僕は精霊
人は一度身に付いた生活を捨てる事はなかなか出来ない。
僕はほんの少しだけ、都市を綺麗にしてやっただけだ。ソレは当然、精霊の気紛れと言うモノでずっと続く訳が無い。
ある日、道端にゴミが残っていた。
その日、水路の水が濁っていた。
この日、人は何処か不快感を覚えた。
「誰だよ!こんな所にゴミを捨てやがったやつ!」
「ねぇ、なんだか臭わない?」
「髪に糸屑が付いてるわよ」
あっという間に、とはいかないものの緩やかに都市は10年前に戻っていった。
けれども人にとって10年は長い。
以前は気にならなかったゴミは汚いモノとして視界をちらつき、感じなかった臭気を感じとり、汗をかく事に不快感を覚えた。
10年前を知っていても、いや、知っているからこそ人々は清潔さと言うモノを確かに意識し始めた。
まず、壁の外にゴミ山が作られた。外は別なのだ。
続いて、掃除兵と言う専用の職業が出来た。ゴミが落ちていれば怒鳴られる最低職ではあるが、一応都市の役職として公認されたのだ。
次に、水路は深くなり、蓋をされるようになった。事実上の下水道である。都市中に張り巡らされた水路だったが、魔法で比較的速やかに処理された。
臭いモノには蓋。
最後に、新しい魔法が浸透した。
洗浄魔法である。精霊の専売特許である分解とは違い、水を操りゴミや汚れを落とすだけの魔法だ。下水道が深くされたのもコレによる汚水の量が増えた為である。
おおよそ5年。
変化は精霊にとって急激だった。
ちょっとしたイタズラが成功した程度の時間感覚だ。
僕は楽しくコロコロ変わる人の営みを観察した。まるで箱庭ゲームだった。
上空からほとんど何もせず、都市を観察する。それでも上級精霊が15年も一ヶ所に留まった事による魔素の増加は年々植物を繁らせ、土地を豊かにしていった。
「……気紛れ。だって、偉そうだね」
本当に偉そう。厄介なだけなのに。
手出し出来ないから仕方ないとそう言う言い方を人はする。
精霊なんて自分勝手。
僕は人の都市を見てがっかりしただけだ。
前世で見た事の無い、独立した都市は(技術レベル的に)魔法だから出来る巨大さで……勝手に期待した。
実際は魔法が有るだけで、汚くて、近寄りたくすらなかった。
だから、綺麗にした。
想像した理想の都市に近づけた。
どうせずっとは続けられないから、少しでも人が気にするようになれば良いと思った。
上手くいって上機嫌になった。何様のつもりだろう。
「辞めた。何処か適当な所で暮らそう」
自殺した人がまた人の所へ来る事が、変だったんだ。
都市の向こう。僕が来た方向の反対へ移動を始めた。
この先は、きっと人が増える。
けれど、魔素が減る。
精霊としての存在意義を果たしてみようと思った。
世界の一角は魔王によって精霊樹が無くなり荒廃した世界だ。
そこには多くの都市が有る。何故ならば、弱い魔物しか居ないからだ。
そして、荒廃したと言っても鬱蒼とした森を開拓するよりは、拓けた場所で都市も作りやすかっただろう。
食料は魔物肉中心で、僅かに小さな魔物が食い繋ぐ程度の草木は有るし、しょっちゅう人類圏の外から縄張り争いに負けた魔物が来る。敢えて言うなれば人が出すゴミを漁る魔物も。
ところで、まだグルウガの所に居た時に精霊樹の繁殖方法を聞いた事が有る。
一度に成樹、精霊を再生出来るまで育てるには大精霊相当の魔素が必要だが、基本的には精霊ならば自由に植える事が出来る。
種ならば下級精霊でも、苗木ならば中級精霊でも、若木ならば上級精霊でも造れる。
一度作ってしまえば、後は周囲から魔素を吸収し勝手に育つのだ。
荒廃した地に精霊樹を植えようと思う。
別に人類に意地悪がしたい訳じゃない。単純にこの辺りが精霊が少な過ぎて物質に寄っているのだ。
魔素の量を見ても、魔物を食い繋がせる植物は限界が近いし、何より長く魔素の薄い場所に居た人々は適応しつつ有る。最低限、身体を保つ魔力生産力を残して魔法は衰退していくだろう。
人は弱い。
特に、高過ぎる知能と繁殖力と言う組み合わせがあまり良くない。繁殖力、つまり数の暴力を振るう拳が理性によって縛られているのだ。死にたくない、死ににいかせたくないと。
「嗚呼、ダメだ。また人の事考えてる。僕はもう、精霊なのに……」
まあ、とにかく。色々と考えて、考える事を放棄した結果。精霊樹を育ててみようとなったのだった。




