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 一ヶ月が経ち、会が催される当日。


 煌びやかなローズピンクの、ふんわりとしたドレスを身に纏ったブリアナを見るなり、熱烈な口付けと抱擁を繰り返すジェファーソン。


 側近達はそこそこで止めに入ると、不機嫌に口を尖らせる二人に声をかけた。



「これから大事なお披露目でございます。

 あまり遅くなっては…」

「そうだな、仕方ない。皆に美しく可愛らしいブリアナを見せつけたいが、赤くなった顔を見るのは俺だけで良い」


「きゃっっやだぁ、ジェイ様ったらっ」



 アハハウフフとまたもや始まってしまうところを、侍女にお願いして間に入ってもらい、乱れた化粧と髪を直させた。


 そんなぬるま湯なやり取りに笑い合い、これからの煌びやかで贅沢な人生を脳裏に描き、お花畑なご一行は連れ立って会場へと足を運んだ。


 会場に着くと夜会はすでに始まっており、どうやら皆ゆったりとした曲が流れる中、挨拶を交わしているようだった。



「ねぇジェイ様、なんかみんな地味ね?」

「ん?そういえば…そうか、皆今日の主役であるブリアナを引き立てる為に、地味な格好をしているのだ」


「え?そうだったの?やだ、王妃ってすごーい!」



 大階段の上でキャッキャと騒ぐ者達に気づいた参加者達は、その異様な光景に目を疑い囁き合った。


 会場の異変に気づいたアイリーンは、黒いレースで彩られた品の良い扇子を広げると顔半分を覆い、隣に立つ王太后に話しかけた。



「王太后様、陛下が来られたようですが…お気を確かにお持ちくださいませ」



 挨拶をアイリーンと共に受けていた王太后は、視線だけで会場を見回して大階段の上の派手な色彩を目に入れると、くらりと目を回しそうになり、アイリーンに支えられた。



「私がしっかりと育てなかったが為に…!ごめんなさいアイリーン…!」



 憂い顔に一層影を落とし、涙が溢れそうになる王太后に優しく声をかけながら、アイリーンは王太后を、席に座らせた。


 そうして宰相、近衛、護衛に素早く合図を送り万が一が起こり得た場合の対処に当たらせた。


 合図を受けて会場の扉と、開いていた厚手のカーテンはゆっくりと閉じられていく。


 それに気づきもしないジェファーソン一行は、輝かんばかりの派手な衣装を煌めかせ、堂々たる態度で降りてくる。


 そのまま一段高く設けられた、アイリーンと王太后が居る段上まで来ると、距離を開けて止まり、高らかに言い放った。



「皆のもの!今宵はよく来た。そしてよく聞いてくれ!

 そこに居るアイリーンは、我が母に取り入り、私の戴冠の際にその資格もないのにもかかわらず、厚かましくもついでに冠を頂いた。

 しかし、そもそも王と婚姻をしていない者が王妃にはなれないのだ!よって、アイリーンは王妃を騙る罪人である!!」



 その瞬間、その場にいた者が全て息をのんだ。

 それもそのはずで、書類のみとはいえ証人の居る前でサインを入れて、あまつさえ本人がアイリーンを伴い提出をしたはずであるからだ。


 息をのんだのは、『やべぇ、陛下ボケられたのか…!』という意味合いだったが、その反応を、『アイリーンは罪人だったのか!』という驚きととったジェファーソンは、悪を暴いて伐つ勇者になった気分で得意満面になり、鼻息荒く続けた。



「そして私が王位に就いたにもかかわらず、未だ婚約者という地位にしかないアイリーンに意見やその他全てを通させるように画策し、国を我がモノにしようとしたっ!

 いずれ我が最愛の未来の王妃、ブリアナを排するに違いない!あの者は簒奪者である!!」



 呆れと憤りでざわつく周囲を、味方につけることができたとほくそ笑んだジェファーソンは、ブリアナを片腕に抱き、勢いよくアイリーンを睨み据えて指差した。


 アイリーンは、視線が集まるのを感じながら一呼吸おいてよく響く声で切り出した。



「陛下、私と一緒に婚姻誓約書へ署名なさったではありませんか。

 忘れてしまわれたとは、残念ですわ」



 悲しげに顔を俯かせるアイリーンに、皆同情の目を向ける。

 予想だにしない発言をしたアイリーンに、ジェファーソン一行は、「えっ」と溢して中心のジェファーソンへ目を向けた。



「ジェイ様、結婚していたの?」

「いつの間に…では…」



 そんな声が一行の中から上がるも、ジェファーソンはキッと睨み直して、言い返した。



「私は結婚などしていない!

 現に式を挙げておらぬではないかっ!

 私が参加していない結婚式など、そんなバカな話は無いだろう!」


「陛下、どこに前国王が儚くなられた直後に結婚式を挙げる者がいるのです」

「ほらみろ、私は結婚しておらぬでは無いか!」



 ジェファーソン一行以外は潮が引くようにサァァっと気分も物理的な距離も取り、人で囲まれていた段近くは、ポッカリと穴が開いたようになった。



「王位を長らく空位にしておけぬゆえ、先に書類での婚姻を成して戴冠式を少人数とはいえ行ったのではありませんか。

 喪が明けてから、式を挙げる事としておりますので、準備だけは進めております」


「え…書類?

 そんなもの書いておらぬぞ、記憶にない!」

「記憶になくとも、誓約書はきちんと出されております」



 そう言って女性文官に目を向けると、小さく頷き返した女性文官は、恭しい手つきで近くの神官長から1枚の書類を手に取った。それをジェファーソンに見えるように、近づいて掲げ持った。


 ジェファーソン一行は、その書式をまじまじと眺めると、最後の署名欄に書き記された字を見て驚愕した。



「へ………陛下のっっ確かに陛下の署名であらせられます!」

「ジェイ様!私、不倫相手だったの?!結婚してないって言ったじゃないですかぁぁぁぁ」


「確かに婚姻誓約書…しかも戴冠式前日だ!」



 側近達とブリアナはどういうことですか?と顔を見合わせてからジェファーソンへ向き直る。


 紛れもない証拠を突きつけられて、たじろぐジェファーソンは、往生際悪く喚き散らした。



「そっっっそんなものっっ記憶にないっ!

 しかも署名したとしても、罪人との婚姻は無効だ!

 お、おい、俺は簒奪者と言ったのだぞ!あれは反逆罪を犯した罪人だ!

 なぜ誰も捕らえないっっ!近衛っ!すぐに捕らえよっ!」


「もうよして頂戴、陛下…いえ、ジェファーソン」



 悲しみをにじませた声でそう告げたのは、すっかりやつれてしまったジェファーソンの母である王太后だった。


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