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異世界帰還者ノイジーライフ  作者: 完熟ライム
プロローグ 魔王決戦・勇者帰還編
7/17

幕間 はじまり

俺が高校2年を迎えた春のある日。


いつものように目が覚めた俺は、いつものように支度をし、いつものように家を出た。


俺の通う高校、「式波高校」は、これといった特徴も思いつかない普通校だ。


しかしそこそこ偏差値は高く、家に一番近いから、という理由で受けた成績ド平均の俺にとっては、受験するのに少々苦難の道だったが、なんとか受かり、1年が経った。

昨日が新しいクラスでの最初の1日で、今日から本格的に学校がスタートする。


そして。

高校が見えてきた、そんな時。


「おっす、白鳥しらとり


背後から、俺にかけられるそんな声がした。


白鳥しらとり はる


それが、俺の名前だ。


「おう、信楽しがらき


俺も名を返す。


信楽しがらき まこと


高校で出会った、俺の友達だ。


「いや、しかし。今年もお前と同じクラスになることができて嬉しいぜ!」


信楽が言う。


「ああ、俺もさ」


「今年も勉強を教えて頂けると思うと感激だぜぇ…」


「…おい」


この1年間を通してこいつについて分かったことは、とても、バカだということだ。


何故こいつはこの高校に入れたのだろうか?と常々思わずにはいられない。

ちなみに推薦入試ではなく、一般入試で受かったらしい。

謎は深まるばかりである。



学校につき、自分達の教室に入る。


「うぃっすー」


「ういー」


適当な挨拶をかわしつつ、俺は自分の席についた。


信楽はまだ教室の入り口に立ち、友達と何かを話しているようだった。



そこで。

後ろの教室の扉が開き、そこから1人の女生徒が現れた。


ショートカットで可愛らしいヘアピンのつきたそいつは、俺の幼馴染の。


「……よう、亜紀」


「…下の名前で呼ばないでくれる?」


皐月さつき 亜紀あき


小学生の時はよく遊んだり一緒に帰ったりしていたが、中学生の途中辺りからだろうか。

なんとなく、話す回数が減っていき、今ではまともに会話すらしていない。


そして、今。

普通に拒否られて少し心が痛くなった俺を素通りして、彼女は黒板辺りにいた女子の集団の中へと入っていった。


「…おおう…」


亜紀は、まあなんというか。

成績も良い方で、スポーツもできる。

オマケに顔もいいときた。


そうなると必然的に校内にもファンはいるようで、今の俺との少しの挨拶(返されてない)の瞬間にもいくつかの男子生徒の試験を感じた。


まぁ、成績も中程度、目立った活躍もなく、見た目もそつない俺とは不釣り合いなのだろう。


「…ふぅ」


静かに溜息をつく。


キーンコーンカーンコーン、とチャイムが鳴る。


そこで、教室の入り口から担任の教師が入ってきた。


「おーい、お前ら席につけ。朝のHR始めるぞー」


ガタガタと皆が席につくと、いつもと何ら1つ変わらない、いつもの学校が始まった。




終礼が終わり、俺が帰りの支度をしていると、


「なぁ、白鳥。一緒に帰ろうぜ!」


……信楽だ。


「ん?どうしたんだお前。部活は?」


「へっへー。今日はサッカー部は休みなのだ」


「そうか、でも帰り道違うだろ?」


「ああん?なんだよつれないなぁ。俺とお前の中だろ〜?」


「どういう中だ…」


会話を切り上げ、教室を出ていく。


すると、引き下がらずに信楽がついてきた。


「…なんだよ信楽」


「全く、お前が大変なのは分かるけど。少しは青春楽しんでこーぜー?ほら、例えば。気になる人の一人や二人見つけてあんまーい恋とか、しない?」


気になる人が1人や二人もいてたまるか。


「俺だって興味がない訳じゃないぜ?ただそこまでの余裕がないっつーか…」


俺は今、一人暮らしだ。


しかし、そこが俺の生まれ育った家でない訳ではない。

確かに俺はその家でここまでの年を生きてきたのだ。

理由は。

俺が小さい頃に母は既に亡くなっており、父は海外で仕事をしている、という事だ。


故に俺は母の顔も写真等でしか知らず、父とも今は1ヶ月に数回程度のメールのやり取りしかしていない。



父から送られてくるお金で生活資金には余裕があるが、それでも一人暮らしは大変で、アパートとかなら良かったものの二階建ての一軒家を1人で暮らすには様々な苦労があった。


