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合わせ鏡の呪縛。転生して双子というカテゴリーから脱出したので、今度こそ幸せを目指します。  作者: 美杉。(美杉日和。)6/27節約令嬢発売中


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閑話 決意(キース視点)

「私がいけないの? 私が……」

「ソフィア」

 ベッドに横たわったまま、宙を彷徨うソフィアの手を握った。その手はまるで氷のように冷たい。強く手を握ると、数時間ぶりにソフィアがその瞳を開ける。しかしソフィアの意識はまだ朦朧としているようで、手を握った俺を見たが視線は定まらない。

「……母さんはいつもあの子だけを可愛がった。二人で手を繋いで、楽しそうに歩くの。私はいつでも置いてきぼりで、構ってもらえなくて……。でもちゃんと自分で全部出来たら、偉いねって言ってくれる気がしてずっとずっと頑張ってたの」

「ソフィア? それは何の」

 まるで昔話をするように、ソフィアが横を向いて話し始めた。

「父さんは家を全く顧みない人で、私たち二人とも可愛がることはなかった。でも私がすれば怒るようなことでも、父さんはあの子には怒らなかった。友達だって……あの子の周りにはいつも大勢の子がいた。いつもいろんな子に囲まれて、学校の中心にいたわ」

「……」

「私たちは同じなのに。同じなのに、何が違うの? 顔だって声だって全く同じなのに、なんであの子はみんなに愛されて、なんで私は一人ぼっちなの?」

「ソフィア、記憶が」

 話を聞いているうちに、どこかその話がおかしなことに気付く。同じとは、何を指すのだろう。ソフィアとミアでは髪の色も瞳の色も全く違う。声も似てはいても、同じではないのだ。そして何より、ミアはソフィアが通っていた王立の学園には通っていない。

 一つのことがおかしいと思うと、その話全てがおかしく思えてくる。侯爵夫人はとても子煩悩だと有名で、学園に入りたいと行ったソフィアの後押しをしたと聞いたことがある。それに前にカフェに来ていた時も、とても仲の良い親子そのものだった。

 侯爵は確かに仕事人間で職業柄、家に帰る時間は少ないかもしれない。しかし娘のことは溺愛していて、相手が王族であっても俺の求婚を断るくらいの人だ。

「どうしてあの子は、いつでも私が欲しいと思うものを奪っていくの……。私がいけないの? いけなかったの? ちゃんと欲しいものは欲しいと……言わなかったから」

「違う。そんなことない。ソフィアは何にも悪くない。そんな寂しい思いをしているソフィアのことを思ってやらなかった奴やが悪いんだ。どうして家族なのに、君が一人で悲しい思いをしなければいけないんだ。そんなのおかしいだろう」

 思わす反論すると、ソフィアは今まで見たどの笑顔よりも、幸せそうに笑った。

「キースは私のために怒ってくれるのね」

「俺だけじゃなくても、グレンだってそんなこと聞いたら、怒るさ。さあ、もう少し眠るんだ。俺はどこにも行かないよ。ずっとソフィアの側にいる。俺はソフィアだけのものだよ」

「ふふふ。最後の最後に、ずいぶん都合の良い夢だわ。でもそうね、それならきっと私は今度こそ幸せね」

 開いているもう片方の手でソフィアの頬に触れた。ソフィアは目を細め、視線を一度こちらに向けた後、再び眠りについた。先ほどの苦しそうに歪む顔とは違い、その顔はとても穏やかで小さな寝息を立てている。


「グレン、さっきのソフィアの話どう思う?」

「過去の話でしょう。おそらく、ソフィアになる以前の」

「お前の言う、前世というやつか」

「ええ、おそらく」

「どれだけお前の話を聞いてもずっと半信半疑だったんだけどな。でもソフィアの口から言われると、いよいよ現実なんだと思い知らされるよ」

 前世の記憶があるというのは、一体どんな感覚なのか想像も付かないが、その過去が悲しみに溢れていたことだけはよく分かった。それならば、今俺がソフィアにしてあげられることは何だろう。ソフィアがもう二度と、悲しみに泣き暮れないように出来ることは。

「それにしてもソフィアの言葉の中に何度か出てきた、同じというのは何だと思う?」

「先ほどから僕もそれを考えていたんですよ。これはまだ憶測でしかないのですが、双子という可能性はないですかね」

「そうか、同じ顔に同じ声。前世ではソフィアは双子だったということか。それなら確かに、先ほどの話の意味が通じるな」

「ええ。そしておそらく、その双子の片割れは……」

「もしかして、それがミア嬢か。まさか、そんな偶然があるのか」

 だが、もしグレンの言うことが当たっているとしたら、神のいたずらにしては質が悪すぎるだろう。ただ、なんとなく漠然としていたものがパズルのピースのように当てはまっていく気がした。

