都市
多分、ここの都市だろう。
前に見た事の有る都市より壁は分厚く、結界も強固なモノになっているようだ。
相変わらず、薄汚れた印象だがゴミが平然と落ちている事は無い。何より、精霊がそこここに居る。水路で遊べば水が綺麗になり、精霊が遊ぶ道は魔素の多い爽やかな空間が広がる。
改めて見ると前世より空気は良いかもしれない。
ゴミ無いし。(但し落とし物も消える)
ただ、とても残念な事にこの肉食な人の都市は門に近い程、赤黒い。血の色である。だからこそ対比するかのように、中央の城付近は白や緑が尊ばれるように見える。
…
……
「……で」
「バカ言え、次の遠征で品薄なんだ!これ以上値をさげられるか!」
「……!」
遠征。
……
「たくっ、ポーション急かすなら薬草を採って来いってんだ」
「そんなもの、ニホの森を伐り拓けば幾らでも手に入る」
「今なの!今必要だっつってんだろ」
ポーションは魔法薬だ。液体状の魔法で効果を発揮すると共に消える。飲む方が無駄にはならないが、掛ければ肌に触れた分だけ効果が出る。夢はないが、専用の皮袋に入れて必要な分だけ使う。
……基本的に保存が利き緊急時に使用する。
「オヤジ~取りに来たぞ」
「今忙しいんださっさと持ってけ」
「じゃ、剣の手入れ代。コレで良いね?」
「おう。次いでに握りの部分も調整しておいたぞ」
「おおっサンキュー」
「生きて帰って来いよ。上客サマ」
剣。
「……え?精霊?」
『は?』←ニホ
「おぉ、ヒトガタは珍しいな。あ、俺精霊眼持ちなんだ」
『……へー』
精霊眼持ちとは珍しい。ああ、そう言えば遠征が有るからと、実力者が集まっているって話も有ったかな?
特に興味は無い。
自身は前世の記憶故ヒトガタをとっているが、ヒトガタと言うのは正直言って奇妙な形だと思う。2本足とかバランス悪いにも程があるし、頭は重そうだ。
世界にも基準のようなものが有るのか、人種は概ね前世と同じ形をしている。
「ちょっと待って」
わざわざ手に魔力を込めて掴まれた。すり抜けられない。
ぬるい。気色悪い。
『何?』
「いや~、俺と契約しない?精霊って契約すると早く成長出来るんだよね?」
『興味無い』
「俺さ、結構魔力有る方だと思うんだけど」
その言葉に改めて男をしげしげと見る。そう言えば威力偵察に来たんだった。
男の言葉を信じるならば、やっぱり人の魔力はそこそこ。
魔力を量る単位でmpと言うモノが有る。男は150mp程か。そこいらの人は50mp前後。
幻獣と比べると、森で最も数の多い働き蜂が500mp。
精霊は魔素を保有し操るので別だ。
最も、魔法を使い慣れている方が魔法の威力に対して魔力効率は良いので魔力量だけが戦力と言う訳ではないが。
まあ、はっきりと言えば。
『論外』
男の魔力量はこの一言に尽きる。余剰分とは言え幻獣達の住む、森の深層の魔力のほとんどは僕が分解して居る。男と契約して手に入る魔素等微々たるモノであろう。
「論外って、え?も、もしかして。結構上位の精霊だったりする……?いや、しますか?」
男は慌てて手を離して言った。
最も数が多いのは下級精霊である。短期なら比較的簡単に契約なりするだろう。特に人にとって今は戦闘前だ。
僕は若いけれど、魔素の量だけは多い。人にとって重要なのは魔素量だけど、精霊間の上下関係はどちらかと言えば知識量の差で決まる。
『……ええと、まだ若い……』
上位かと問われるのは結構答えづらい。って、真面目に答える必要も無いな。
再び飛び立とうとすると、ガシッと掴まれた。あげいん。
「待って……ください。あの……会って欲しい人が居るんですけど」
精霊眼持ちは貴重だ。
『ソレは、契約?』
僕はもっと慎重に答えるべきだった。
「あ。……はい。166mp。俺の全魔力です。持っていって良いので」
『じゃあソレで、1回は会う』
「ありがとうございます」
男はハークスと言うらしい。魔力切れは失神するらしいので半分前払い。半分後払いになった。166mpか。契約に基づいて魔素が丸々僕に入る事を考えるとそこそこかな。
ハークスに付いていくと、少し立派な家に裏口から入っていった。
とても嫌な予感がする。
「お帰りなさいませ、ハークス様」
「ああ。手紙を出す」
「畏まりました」
うん。主従の会話ですね。
『ねえ、会う人って時間がかかる感じなら自分で行くけど』
「待て。相手は精霊が見えない」
『は?それ、会う意味無くない?』
「とにかく診て欲しい」
会う相手を聞いておくべきだった。っていうか、普通すぐに会わせない?
『……良いけど。会えば契約は終了だからね?』
大抵こういう場合は助言が欲しいとかそう言うやつ。無理やり会わせて何を言えと?
「……ニホの森って知ってるよな。精霊にとって重要な森らしいな?今度この国はそこへ戦力を向ける事は知っているか?」
ハークスはギラギラとした目を僕に向けて、そう言った。