルが主の言葉に反応する。それと同じく私の手を掴んでいたミカエルが泣き顔を取り繕い、整った薄い桃色の唇を必死に形を作りながら笑いながら。私の目を見て丁寧に言葉を選びながら言うのだった。


「我ら従者一同貴方様のお目覚めを大変嬉しく思います」


(どうなってるんだ? 一体何が起こっている)


突如、自身に降りかかった摩訶不思議な状況の数々、脳が処理しきれず無意識に説明を求めた。


「ありがとう。すまないが、今の状況が把握できず困惑している。誰か説明をしてくれないか?」


自分の口調が変わっていることに気付く。しかし、今はそんな事に考える脳の余力はなく。疑問をグッと心の中で押さえ込み目の前の従者達を見るのだった。






場所は変わって大広間の王の間。


体調が良くなった私を見ると、従者の一人が『宜しければ王の間に移動いたしませんか? ここは、その......恐れ多くて落ち着きませんので』と提案したので移動してきた。

従者達からすると、殆ど話したことがないご主人様が倒れ、目が覚めると急に従者達に優しくなっているのだから落ち着かないのも無理は無い。


私は羽を霧散させ収納すると王座に腰を下ろす。その前に七人の天使達が膝を付き頭を垂れていた。普段の私なら不安で直ぐに表情に出る筈なのだが、何故か僕の心は穏やかな湖のように落ち着いている。そんな普通じゃない自分に内心驚いていると天使の一人が静寂を終わらせる。


「どうやら我が主は混乱しているご様子。ですのでこの不肖ガブリエルが皆に代わって現状今起こっていることをご説明させて頂きます」


「あ、あぁ。頼む」


耳にかかる程の白い髪を揺らし、整った顔立ちの狐の様な目をした天使。ガブリエルが一瞬驚いた表情を見せり。しかし、すぐに表情を戻すと説明をし始めた。


「現在我が都市ウラミガがネイバーワールドではない異なる場所に転移してしまっています―――」


私が起きる少し前、妙な振動と共に空が光りだし、気が付くと知らない場所に飛ばされてしまっていたらしい。偵察部隊を周囲に放ち情報を集めたら以下の事が判明した。一、ネイバーワールドで存在していた場所より遥に高い位置にウラミガが存在している。ニ、地面は存在し、人の住んでいる村や町がある。しかし、普通の人が殆どで剣や弓、少なくはあるが杖を持った魔法使いが確認できたが、レベルの低いプレイヤー以下の力もなく、低級のモンスターにすら手こずっていた。三、今も周囲を警戒し、偵察部隊を出しているがプレイヤーらしき人影は見つかっていない。大きく分けてこの三つの事柄を具体的に分かりやすいようにガブリエルは教えてくれた。


「説明ありがとうガブリエル。じゃあ今の所プレイヤーは確認出来なかった。そうだな?」


「お褒め頂き僭越至極。―――はい、お母様の仰る通り現在プレイヤーらしき者は発見できておりません。ウラミガ全域に厳戒態勢を敷き、外界に繋がる転移門は閉め、より強固な魔法で封を致しました」


「不可視の結界は?」


「勿論貼って御座います。それに加え、オファニエルが探知の結界貼りその上、上級プレイヤーでも突破が困難な程の異界を創り出し、ウラミガ周辺を囲い込むように守っております」


「ご苦労。後でオファニエルにも礼を言っておかなくてな」


ガブリエルの説明を聞き終わり、礼の言葉を発すると。先ほどまで緩みきっていた顔が嘘のように凛々しい面持ちのミカエルが私の直ぐ傍で膝を付き口を開いた。


「必要御座いません。我ら天使達は神天使であるお母様の為に存在しています。どうかその輝かしく雄雄しい威光を持って悠然と構えていてくださいませ。それが、我らにとって何より嬉しいことで御座います」


「いいやそうはいくまい。私の為に子供達が頑張ってくれたのだ。何かをしてもらったらそれ相応の礼をしなければ私の沽券に関わる。そうだな―――オファニエルに聖痕を与えると言うのはどうだろう?」


