引きこもり
自殺とかバカじゃない?って人はご遠慮ください。
僕は引きこもりだ。
1年前から、大学2年から休学して実家から出ていない。
一応、まだ20歳。若いからやり直せると説得されている。両親を始め親しい人は、僕を見捨てて居ないのはありがたく、そしてとても辛い。
……辛くない。怠惰な生活をしている僕が辛い筈が無い。
けれど僕は心が弱いから……この生活からは抜け出せそうにない。
こんな僕にも優しい人達。
変わりなく愛情を注いでくれる家族。
食事に誘ってくれる友人。
事情を知らない知り合いも、痩せた?ってよく見て心配してくれる。
僕は幸せ者だ。
とてもとても幸せ者だ。
だから、幸せな内に、コレ以上家族に負担をかける前に。
僕は自殺した。
ごめんなさい。
これまで育ててくれた恩返しも出来ない僕でごめんなさい。
……。
『あ~、はじめまして』
「?誰ですか?」
何も見えない中で声だけが響く。僕は……
『君は自殺した。私はコレでも魂の管理人をやっていてね。寿命(不慮の事故や普通の病気を込み)で死んだ魂以外の人との面談をする。要は魂と肉体が合わなかった者の割り振りだ』
「神様ですか。その……自殺と言う罪?を犯した僕を裁くと言う事ですか?」
『違うよ?君が自殺と言う手段で死んだのは肉体が魂と合わなかったせい。つまり私達の責任と言える。魂はね、感情の発生器官とも言えて、植物には植物に有った感情を生みやすい魂とか人は人なりの魂とか、合う合わないが有る。
大量殺人犯だって、同族を殺す事に喜ぶ魂の持ち主なだけで、蜘蛛に転生させる事で生き生きしている。一般的に聖人と呼ばれる人に尽くしすぎる人が実は植物が向いていたりね。
輪廻転生と言うモノは間違いではない。でも比較的、一つの魂は同じような生き物に転生しやすいね。
さて、君の場合も意味もなく辛い人生を送ってきた事だろう。お疲れさま。
比較的若い魂は合う生き物が分かりにくいから数が多く、感情を表に出す余裕の有る人に転生する場合が多かったのだけれどね。
君に人は向いていなかった。
君が次に生きる生き物だけど、別世界の精霊になる。その種族の特性上前世、つまり人だった頃の記憶が残る事になるんだ』
自殺した僕に対する配慮であろうか。出来れば誰にも迷惑かける事無く生きたい。
「構いません」
『……死因についての記憶はこちらで消しておこう。
精霊は存在するだけでその場の魔力を、あ~空気清浄機みたいなモノだ。生きるだけで喜ばれる。特別何かしなくても良いし、誰かに迷惑かける事も無いから安心すると良い。
……では、次こそ良い生を……』
ふわり、と寝起きのような感覚がする。
いつも通り、起きたところで何もしない。
「って、ココ何処?」
「「「 」」」
僕は大きな大きな樹の下に居た。樹の葉が日光を遮るので薄暗く、草とふかふかな苔が絨毯のように大地を覆っている。
そして、羽の生えた生き物?
……いや、そう言えば夢の出来事のようにあやふやだけど精霊に転生?するって言ってたっけ?あれ?僕ってもしかして、死んだ?
「はじめまして、えっと……もしかして新入りさん?」
虫の羽って言うより、筋や模様の無い半透明な羽が綺麗な人形のたぶん精霊が声をかけてくれた。
いろいろと説明してくれた所によると。
精霊と言う生き物の本性は実体が無いらしい。現在見えている身体は魔素と言うこの世界の素粒子的な、物質やエネルギーの大元で形作られて居て、壊されると精霊樹の元で再構成されるらしい。実質不老不死だった。
精霊は魔素の身体を持つと世界中を漂い、周囲の余分な物質や魔力を代表とするエネルギーを取り込んで魔素に変え、その一部で身体を成長させる生き物である。
変換された魔素のほとんどや、身体が壊された時に解放された魔素は空気中に散らばり、他の生き物に呼吸等で取り込まれて魔力に変換されるらしい。
魔力は魔法を使う為のエネルギーとなり、魔法は多様なエネルギーや物質を生み、そうして世界は循環すると言う。
特に植物にとっては魔素が多い程育成は良く、そういう場所には様々な生き物が集まり、と地域が活性化される。
「だから、気楽に生きれば良いよ。私は元々エルフだったけど恋しくなれば契約結んで人里に交じる事も出来るし」
「契約?」
「ええと、普通に食事をする場合、変換した魔素の少ししか私達には吸収されないのだけどね、例えば人の意思で魔力を貰うと変換した魔素は全て私のモノになるの。変わりに、人のお願いを聞いてあげる。そういう約束事ね」
「……なるほど、ありがとう」
「ううん。知らない精霊は珍しいから。前世が人って言うのも。まあ、細かい事は自然と覚えるわ」
「ありがとう。あ、僕の名前はっ……?」
「ああ、真名はダメよ?呼ばれると本当の意味で死んじゃうから。私の事はアウラって呼んでね」
「僕は……ニホって呼んで欲しい」
「じゃあ、またね、ニホ」
「いろいろありがとう、アウラ」
こうして僕は精霊になった。