中学生編
ゲームオーバーだと思っていると画面に文字が出てきた。
<ソツギョウシキにデマスか?>
「あの場面から卒業式?バグ?」
[デル]、[デナイ]
何時の卒業式に対しての選択なのか判らない。
卒業式の選択肢を紙を見て探す。
「選択肢は出るを選択して問題ないんだな」
俺はドキドキしながら[デル]を選択した。
<ミキヨシはキョウからチュウガクセイだ>
小学校の5年間がどういう訳か解らないが飛んでいる。
ミキヨシが空白の五年間でどうなったのか気になり確認する。
どうやら小学1年生時の選択をずっと行っている事になっているらしく、体力と知力は高かった。
「念のため森崎さんに確認した方がいいな」
俺はバグを発見した事とバグによって起こった事を伝え、このままやるべきか森崎さんに聞きく事にした。
森崎さんがいる開発室に電話をかける。
「もしもし?森崎さんですか?ちょっと確認したい事があるのですが…」
「どうしました?」
俺は森崎さんに起こった事を説明した。
「このまま続けた方がいいでしょうか?それとももう一度最初から?」
最悪、もう一度最初からやるなんて事になるだろう。
赤ん坊編のあの連射をもう一度する事になったらきっと俺の爪はもたないだろう。
森崎さんは少し間を置いてから「5年ほど飛んでしまったんですね?」と聞いた。
「はい。本来選ぶはずだった選択肢がどう選ばれたのか解らない状態です」
「そうですかー。そのまま進めてみてくれますか?」
やり直す事が無くなり思わずガッツポーズをしてしまった。
直接話をしに行かなくて良かった。
「それとまた同じ様な事があっても報告しないでそのままゲームを進めてください。みなさんがクリアした後に話を聞きますので。他の2人にも伝えてください。」
「解りました。失礼します」
俺は席に戻り再びゲームを再開した。
<ニュウガクシキにデマスか?>と選択肢が表示された。
[デル]を選択する。
何事も無く入学式が終わり、中学最初のホームルームが始まった。
「担任は美人女教師か、絵も美人っぽく書かれているな」
色気を感じる喋り方をする女教師だった。
自身の自己紹介と簡単な学校の説明をしてから生徒に自己紹介するように言う。
どうやらこのクラスには将来の事務次官候補のカワムラ君と川に流されたタケムラ君がいるようだ。
<ワライをトリますか?>
[トル]、[トラナイ]
「そういや自己紹介で人気者になろうとして盛大に滑った同級生がいたなぁ。アイツ今何やってんだろ」
すごくどうでもいい事を思い出してしまった。
「ん〜とここは?」
[トラナイ]を選択すると書かれている。
「ここはそうした方が賢明だよな」
ミキヨシは当たり障りの無い自己紹介をした。
ミキヨシの後に笑いを取ろうとした生徒が盛大に滑って、周りから失笑されていた。
<ライシュウからホンカクテキにジュギョウがハジマリマスからね>
お色気ボイスで知らせる先生。
ホームルームが終わり下校するミキヨシに学生が話しかけてきた。
<キミ、ドコのブカツにハイルかはキマッているのかい?>
[キマッテイル]、[キマッテイナイ]
[キマッテイナイ]を選択する。
学生はまた質問してきた。
<ブカツはやろうとオモッテイルのかい?>
[オモッテル]、[オモッテナイ]
[オモッテル]を選択すると学生のテンションが一気に上がったらしく、<リクジョウやろうぜ!!>と馴れ馴れしくなった。
[やる]、[やらない]
「このために小さい頃から体鍛えてたんだな」
過去に選んだ選択が未来で重要になる事を解っていた俺は確信していた。
紙には俺の予想通り[やる]と書かれていた。
ミキヨシは陸上部に入部する事になった。
幼い頃から毎朝4時に起きて3時間ほど汗を流し続けていたミキヨシだが、陸上部に入部してからは朝の運動の時間が勉強の時間に変わった。
空白の時間(バグで飛んだ時間)の間に知力の数値が5桁になり、もうすぐ6桁に届きそうなくらいにまで勉強が出来るようになっていた。
IQで言ったら800ぐらいまでいってるかもしれない。
どこの国の暗号だってスラスラサッサと読めてしまうレベルだろう。
そんな状態でもまだ勉強をし続けるのは「世界の王」になるために必要だからなのだろう。
ちなみに陸上部に入ったミキヨシが専門として選んだ種目は5000メートルだ。