聖痕とは私が世界大会で優勝した時に運営から貰った特別な職業(ジョブ)の固有アビリティの一つである。プレイヤーや守護モンスター、従者NPCに付与すると私の五分の一のステータス分付与した相手のステータスが上昇しランダムに私のアビリティの一つを無条件に習得することが出来る。極低確率ではあるが、固有アビリティも習得することが出来る為、ネイバーワールド時代はこの聖痕目当てに大量のギルド勧誘が来たものだ。中には現実通貨(リアルマネー)を払うから聖痕を付与してくれと言われたこともあった。


この世界にどんな脅威が存在するか分からない以上、此方の戦力を上げようと思ったのだが―――。


「「「「「「「「なっ!?」」」」」」」


綺麗に全員の声が揃う。

先ほどまでいがみ合っていたウリエルとザドキエルが同じように目を見開き驚愕の顔を露わにしているところを見ると思わず笑ってしまいそうになるが、そこはグッと堪えた。

そして、一拍置いてミカエルが焦ったように口を開いた。


「い、いけません! たかが周辺に結界や異界を張ったぐらいで聖痕を与えるなんて!」


「私もミカエルの意見に賛成です! あれは高い功績を挙げた時のみに頂ける我ら天使にとって最も名誉ある物で御座います。高レベルのプレイヤーのステージを落としたのなら露知らず、自らの拠点を一時的に防衛力を上げただけで聖痕をお与えになるのはいささか寵愛が過ぎると愚考いたします。どうか、お考え直し下さいませ」


「う、うむ......。ガブリエル、お前はどう思う?」


私の言葉に目を閉じ、顎に手を当て思案を巡らすと微笑しながら話し始めた。


「はい。私の部下が聖痕を授与されると言うのは大変名誉なことで御座います。―――しかし、そうですね、幾らお優しいお母様であっても(いささ)か温情が過ぎると愚考します。だがしかし、一度差し出したお母様のお心遣いを無下にするのは我ら子達、一人として望んではおりません。ですからこう言うのはどうでしょう。異なる世界に転移した今、同じように転移して来たプレイヤーやこの世界の勢力と戦闘になることがある筈です。その時はオファニエルに武功を上げる機会をお与えになっては如何でしょうか?」


「ま、まぁそれくらいなら......」


「私は良いと思いますが」


ザドキエルとカマエルはガブリエルの提案に賛成した。他の者達を見ても特に反対と言う訳ではないのか沈黙を持って賛成の意を伝える。


(決まったな)


「我が意は決した。ガブリエル、お前の提案を全面的に受け入れ次戦いが起こった時は優先的にオファニエルに武功を立てる機会を与えることにしよう。それから、厳戒態勢はこのまま維持。当面はこの世界に勢力が脅威となりえるか、他のプレイヤーがどれほど転移しているのかを引き続き調査する。今まで投入して来た偵察部隊に加え必要であれば諜報部隊からも人員を割いても構わん、今は情報を最優先に行動しなさい。皆も気を引き締めてことに当たるように。良いな?」


「「「「「「「ハッ!!」」」」」」」


「では解散。各々持ち場に戻れ」


身体全体が白い粒子になり、奥の自室へと転移していった。そして、主人が居なくなった王の間。従者である天使達は立ち上がると姿勢を正した。

直ぐにガブリエルは「それでは皆様また」と短く言い残すと主人と同じように光の中へと消えていった。


「お父様、お目覚めになってから変わったかも」


「そうだね。お母様なんか私達に対して柔らかくなった感じがする。前のお母様も凛々しくて素敵だったけど、今のお母様は何て言うか......好き」


カマエルとザドキエルの会話にウリエルが交ざる。


「今回みたいに話したの始めたじゃねぇか? 何時もは一言二言命令されたら直ぐ戦場に出ておられたからな。ま、俺には関係ねぇ、俺はただお母様の言う通りに敵をぶっ殺すだけだ」


