平穏
人を無事?撃退出来たようだ。
「ニャ!こんなモノ、私達も貰って良いのニャ?」
『これは……素晴らしいですね。精霊宝ですか』
「精霊宝?」
『精霊は凝り性ですので本気で作られたモノは、特別な呼び方をされる程の性能を持つのですよ』
「へ~」
なるほど。確かにそれぞれ満足いくまで魔法をつぎ込んだモノだ。核には大量の魔素を消費して精霊結晶まで組み込んでしまった。
『……は』
『……わね』
「ん?」
何やらこそこそと話していると思えば……
『精霊ニホ様の元に住まうユニコーンのセレートとして、森を守り、森を害そうとする者を捧げる証をここに頂きます』
『ペガサスのアイリス同じく』
『ハニーワスプ女王ビビー同じく』
『ミラークロウ代表カークア同じく』
『ジュエルワーム代表・…・・同じく』
『精霊ニホ様との友好の証として、ケット・シー国王代理二ーニャーミがお受け致します』
……なんか格好いい感じになった。
って言うか、一部名前が変って言うかえ?
と、同時に契約の気配を感じた。
攻めてきた人の死骸の所有権が僕に移った。〝森を害そうとする者を捧げる〟ね~。
まあ、既に残骸と言うかうん。肉とか血とかキラキラしたモノは残ってないけど前もって持っていく事を聞いていたからありなようだ。
それでも所有権が僕に移ったモノは魔素に分解しても全てが僕のモノになる。
「……おお、この魔素量は既に大精霊級じゃない?」
宝飾品以上のモノが返ってきた。
通常、僕に所有権が無いモノは魔素に変えてもほとんどが僕には吸収されない。
落とし物を拾っても誰のモノでなくても精霊は所有権を得られず、自身で作ったモノか契約によって得られたモノのみ所有権を得る。
森を害そうとする、の範囲は恐らく深層。つまり深層に住む幻獣を狙うモノ、精霊や精霊樹を狙うモノが今契約した幻獣達に殺されると僕のモノになると言う訳だ。まあ、僕のモノと言っても精霊以外の生き物は落とし物は拾った生き物が自由に出来るのだが。
それからは、幻獣達は獲物の残骸を持ってくるようになった。骨とか皮とか鎧とかだ。肉は食べるらしい。
僕の魔素は増えに増えた。
お使い程度ではなく、条件を決めた長期間の契約はとても効率が良い。
精霊契約、と言えば。
それこそ人と結ぶ精霊が増えてきた。人の余剰魔力を得る代わりに死ぬまで付き添う。と言うのが一般的だ。精霊は契約者に見えるように幻を纏う。
追加で人が頼み事をする場合は更に対価(精霊の好みによる)を貰える。
人は普通は見えない精霊が見えて、常に側に居るので対価を渡すだけで精霊の力が行使出来るようになる。
精霊が好むモノは各地の土から宝石、人工物まで幅広い。
そして人は様々なモノを流通させるので、精霊にとって珍しいモノでも手に入る可能性は高くなる。
まあ、余り精霊が集まり過ぎると増えた魔素に魔物が寄ってくるようにもなるが。それさえ時には1品の料理を対価に精霊に殺される場合が有った。
人は精霊に対価を捧げて繁栄の道を歩み。
精霊は少しの拘束で成長と満足を得るようになった。
平和な日々。
勿論、この森には精霊樹がある事は知れ渡って居るので人が大規模に攻勢を仕掛けてくる事もたびたびである。けれど、幻獣達はその度に撃退するし、最も人里に近い精霊樹はここなので、よく人に付く精霊程この森を守る事に手を貸して暮れる。
『ニホさん、今日も』
「うん。わかった」
話を遮る。
『も』の時点で分かった。侵入者を撃退出来た。いつも通り。
いちいち僕に報告してくれて居るけれど、僕はいつも通り何もしていない。森が出来た最初の頃だけだ。ここが壊される事を恐れて色々と行動したのは。
それでも、幻獣達は律儀に僕を一帯の主と認めてくれている。
もう……僕が居ても居なくてもここはこのままなんだ……。
途端に、のんびりした、綺麗なモノに囲まれている筈の生活は色褪せた。
僕は自己顕示欲が強いのかもしれない。
僕は安定より変化が好きなのかもしれない。
僕は……。
いろいろと考えて、自分を戒めてみる。
間違いなく今の僕は幸せな筈だ。
物足りないと思う方が間違っている。
でもやっぱり。
「僕はここを発つよ」
『……唐突ですね』
引き留める声は聞きたくない。
後からやって来たのはそっちだし、本来僕が比護する存在でもない。
ああ、精霊は良いな。
衣食住は要らない。旅立つ不安はない。
少しだけ、老いてきたセレート達から逃げた気持ちはあるけれど。
不老不死の精霊はどうせ、長生きな幻獣に置いていかれるしかない。
新しい場所へ行こう。
申し訳ありません。
切りも良かったので色々考えた結果、完結とさせて頂きます。
作者の都合ですが、続きが纏まったら投稿します。
ここまで読んでいただきありがとうございました。