精霊3
僕とグルウガの生活はゆっくりと、そして確実に過ぎ去っていった。
100年。
僕はグルウガの側で、グータラしているだけで上級精霊に成ってしまった。もはやそこらの魔物(この世界の生き物は、人、魔物、幻獣に分けられる)には負けない。ドラゴンの力は偉大だ。
「……グルウガは番を作らないの?」
『ブッ』
グルウガは物知らずな僕に色々と説明してくれた。一帯の縄張りの頂点に立つグルウガが、実は(ドラゴンの中で)血統が良く実力が有る若いドラゴンだとか。
特に、ここ100年は(僕のお陰で)美しさに磨きがかかってモテモテだとか。ドラゴンの中でもやっぱりグルウガはイケメンらしい。
しかも、グルウガは絶賛適齢期中と言うやつなのだ。
「この間、友達に精霊流・姿隠しを教えて貰ったからグルウガでも見えないよう隠れてるよ?」
精霊は普通見えない存在だが、ちゃんと精霊が見える存在から隠れる術も存在していた。
『むぅ……、相性と言うモノがあるのだ』
「ふ~ん」
『……ぅ』
「知ってるよ~。グルウガが狩りから帰ってくる時、大体同じ魔力が一番強く残ってる~」
残り香的な。
グルウガの種族は紅竜。グルウガの番候補は真竜。
基本的に宝石の名がつく種族は上級竜であり、等級が同じならば相性は良い。何故ならば、子供は両親のうち等級が低い方の種族で産まれやすい。
偽竜・実は竜じゃない。
下級竜・多い。飛竜、走竜とか……。特化型が多い。
中級竜・色由来の名前。レッドドラゴンとか。
上級竜・宝石由来の名前。ルビードラゴンとか。
神竜(神龍)・つおい。
大精霊がドラゴン位強いと言っても、中級竜とやりあった記録しかなかったりするのだ。
さて、グルウガは上級竜で番候補も居る。
『その……良いのか?』
「……?」
『いや、我とニホはそこそこの付き合いだろう?巣を整えたのもニホだ。精霊の気紛れさは知っている。何より、やりあいたくは無いのだ』
精霊は気紛れである。
精霊は不死である。
精霊に産まれたからには強さに上限は無い。
長い付き合いでも、ある日突然敵対する事は珍しくない。(大体は精霊が相手の逆鱗に触れる)
そして、究極的に精霊は負けない。
つまり、グルウガは僕の機嫌を伺っていると。
「ソレはとても不本意。僕が自分勝手な事は認めるけど、だからこそ気に入らなければ勝手に出ていく。グルウガをどうこうしようだなんて思って居ない」
『……そうか……。……では、明日からキュクルゥがこちらに住む』
何処と無く複雑な顔で、グルウガが言った。
「……明日!?」
『ああ。人のように何か必要と言う訳でも無いからな。強いて言うならばこちら側の受け入れる準備だが、巣の広さは十分であるし肉は新鮮な方が良いだろう』
「そうなんだ」
ドラゴンだしね。
やって来たのは白色の光沢が美しい、グルウガよりもすらっとしたドラゴンだった。
『あなたがグルウガの精霊ね。わたくしはキュクルゥ。宜しく、で良いかしら?』
「うん。僕はニホ。グルウガには良くして貰ってるから大歓迎だよ。是非とも子竜が見たい!」
キュクルゥは精霊をよく分かっている挨拶をした。性格によっては、金輪際会いませんの可能性があるのが精霊だ。
個人的にも、キュクルゥが邪魔ならコレを期に適当に世界を見て回ろうとも思ったけれど。
やがて、キュクルゥは卵を産んだ。
数は3つで、卵が産まれた時から年を数えるらしい。孵化する時期は1~100年で環境にもよる。僕が側に居ればそれだけで早く孵化するらしい。
2体が番になってからの経過は、グルウガがデレデレだった。グルウガの方が先に惚れたと言う衝撃の事実である。
キュクルゥの方が年は上で、産卵経験者。ドラゴンは子供が巣立つと、新しい番を探す場合が多いそうだ。巣立ちは孵化してから100年程で、寿命は上級竜の場合2、3千年程。
因みに中級竜以下は、人や魔物、他の幻獣にサックリ狩られて生涯に20~30の卵を産むが中々数が増えないのだそう。
上級竜は上級竜で、出逢いが少ないのだとか。
「精霊って、子供作れるの?」
『聞いた事無いな』
『作れるわよ。子供は種族妖精になるけれどね』
キュクルゥが知っていた。
『要は、新しい生命と言うのは体と言う器に純粋な魂が入る事ね。子供と言うモノが血の繋がりを言うのなら、自作の精霊結晶で器を作り赤子の魂を引っ張ってこれば良いのよ。
人に恋した知り合いの精霊が、処女妊娠させてその子供の魂を精霊結晶に込めて居たわね。つまり、精霊樹の元で再生出来ない精霊、妖精とはそう言う事よ』
「へえ。面倒臭そう」
結構、外道な精霊の子供の作り方だった。
『家の子で、やってみる?』
『「えっ!」』
キュクルゥがナチュラルに聞いてきた。
『だって妖精でも、結局魂は家の子でしょう?育てるのもわたくし達だし、ニホも家族のようなモノじゃない。ソレに、妖精は普通に魂の元の種族と交配出来るそうよ?』
『妖精竜の伝説か……良いかも知れないな』
「ええっ!?」
神竜は確認されているだけで4体だが、かつて妖精竜が神竜の位に居たらしい。妖精竜が実際どの程度の強さなのか知られていないので、もしかするとと竜の中では話題となっているらしい。
「う~ん。精霊結晶か……。魔素量……ムムム。……辞めとく」
そもそも精霊結晶は自分で作れるモノだ。ソレが動いた所で美しくも何とも無い。消費するであろう魔素に見会わない結果だ。
グルウガやキュクルゥは美しいが。
『やっぱりねぇ。伝説は伝説だわ』
『まず、精霊の協力を取り付けるのが難しいのだな。ニホ、我の鱗好きなだけ剥がして良いと言ったら?』
『なら、わたくしのも』
「ううぅ。魅力的だけど、辞めとく」
首から下げている小袋の中に結構貯まっているのだ。整理も出来ない内から剥がすのは勿体ない。
もっと言えば、妖精に興味が無い。いくらグルウガやキュクルゥの頼みでも興味の無い事を実行に移すのは難しい。
ので、今日も魔素を量産しながら、僕の身体より大きい白と紅の卵の上で日向ぼっこをする。