「ウリエル殿が羨ましいです」


「あぁ?」


唐突な賛辞に怪訝な表情を見せるウリエルの正面に向き直り、嫌味のない無垢な面持ちで淡々と言い放つ。


「いえ、何も考えないで行動出来たら楽だなと思いまして」


「テメェ喧嘩売ってんのか!?」


「売ってません。真実を申し上げているだけです」


一触即発な雰囲気。何時殴りあっても無理ないほど睨み合っている両者の間にカマエルが割って入り必死に宥める。


「この「まぁまぁウリエル殿。ザドキエルには私が言っておきますから!」―――ま、まぁ子供に腹を立てるのは大人げねぇからな」


必死身振り手振りで言い繕うカマエルの顔を立ててか眉の端をピクピクと震わせながら耐えるように自分に言い訳しながら身を引くウリエル。しかし、必死にカマエルが場を押さえ込んだにも関わらず、それを平然と崩す小さな存在。


「そうですね。だから、私は全然腹立たしいとは思っていませんよ」


「俺が子供ってのかっ!? 「まぁまぁ!! ウリエル殿」ッチ! もう行くぜ!」


あわあわと焦りながら再び二人の間に入るカマエル。ウリエルは寸での所で感情を押さえ込むと、残し炎に包まれ、元の持ち場に戻っていった。以前として表情を崩さないザドキエルは先ほどまでの会話が無かったかのように頬を赤く染めながら不安そうな声音で呟くように声を出す。


「も、もしかしたら頑張ればお母様にお褒めいただけるかしら......」


ザドキエルの顔を見てからホッと一息付くカマエル。


「そうだね。ザドキエルは頑張り屋さんだからきっとお父様にお褒めいただけるわ。―――もしかしたら頭を優しく撫でてくれたりして?」


「あっ! 頭!? そ、それは素晴らしいことね! ......でも、私達はお母様の護衛がお仕事だし目立った戦果を得る機会はないし」


「じゃあ、お父様に落ち着いた時に頼んでみればいいんじゃない? 私も時を見て頼んで上げるよ」


「ほんと!? ありがとうザドキエル。そうと決まればお母様の護衛頑張ろう」


「そうだね」


「はぁ......ガブリエル殿はお母様のあんなに言の葉を交わせて羨ましい」


今までになかった主人の態度に全員が戸惑いつつも期待が半分、不安が半分といった気持ちで皆、頭の中で己のすべき行動を整理し、最初にしなければならないことを確認しながら各々持ち場に移動して行くのだった。


そして、残っているのは二人。ミカエルとラファエルがやや険しい顔で話し合っている。


「しかし、どういったことか。よもや熾天使(セラフィム)ではない座天使(スローンズ)に聖痕をお与えになとうとは」


「そうね。オファニエルはそんなにお母様に覚え愛でたかったかしら? 私の知る限りだとオファニエルがお母様と謁見が叶ったのはそう多くなかった気がするけど」


「......私には貴きお方の考えは分からない。もしかしたら私達には及ばない何か深い考えがある筈だ」


ミカエルの答えに聞くとラファエルは手に持っている杖で床を大きく叩く。


「それは少し危うい考え方だと思うわ。盲目的に従っているだけではもしお母様がお間違えになった時誰がお母様をお助けするというの?」


「―――そう......かもしれんな。いや、私もまだまだだな。ありがとうラファエル」


ラファエルは小さく微笑むと自分の持ち場へと帰っていった。


ミカエルも主人の変化に嬉しく思うと同時に困惑してた。普通なら功績を挙げた天使達の階級を上げる。そして、最上位の天使である熾天使(セラフィム)へと進化を果たした者がさらにめざましい功績を上げた者に与えられる最上級たる名誉。それが聖痕の賜るということだ。

だからこそ、今回の主人の提案は私達を戸惑わせた。


幾ら、未知数の勢力を危惧して此方の戦力を増強をするのが急務だといっても聖痕を与えるのはやり過ぎだ。これではオファニエルを贔屓していると周りに見えてしまう。正直組織の長としてその判断は間違っている。今まで主なら間違っても聖痕を与えるなんて言うお人ではなかった。


(一体どうして......)


「異なった世界の転移。お母様の変化。良くもまぁおかしな事が立て続けに起こったものだ」

















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