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「甘やかしてしまったが故にこんな事に…。こんな日に派手な格好をして… やっと体制が整って余裕ができた所で、急逝した前国王の霊祭を行った後の偲ぶ会で集まってくれたというのに」

「れ…霊祭…偲ぶ会?」



王太后の言葉に、ただの夜会と思い込んでいたジェファーソンは、その会を改めて見回す。

皆黒や濃紺、灰色、装飾は最低限に控え目で光らないものを身につけていた。



「し、知らない!宰相だ!宰相が…夜会と言ったではないか!」

「恐れながら陛下、『皆が集まる会は無いか』とお尋ねになられたために、私は『1ヶ月後に』と申しました。その上、会の詳細を聞く事なく出ていかれました。

しかしながら会については書面での通達、ましてや参加される方の案内状は、事前にお送りしておりますが?」



淡々と答えた宰相は、冷ややかな目をジェファーソンだけで無く、その側近達にも向けた。

静まり返る中、場にそぐわない能天気な声が響いた。



「ジェイ様、今日はブリアナのお披露目会じゃないの?」



その言葉に皆口々に罵倒し出す。



「なんと不敬な!」「前国王の偲ぶ会をなんだと…!」「あの派手な格好はそういう意味合いだったのか!」「あの者こそ捕らえるべきだ!」



一斉に罵声を浴びせられブリアナは、ジェファーソンにしがみ付いて反論した。



「だって、ジェイ様が今日私を王妃として紹介するって!

これもそのために作ってくれたんだもの!

私を愛しているって!そんな事言って、あなた達こそ捕らえて処罰して貰うんだからぁっ」



形勢が不利な状況で、追い伐つような発言をされて流石に冷や汗をにじませ始めたジェファーソンは、しがみついて離れないブリアナを黙らせようとするも全く空気も読まずに、「ジェイ様、あの意地悪いう人たちをやっつけちゃって?」としなだれかかる。


その見苦しい一行を無表情に見据えた王太后は、終わりが見えない茶番に口を挟んだ。



「もう良い、茶番はそこまでにしなさい。

貴方の裁可が通らないのは、暗愚なお前に任せておけぬ故。私か王妃、または二名以上の役職者の同意が必要とする旨を、王位に就く条件に加えたためです。

それは書面にもありましたし、説明もあったはずです。ジェファーソン」

「えっっっ記憶にございませんっ母上!」



冷たく断じる王太后に、取り縋ろうとするが、しがみつくブリアナが邪魔で動けなかった。

近寄らせまいと、その視線を遮るように間に入ったアイリーンは、厳しい目でジェファーソンを見つめた。



「陛下、良いようにしか捉えない世界で生きてきた貴方が、この今を生み出しているのです。

婚姻に関しても、裁可に関しての記述も、事実証拠があり、証人までいる。

貴方の記憶一つで無かったことには出来ないのです」



何も言い返せず、グッと押し黙ったジェファーソンを横目に、近衛騎士に静かに命じる。



「陛下はお疲れのようです。北の離宮へお篭りになられます」



良いですね?と王太后に目を向ければ、静かに頷いた。

それを見た近衛騎士は一斉に国王とそのご一行を取り囲むと、騒ぐのもそのままに会場から有無を言わせず連れ出した。


騒がしい集団を見送り、アイリーンは会場を見回した。


大勢いる貴族の中でも貴族院の議員を務める者、重役やその補佐につくものが集まるこの場。

その他の貴族は現在献花と祈りを捧げている。この騒ぎがここにいる者以外に漏れぬように、合図を送って全てを閉ざしたのだった。


何代か前に他に継承権を持つ者がおらず、暗愚な王が玉座に就いてしまった時の措置を、今代でも行う事を以前から話し合っていた。


その重い決断を下す前に、判断材料として必要な茶番だった。

この一連の騒ぎを見て、皆意見は固まったように見えた。


意を決してアイリーンは、重い決断を口にした。



「今まで見守り、時には強く嗜めもしましたが、どうやら本人の資質に関わるもののようで一向に改善される気配は無く…

このまま前例の通り、彼を象徴として掲げようと思います。

次代には嫁いで行った王女の子を養子として迎え、教育します」



その決断に、貴族院の重鎮が声を挙げた。



「それでは王妃様はこのままで…?」



アイリーンを慮って出た発言に、思わず口の端が緩みそうになった。



「ええ、このままで結構ですわ。婚約が持ち上がった時点で覚悟しておりましたもの。

結婚式は慶事として行いますが、陛下にはそれ以外で表には出られません。私とも白い結婚となるでしょう」



痛ましそうな顔をする人々の前で、完璧な微笑みを崩さないでいたアイリーンだったが、宰相が放った言葉で崩れてしまった。



「その事でございますが…ジェファーソン陛下の戴冠を、白紙に戻しましょう」


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