なので、時間を確保する為に、俺は部活にも入っていないし、学校帰りに行くのは高校生が一般的に行くようなゲーセンやカラオケではなく、スーパーだ。


「まあ、お前の事情も大体分かる。でもな、恋ってのは!楽しいもんだぜ!!」


「…お前、恋したことあんのかよ」


「はっ!俺の恋が上手くいっていれば今お前とこうしてここにいる事はなかっただろう…」


何か信楽が遠い目をし始めたが、俺はそれを一瞥すると足を早めた。


「おい、白鳥!お前家そっちじゃねえだろ!」


「今日はスーパーの豚肉ともやしが安いんだ!!急いで行かないと!」


「完全に主婦だな…」


これは恋愛は程遠いやつでっせ…。

信楽はこっそり呟くと、自らの家に帰りだした。



「ふぅ、何とか買えたな…」


スーパーから出てきた俺は、家への帰路につくと、信号で足をとめた。


「ばあちゃん、待ってるだろうな…。はやくしないと。……ん?」


「……?」


隣の人物と目があった。


普段なら、何でもなくその後目を離すところだが、俺はずっとその人物に目を合わせたままだった。


なぜなら。


「……亜紀?」


「……ッ!だから、下の名前で呼ばないで!」


そういってそっぽを向く亜紀。


なんなんだこいつは。


特に俺が何かした訳ではないが、彼女は俺の事を嫌っているようだった。


「いや、なんなんだよ?前まで普通にー」


「うっさい!喋んな!!」


急に出された大声に、周りの人の視線が集まってくる。


「……おいおい、なんでそこまでー」


「アンタのせいだから!」


俺に弁明の余地なしか。


というか何に対して弁明しているんだ俺は。


「もう、アンタが近くにいるとホントに調子狂うわ」


謎の理由で勝手に調子が狂う亜紀さん。


「お前、変わったな」


中学生の最初の辺りまでは、普通に可愛らしい少女だった。

いや、無論今も可愛らしいのだが。


なんというか、誰に対しても優しい、優等生のような。


しかし、途中から今のようなはっちゃけたパリピと化した。


やはり中学生という思春期真っ盛りな環境が彼女を変えたのだろうか…。


「はぁ?元からこんなだし。目ぇ腐ってんの?」


可愛らしい顔で毒々しい言葉を発してくる亜紀。


「はぁ…。へいへい、俺の目はどうやら腐っていたようですよ〜」


そう言って変わった信号の横断歩道を俺は歩き始めた。


それでふと、後ろを見る。


「は?何?こっち見ないでくれる?」


「いや、お前なんでついて」


「私の帰り道もこっちだから!」


そういって、再びそっぽを向く亜紀。

oh…。


こいつはそういえば幼馴染だった。


俺の幼馴染はこんなやつではなかったが。


と、そこで。




ギュイイイイイイイイイッ!!!


タイヤとアスファルトが擦れる音。



辺りがざわざわとざわめく。


「………え?」


それは、大型のトラックだった。


曲がり角から現れたトラックが、猛スピードでこちらに突っ込んでくる。


遅れて、辺りから「危ない!」だの「逃げろ!」だの悲鳴だのが聞こえてきた。


心臓がドクン!と急激に盛り始めた。


唐突な出来事に、世界がスローに感じられた。


焦る気持ちで一杯だったが、俺の思考は冷静に状況を分析していた。


見ればトラックの運転手は中年の男性。


だが。

その顔は、生きている人間のそれではなかった。



明らかに。


死んでいる。


そして、今のトラックのそのままの軌道だと、まだ青色に光を放つこの横断歩道に直撃する。


そして、今。


その横断歩道は。


俺と亜紀が渡っている最中だった。



このままでは。



死ぬ。



背筋に悪寒が走る。



今。


ここから一歩でも進めば俺は助かる。



しかしー。



亜紀はトラックとは別方向を向いたまま歩いていた。


今トラックに気づいても、おそらく。



間に合わない。



ドクン!