5000メートルの男子・中学の最速記録は14分49秒76らしい。
ミキヨシは初めての5000メートル走で14分55秒83を出して顧問と先輩達の度肝を抜いた。
なお、この5000メートル走の時に3度目の連打をするはめになり俺の爪がご臨終してしまった。
クラスでミキヨシは学級委員になりクラスの皆の纏め役となり、その総括力は目を見張るほどで、先生達から次期生徒会長が決まったと言われるほどだった。
また、ボランティア活動をするようになった(本来なら小学4年生からする予定)。
ごみ拾いに始まり募金活動、老人ホーム訪問に祭りのスタッフなど精力的に活動した。
その活動から地元新聞、地元テレビに度々映るようになった。
「ここまで出来た学生がいたら政府が捕まえに来そうだな」と思った。
1年生の夏に事件が起こった。
ミキヨシが誘拐されたのだ。
古びた建物の地下室に閉じ込められたミキヨシに指令が与えられた。
<ハンニンをツカマエロ!!>
「本当に色んなジャンルのゲームが混ざってるよな」
本当に失笑するぐらい色んなジャンルが混ざっている。
地下室から抜け出し犯人を捕まえるなんてどこかの漫画みたいな事をさせようとするあたりさすがフィクションだと思う。
ミキヨシは縄で体を縛られていた。
「これは・・・また連打だな・・・」
<ナワをヒキチギレ!!>
展開もなんとなく読めるようになってきた。
でも、展開が読めても今の俺の手では連打するなんて事は出来ない。
「なにか、何かあるはずだ」
俺はゲームを一旦止めて、机をくまなく探した。
「こ、これは・・・」
引き出しの中に鉄定規が入っていた。
「いける…こいつなら、こいつしかない!!」
俺は今究極の最終武器を手に入れた。
RPGで言うなら一回攻撃するごとに9999が出る武器。
シューティングなら画面全ての敵が一撃で破壊されるような武器だ。
「鬼に金棒だ、いや、鬼が閻魔様を手に入れたようなものだな」
俺の口から自然に笑い声が出ていた。
「コントローラーの位置良し、定規の位置良し」
手を鳴らし深呼吸する。
「俺良し、…行くぜ!!」
ポーズを解除して連射を始める。
ビョ〜ン、ビョ〜ン
静かな部屋の中で定規の音だけが響き渡る。
定規連打はやはり素晴しい、いとも簡単にミキヨシは縄を引き千切り脱出した。
「そんなやり方あったんだね」
その声に振り返ると増毛さんと原口が後ろにいた。
「そんなレトロな連射よく思いついたな」
相変わらず腹の立つ原口はほっとく事にする。
「増毛さん定規連打知らなかったんだ」
「そうなの、連射必要なゲームってそんなにやった事が無いから」
「やり方教えましょうか?」
「お願い。このゲーム連打多くて腕疲れちゃうから助かったよ」
頼られるって事はなんかいいなと思う。
俺は増毛さんの机の中を探して鉄定規を見つけると定規連打の仕方を教えた。
その姿を後ろから原口が見てた事に気づいていたのはここだけの話だ。
定規連打を伝授し終わって俺はまた席に着いた。
とりあえず閉じ込められていた地下室で何か使えそうな物を探す。
紙には選択肢以外の事は一切書かれていない。
そこから考えるとただ犯人の所まで行けばいいだけかもしれないけれど、ゲーマーとしては色々と物色してみたくなる。
「何にもないな。やっぱりこの身一つで犯人を捕まえろという事だろうか?」
地下室を出て先へ進む。
地下室から一階までの道は無駄に長い一本道だった。
「製作者、手を抜いたな」
何事も無く一階に到着するとイベントが始まった。
<あのガキのオヤにいくらヨウキュウしようか?>
<ゴオクくらいでどうだ>
「ただのサラリーマンに要求しすぎだろ…」
ミキヨシをさらった犯人は2人組みのようだ。
そしてこの2人は頭が悪いただの小悪党だったらしい。
2人組みの居る部屋の前で選択肢が出てきた。
<トツニュウしますか?>
[する]、[しない]、[イジル]
「弄るって何する気だ?」
凄い気になる選択肢だ。
簡易セーブ機能があれば一度セーブして[イジル]を選択するところだ。
「ここの選択肢は何だ?」
紙を見る。
選択肢の書かれた紙も3枚目になったがまだ先がある。
「ここは[イジル]を選択するのか」
どんな風に弄るのか見ものだ。
バターン!!
