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合わせ鏡の呪縛。転生して双子というカテゴリーから脱出したので、今度こそ幸せを目指します。  作者: 美杉。(美杉日和。)6/27節約令嬢発売中


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閑話 どこかおかしな姉妹(グレン視点)

 今日はミアの我が儘に付き合ってドレスの打ち合わせ以外にも食事や買い物をしてきたせいで、すっかり遅くなってしまった。夕方前には戻るとキースに約束した時間を過ぎ、すでに日は沈んでいる。小言の一つも覚悟しながら、執務室の扉を開けた。

「お帰り、グレン。何かいい物は見つかったか」

「遅くなってすみません。ドレス選びに時間がかかってしまって。それにしても随分、上機嫌ですね。どこか行っていらしたんですか?」

「ああ、ソフィアと少しな。婚約式と結婚式のドレスを作るんだ。時間ぐらいかかるだろ」

「それもそうですが」

「なぁ、それよりグレン、魔物ってお前はどう思う」

 上機嫌だとは思ったが、急にその勢いのまま質問が飛んでくる。そういえば、昔からそうだったな。キースとはもう長い付き合いになる。前王が生きておられた頃、第二王子であるこの方の遊び相手としてこの城に連れて来られてからの仲だ。そんな頃から興味を持ったものがあると、急に質問を投げかけてくるだの。しかも答えが微妙だったり、答えにくいような質問ばかりだ。

 今回の質問にしてもそうだ。魔物をどう思うかというのは、あくまで主観について聞いているようで、おそらくそんな簡単な答えをキースは望んでいない。自分の性格を棚に上げるのもどうかとは思うが、キースに付いていく人間は何かと大変だろうなと、心でため息をつく。

「質問の意図がイマイチ分かりませんが、討伐対象であり、人や生態系に害をなすものという答えでいいですか?」

「普通、そうだよな。普通は」

「で、勿体ぶらず、何なのです。貴方が欲しかった答えは」

「ソフィアが肉だと言うんだ」

 キースは椅子に腰かけたまま、子どもの様な笑顔を向けてくる。それにしても、魔物が肉……。これはまた、なかなかの返しだな。

「抽象的すぎて、意味が分かりません。肉とは、食べる肉のことですか」

「ああそうだ。頭や尻尾を切って皮を剥いだら肉だから、魔物も食べられるんじゃないかというんだ」

「それはまた……随分突拍子もない話ですね」

 言われてみれば、確かに肉と言えば肉だ。ただ、今まで魔物を肉という発想がなかった。魔物は所詮、魔からなる不浄な物と考える方が一般的だろう。それを食べるなんて、冒険者ならまだしも貴族の令嬢がどうやったらそんなことを思いつくのだろうか。相変わらず彼女も、興味深い。

「で、そんなもの、食べられるのですか?」

「さっき二人で冒険者ギルドに行って、食べられるか確かめてきたんだ。やはり一部は食べられるらしい。それ以外の物も、食べられるかどうか、今度協会に鑑定依頼を出すつもりだ」

「それはまた、すごい話ですね」

「ああ、ソフィアは本当にすごいよ。グレンの言っていた以上だ」

 惚気たように、一人うれしそうにソフィアの凄さを語っている。ソフィアを紹介した自分としては鼻が高いと同時に、友を取られたような少しもの悲しさがある。今まで、友と呼べる友は作ってはこなかった。自分と異なる点をたくさん持つキースのような興味を引く人間もいなかったし、また自分と同等に話せる人間もほとんどいなかったから。その点ソフィアは、唯一同じ目線で同じ会話のできる人間と言えるだろう。だからこそ、次に王位継承を行い、この国の王になるキースにはソフィアのような女性が必要だと思った。それを取られたなど、そんな子どもじみた低俗な考えが、自分にもあったことに驚く。

 驚いたと言えば、執務室の机の上の書類が思ったより片付いている。いつもなら、自分が抜けてしまえばこの倍くらいの書類は残っているはずなのだが。

「殿下、ここへソフィアが来たのですか」

「ああ、書類はソフィアが半分片付けてくれたさ」

 ソフィアの優秀さはキースより自分の方が知っている。

「彼女がやった書類を見てもいいですか?」

 そう、その上でずっと気になっていることがあった。

「書類ではなく、お前が見たいのはこっちだろ」

 そう言ってキースが一枚の紙を差し出した。それはソフィアが計算する時にメモとして使っていた紙だ。紙には見たこともないような記号や計算方式が書かれている。そう、これは彼女の秘密といっても過言ではない。完璧な令嬢にも関わらず、他の令嬢とは明らかに何かがあの()()()違う。幼いころから、ずっと二人には興味があった。いつも言動がややおかしいのは妹であるミア。そしてミアは何かにつけて、ソフィアの様子を探り、固執していた。

「で、それで何か分かったか」

「もちろんですよ」

「ずいぶんと腹黒い笑みだな」

 キースに言われ、自分が笑みを浮かべていることを自覚する。何せずっと知りたいと思っていたことの、片鱗が垣間見えたのだ。喜ばずにはいられないだろう。

「やはり仮説は当たっていそうですね。この計算式もそうですし、それ以外に書かれた文字もそうです。この文字はこの世界には存在しません」

「前に王立図書館で見つけた密書に書かれていたというやつか」

「ええ、そうです。おそらく正解でしょう。元々、ミアはそうではないかと思っていたのですが、ソフィアもやはりそうでしたね」

「こんなのに執着されている姉妹が哀れに思えるな」

「こんなの呼ばわりするなら、その書類は手伝いませんからね」

「いや、それは困る。半分引き取ってくれ。またソフィアから情報が聞ければ、ちゃんと報告してやるよ。この世界の全てを知りたいんだろ」

「そんな大げさなものではないですよ。ただ知らないことがあったら、突き詰めないと気が済まない質なだけです」

 そう言って、眼鏡を上げる。知らないことがあれば、知りたいと思うのが人間だろう。彼女たちがひた隠していることもそうだ。

 何よりあれだけ姉に固執する妹の心の中も。そしていつかその瞳が僕だけを追いかければいいと思っているということは、明かさない方がいいだろう。ミアに嫌われてしまうのは、さすがに困るから。

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