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死んで異世界  作者: ららりと
4/4

風化

ららりとです。

行き当たりばったりで書いているせいか、全然、物語が進みません。悲しいことですね。

(眠れないな……)


 タカヒトは瞑っていた目を開く。

 傍らにはベリアが寄りかかっていて、静かな寝息を立てながら幸せそうな顔で寝ている。

 何か、いたずらにこずいてしまいたい衝動に駆られるが、同時に触れてはいけない聖域のようにも見えて、思い直す。

 タカヒトは、何処を見ているのかも知れない瞳で洞窟の天井を仰ぎながら、今日の出来事に思考を巡らせた。


(今日は色々なことがありすぎた……。死んだと思ったら異世界に転移して、やたら大きい龍に襲われたと思ったら実は少女ってな……)


 思い出すだけでも失笑ものだと、タカヒトは思わず笑みを漏らした。

 実は現実の自分は死にきれず、病院に搬送され。植物状態のまま夢を見ているのではないか。そう考えた方が、よほど現実的なのだろう。

 しかし、それにしては。


現実的(リアル)すぎる気がするな。むしろ、夢だっていう方を信じたくないくらいに)


 彼女の腕に抱かれていた時、その温もりを、鼓動を、直に感じることができた。

 生きているのだと、これは夢ではないのだと。そう、思えるくらいに。


(彼女は生きていて、本当にここにいる。それで、この世界も本当にある。……退屈な日々はもう送りたくない。だから俺は、これを夢だとは思わない)


 タカヒトは思い出す、あの日々を。まるで、生きているようで、生きてはいなかった生活を。

 今までは、退屈という名の牢獄に囚われ、義務という鎖で自らを縛り、ただ流されるように生きてきただけだった。唯一、妹という光でさえ、失ってしまった。だから命を絶った。


 もしかしたらこの世界も変わらないかもしれない。

 しかし、予感がするのだ。

 そう、言葉では表せないこの胸の高鳴り。そして、何でもできてしまいそうな万能感が今、彼の心を満たしている。

 それはまるで、無邪気な子供の頃に戻ったような感覚だ。例え、どんな危険が待ち受けていようと、その恐ろしさを知らぬうちは簡単に踏み出せてしまう危うさを、彼は思い出したのだ。

 そして、その危うさは転じて楽しさにもなる。


(明日になったらどうなるのか。……あぁ、わくわくするな)


 そんなことを思いながら、彼は深い眠りについた。


 翌朝。天に昇った太陽の下に、二人の影がある。タカヒトとベリアである。

 二人は、心地よい温かさを感じて伸びをする。ぱきぱき、という音が響けば、体にどれだけ負担がかかっていたのかが分かる。


「……ベリア、今度は俺を抱き枕にするのはやめてくれ」


「断固、拒否する」


「そうか……。まぁ、それはさておき、今日はまず俺たちが出会った場所に戻ろうと思う」


「滅んだ国があった場所を見て回る?」


「そうだな。当分の目標としては、まず人がいる国を探したいからな」


「分かった」


 ベリアは頷くと龍へと姿を変える。今度は、余り大きくはない。


「なぁ、龍の姿の大きさを変えられるなら人間の方も変えられないのか?」


「分からないけど無理」


「ふー……ん? じゃあ、行くか」


 タカヒトは、龍となったベリアの背に飛び乗る。それに応じて、ベリアは翼をはためかせて大空へと舞い上がった。


「絶景だなぁ」


 見渡す限りの青と緑——空と樹海。そして、北にかかる白い山脈。雄大な大自然が一挙にして、タカヒトの瞳に映りこんだ。

 彼が思わず感嘆の声を漏らせば、それを聞いていたベリアが頷くように咆哮した——。


「本当に何もないな」


 亡国を探して幾千里。タカヒトは広大な森を見下ろしながらため息を吐く。

 空からの眺めは最高だったが、結果は思わしくなかった。元々あまり期待などしていなかったのだが、残骸すら残らず、文字通り跡形もなく消えているとは予想だにしていなかった。完全に風化してしまったのだろう。

 そこまで考えるとタカヒトはあることに思い至る。それはベリアについて。

 彼女は国が、文字通り無くなってしまうほどの時を過ごしてきたのだろう。そうだとすれば、彼女の中で自分という存在がどれほどのものになっているのか。彼は思わず身震いした。


 ベリアはリンゴの木を見つけて地面へと降りた。そういえば今朝は忘れて、朝ごはんを食べていなかった。青リンゴはとても美味しいのできっと彼も気に入ってくれるだろう。美味しそうに頬張ってくれた時を想像すると……思わず彼女は身震いした。


 ベリアがリンゴの木を蹴ると、いくつかの実が落ちた。

 そのうちのひとつをこちらに「朝ごはん」といって投げつけてくる。


(青い……。なんからんらんとした目でこっちをみてくるな。食べてほしいのか?)


 多少の警戒心はあれど、期待に応えて青りんごに齧り付く。その瞬間、豊潤な香りと果汁が口内を満たした。

 顎が溶けてしまいそうなほどに甘いのだが、まぁ、美味しい。

「うまいな」とベリアに言うと、彼女は嬉しそうにうんうんと頷いた。


「次は、滅んでないって方の国を調べたいんだけど、行けるか?」


「北の山脈の向こうにあるはず。飛んでいけばすぐに着く」


「そっか、じゃあいこっか」


 そういうと最早、阿吽の呼吸の如くベリアが変身した。

 そして二人は北の山脈の向こうへと向かうのであった。

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