勢いよく扉が開く。
その音に驚く犯人達。
犯人の一人が恐る恐る扉へと近づいて行く。
部屋の外へと顔を出した犯人をミキヨシが引っ張り出し両足を掴んだ。
その姿は両手でバットを持っているようだった。
犯人からしてみればただ体格のいい中学生を捕まえただけなのだからかなり怖いだろう。
両足を掴まれた犯人の一人が泣き叫び、もう一人の顔は恐怖で蒼白になっている。
<どうしますか?>
[ツカマエル]、[まだイジル]
「恨みを晴らすいい機会だからまだ弄るぜ!!」
ミキヨシは犯人をブンブンと大振りしてもう一人に恐怖を与える。
バットにされている犯人の方はもう気を失っている。
<も、もうしないから、しないから、ゆ、ゆ、ゆ、ゆ、ゆるして、て、て、て、くれぇぇぇ>
犯人はもう恐怖で気が変になってしまうと言わんばかりに謝ってくる。
<どうしますか?>
[ナカス]、[オカシクする]、[ツカマエル]、[トラウマにする]
実に興味深い選択肢ばかりが出てきた。
俺としてはもう悪さが出来ないように[トラウマにする]を選択したい。
けれどここで選択するのは[ツカマエル]だった。
こうしてミキヨシ誘拐事件は終わりを迎え、ミキヨシは誘拐犯を捕まえた中学生として日本中にその名が知れ渡った。
後日談として警察に突き出して一週間後に警察から電話が来た。
<キミはハンニンにナニをしたんだい?>と。
その後は特に大きなイベントも無く進み2年生になった。
2年生の時の中体連でミキヨシは5000メートルの男子・中学の最速記録14分49秒76を抜き13分50秒84という脅威的な記録を出した。
そして3年生になった。
中学3年生になったミキヨシはさらに凄さに磨きがかかっていた。
2年生から生徒会長を2年連続でやったり、陸上の長距離種目の記録を次々と抜きさったりといった具合だ。
超スーパー中学生となったミキヨシは世界中から取材されるようになっていた。
修学旅行で訪れた京都でもその認知度は凄まじくどこに行っても人だかりが出来ていた。
そして事件が起きた。
赤信号の道路を小さな子供がボールを拾いに侵入したのだ。
<タスケますか?>
[タスケル]、[タスケナイ]
「これは川の時と同じパターンだな」
紙には思ったとおり[タスケル]と書かれていた。
「定規の準備も出来ている。連打なんて怖くないぜ!!」
そしてミニゲームが始まる。
ビョ〜ン、ビョ〜ン
連打を始める。
「楽勝楽勝」
俺は画面を見て焦った。
ミニゲームが連打では無く、縦スクロールアクションだったからだ。
気づいた時にはもう遅く、ミキヨシは車に轢かれてしまった。




