精霊4
以後、更新は不定期です。
3つの卵は1年で無事に孵化した。
これだけ近くに上級精霊が居るのは珍しく、魔素に満ちていたので個体差が有る孵化まで同時だった。
ルビードラゴンのオスのグルキュ。
パールドラゴンのオスのガルゥク。
パールドラゴンのメスのクルゥク。
産まれたばかりの子竜達はそれはもう可愛らしかった。遊び回って泥だらけ、血塗れにならなければ。
綺麗にしても。
綺麗にしても。
綺麗にしても。
「あ~っ!また爪折った!」
「きゅー」
「「クルルゥ」」
ドラゴンの子は容赦ない。じゃれあいで、爪を折るのは当たり前。何かにぶつかっては鱗は禿げ散らかして、何を噛んだか歯茎から血が滴っている。病気どころか元気が良すぎる。
でもすぐ治る。ドラゴンだから。
うっかり3兄妹を殺っちゃおうかなと、何度思った事か。けれど1から聞くドラゴンの(子竜向け)話は役に立つ。
勿論、殺っちゃったら今度こそグルウガ達と殺り合う事になるだろうが。
基本世界的に重要で不死の精霊が、結構身体を壊される理由は精霊に有る。
勿論、精霊樹を折りまくった強者も居た。人に世界を滅ぼそうとした魔王と呼ばれているが、長生きのドラゴンは知っている。精霊が悪いと。
『昔々、ある所にとても仲の良い母子が居ました』
「父は?」
『死んだ』
ドラゴンむかし話である。
『母子はニーズヘッグでしたが、ある日精霊が毒を寄越せー!と母ニーズヘッグを殺してしまいました』
『子ニーズヘッグは怒り、そのニーズヘッグの特徴である巨体と猛毒で次々と精霊樹をなぎ倒し、腐らせていきました』
『けれども、理不尽な事に精霊は精霊樹の有る限り不死であり、精霊の存在は世界に必要なものでした』
『やがて子ニーズヘッグは、世界の為に神竜に滅ぼされてしまいました』
「……」
『今回の教訓は精霊には注意しましょうと言う事と。精霊は殺っても良いけど、精霊樹は守りましょうと言う事ね』
「「「キュー!ッ」」」
まだ話せない子竜達は元気よく返事して、ハッとした顔で僕を見た。
「わーっ!」
「キュアァ!」
「「クルァッ!」」
ちょっと脅かしてみた。
『こらこら。ニホは今のところ害の無い精霊よ?』
「失礼な。僕は人畜無害な事に定評があるよ?うん。まだ誰かに迷惑をかけた事はない筈だ」
『まだ、か』
『まだ、ねぇ』
グルウガとキュクルゥに微妙な顔をされた。
一応僕は、他人に迷惑をかけないがモットーなのだ。
グルウガ達と暮らして居るけど、頼った事も無いし。善意を受けた事はあるけれど。
精霊は幻獣に分類されるが、一般的な認識は自然災害だったりする。或いは自然の化身だ。恩恵と害を振り撒くと知られている。
まあ、幻獣と言う分類自体が、人以外で意志疎通の出来る知能の高い魔物と言う曖昧な分類ではある。
でもそろそろ、
「旅に出ようかなぁ」
『そうか』
『最近そわそわしていたものね。子供達も成長して厳つくなってきたし』
がっつりバレてた。
子竜が可愛くなく、それでいてまだ凛々しさや美しさも持たない中途半端で煩くなってきた時期(子竜30歳)。
もっと言えば、それこそ一所に留まるのも限界な程に成長してしまったのだ。周辺の魔素濃度は上がり、精霊の糧となる魔力や物質が足りないと言う意味で。
「う~ん。でも、子竜達が煩いしな~」
「「「!」」」
『元気盛りだからな』
『精霊は面白い事は好きだけど、単純に騒がしいのは苦手よね』
僕が精霊に転生した理由が分かる、精霊の実態。
『我らも十分世話になった。何処へ行くにしてもたまには思い出してくれ』
『そうね。子竜達が成長した頃にでも鱗を剥ぎに来ると良いわ。わたくし達は引き止めたりしないからね』
「じゃ、行ってくる」
精霊として以前に、実に僕と言うモノを分かっている夫婦である。そして、思い立ったが吉日。準備も何も無い僕はその日の内に旅立った。
「「「キュー!」」」
『さようなら』
「グルゥガアアアァッ!!」
グルウガは最後に大きく吼えて送り出してくれた。
僕は精霊。
ふわりと風に逆らい、魔素に乗って気ままに飛んで行く。
背中の羽はデフォルトで、身体はただの器。
前世が人だから、人の姿をしているだけの魔素の塊。
ちょっとだけ盛った、美人の姿。
せっかくなので虫っぽい羽からドラゴン風の鱗翼に変えて。
ファンタジーな、白真珠の髪と紅玉の瞳を持って。
知らない場所へ向かう。
どうせ魔素が見える存在にしか見えないけど。