「最悪だ」

 ソフィアに渡そうとしていた箱を見た。これは一昨日、ミア嬢とソフィアのために買いに行ったものだ。

「あの日、一昨日の昼過ぎにグレンに会った帰りだと言ってミア嬢に偶然会ったんだ。そこで婚約者の妹だと挨拶された」

 俺はあの日のことを、必死に思い返した。


 朝から会議に面会、書類とやっていたら時刻はすっかりお茶の時間すら過ぎていた。ソフィアとあの日別れてからまだ一日半しか経っていないというのに、もう会いたいと思う自分がいた。グレンにソフィアとのデートの話をしたら呆れられてしまったから、次に会う前に何か贈り物をしよう。そう決めて、中庭をやや急ぎ足で歩き出す。

「これは、王弟殿下ではございませんか。ご挨拶を申し上げてもよろしいですか?」

 一人のご令嬢に呼び止められる。急いでいるのだがと思っても、無下に出来ず振り返ると、侍女に付き添われたストロベリーブロンドの可愛らしい令嬢がいた。

「もしかして、どこかへお急ぎでしたでしょうか?」

 小首を傾げる様は、どうすれは自分が一番可愛く見えるのか計算されているようにさえ思えた。

「いや、急ぎというほど、急なものではない」

「ああ、良かったです。わたくし、ブレイアム家の二女でミア・ブレイアムと申します」

「ブレイアム家ということは、ソフィアの」

「はい、妹になります。殿下と姉がとても親しくさせていただいていると聞き、ご挨拶をと思ったのです」

 ソフィアの妹ということは、グレンの婚約者ということか。そのうち紹介すると言っていたが、想像とは全く逆だな。国王も、挨拶された時に少し驚いたとは言っていたが。ソフィアとも全く雰囲気が違う上に、グレンがこういう系の子を選ぶというのは、何とも……。

「王弟殿下?」

「いや、何でもない。グレンから可愛い婚約者だと言われていたから、確かにと見惚れてしまったんだ」

「まぁ。殿下は口がうまいんですこと。姉と婚約をとも聞いております。妹としては、殿下のような方が義兄になって下さるなら、これ以上の喜びはないですわ」

「まだソフィアからは、返事をもらえてはないのだがな」

「姉はとても慎ましい方ですので、急なことで驚いているだけだと思いますわ」

「そうだと有難いのだが」

「いつもいつも慎ましすぎて、着飾ることもしないんですよ。妹のわたくしが言うのもなんですが、あんなに美しいのだから、もっと着飾ればいいと思うんですよ。殿下もそう思いませんか?」

「ああ、確かにそうだな」

 この前の普段着も、カフェで見た普段着も確かに高級ではあるだろうが、とても簡素なものだった。ミア嬢の言う通り、せめて髪飾りやペンダントくらいあってもいいくらいだ。

 グレンからは姉妹仲はあまり芳しくないと聞いていたのだが、姉のことをしっかり見ていて姉を思う姿はとてもそうは思えない。

「ちょうどこの前に仕事を付き合ってもらったお礼に、ソフィアに何か贈ろうと思っていたんだ」

「それは良い考えですわ。着飾らない姉でも、殿下からいただいたものならきっと、喜んで付けると思います。あ、でも……」

「ん? どうした」

「そのぅ、姉が慎ましいと先ほど言いましたが、あまり高い物を送ると恐縮して受け取るのを考えてしまうかもしれません」

 確かに仕事のお礼だと言ってあまり高価な物を送ると、恐縮してもう二度と手伝ってもらえないかもしれないな。ただ今まで、装飾店は貴族が普通に入る店しか入ったことはない。街で探すしかないか。

「殿下、わたくしいいお店を知っているので、ご一緒させていただけませんか? その店は平民でも頑張れば買えるくらいの値段の物を取り扱っているのですが、今とても人気のある店なんです。きっと姉も喜ぶと思いますわ」

「いやしかし、さすがに二人でというのは」

「大丈夫ですわ。侍女も控えておりますし、未来の義妹ではないですか。さ、参りましょう」

 やや強引に押し切られるように中庭を歩き出した。


 あの店の位置は、冒険者ギルドの斜め向かい。もしミア嬢がソフィアの行動を把握していたのなら、全ては彼女の計画通りだったのか。あの日、ソフィアはギルドの中にいた。出てきてすぐに、店の前の馬車を見つけただろう。そうして店に近づけば、中にいる俺たちのことを見ることになる。

「ミアと二人で買い物に出かけたのですね、キース」

「お前に断りなくミア嬢と行ったことは謝るよ」

 じとりと睨むグレンに頭を下げる。

「二人の仲が悪いとは事前に告げていたはずですが」

「聞いてはいたが、まさかそんなに酷いとは思わなかったんだ。その上、こんなことを計画していたなんて」

「はぁ。もうそれは自業自得ですね。僕はいつか言いませんでしたか? ミアのソフィアを見る瞳が欲しいと」

 漠然とグレンの話を聞いていたが、グレンが欲しい瞳というのはあの執拗に追いかける様がということか。

「変わっているな、お前」

「普通の令嬢では、あんなに執拗に追いかけてはくれませんからね」

 そんなところを見染められたミア嬢も、ある意味気の毒だな。もっとも、俺としては誰であろうとソフィアを害する者は許せそうにはない。

 ただ今回のことは俺にも落ち度がある。ソフィアが目を覚ましたら、まず謝ろう。王族だとかそんなものは関係ない。ただ一人、愛する人を傷つけたのだから。

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