さらに心臓の鼓動が激しくなる。



亜紀が、死ぬー。



不幸にもトラックは大型。


あのスピードだと、人間などぶつかれば一溜りもないだろう。



最悪の展開が脳をよぎった。



「そんなのは嫌だ…」


小さく喚く。


今、この瞬間に俺が取れる選択は。


ここから一歩程前に出て、俺だけ助かる。


そして。


後ろにいる亜紀を押し出す。


この二択だった。


確かに俺が助かる選択肢を取るのもありかもしれない。


だが。


「亜紀を…死なせたくない」


最初から答えは明白だった。


亜紀に飛びかかるようにトラックの通る直線ルートから外れれば、二人とも助かる筈だ。


万が一上手くいかなくても、亜紀だけは助かる。


俺だけが助かるよりも。


二人とも助かるなら、それが一番いい。


何もしないまま亜紀が死に、後悔に浸るのは一番嫌だ。


【不可能】など、存在しない。

あるのは、【可能】だけだ。


昔の祖父の言葉だ。


決断は一瞬だった。



この答えに至るまで、実に0.15秒。



俺はくるり、と後ろを向くと。


亜紀に飛びかかるように地面を蹴った。



「きゃっ!?」


亜紀が可愛らしい声を上げる。


俺は全力で亜紀を押し出す。


それから、自分もその反動で転がり進む。


よし。


亜紀は無事だ。


俺も、上手いことトラックの範囲からは抜け出せた。


運動をそんなにしていなかった割には上出来だろう。



しかし。


現実はそんなに甘くはなかった。



「………あ」




それが、俺の最後の言葉だった。



トラックが緩やかに直線的なルートから外れると、斜め向きに道路を走ってきた。


亜紀は外れているが。


俺は避けることができない。




不思議と、痛みはなかった。







ぽかぽかと、気持ちのいい感覚。


気がつけば、俺は白い部屋にいた。


白い部屋。


そうとしか表すことのできない、このだだっ広い空間は、一体なんなのだろう。



『白鳥 晴』


不意に、俺の名前が呼ばれた。


ビクウッ!体をうねらすと、その声の方向を向いた。



『うむ。気づいたか』


巨大な、大男がそこにいた。


「あなたは…」


『ふむ。私か…。そうだな、お前達のいう所の、神様、というやつかな』


「神様…?」


突然、神様と言われても。


普段なら、何言ってんだHAHAHAと笑い飛ばすところだが、不思議としっくりときた。


『しかし、お主。なかなかの勇気ある行動だったぞ』


「……え?」


何を、と思ったが。


そこで、ハッとする。


「そうだ、俺。死んで……」


たが、そこで。


「……そうだ!亜紀は!?亜紀はどうなったんですか!?」


『……ふむ。あの少女か。彼女は無事だ。…お主のお陰でな』


「そうですか。…良かった」


と、俺は胸をなで下ろす。

それを見た神様が言う。


『…自分が死んだことよりも、助けた少女の身を心配するとは…』


と、神様がそこで手を顎に当て、考えるような動作をした。


『…うむ。やはり、お主に決めたぞ!』


「…え?」


俺がそれを聞いて疑問を浮かべると。


『お主、生き返りたくはないか?』


突然の言葉。


息が詰まる。


「…そんなことできるんですか?」


『いや、本当は許されていないのだが。しかし、特別な許可があれば特例として意識を元の世界に還すことができるのだ』


「特別な…許可」


『そうだ。今から出す条件を成し遂げれば、お主は元の世界に還れる。やってみないか』


「やらせてください」


即決だった。

まだ、あの世界には俺の帰りを待つ祖母がいる。

祖父が死んで、俺も死んだら。

それこそ祖母は1人きりになる。

ばあちゃんより先に逝く訳にはいかない。


『よろしい。ではー』



そこから俺は、神様に。

俺のいた世界とは別の世界が何個も存在すること。

ここはそれらの魂が集まっている天界だということ。

とある世界にいる魔王、という存在が世界を滅ぼそうとしていること。

俺にその世界を救う【勇者】として活躍してほしい、ということ。

勇者は、神々の加護を受けた人物だということ。

一度天界に来なければなる事はできないこと。

…つまり、一度死んだ人間、しかも、その世界の人物ではない者ではないといけないということ。

ここまで頼んできた人々はそんな別の世界を助けるほど優しい人々ではなかったということ。


その他にも、様々な詳細を説明された。


だが、俺の意思がぶれることはなかった。


そして。



『では、白鳥 晴…。そなたはこれから、別世界にて、【勇者ハル】として世界を救ってもらう。準備はいいか』


「はい、いつでもいいです」


『では、いくぞ!』



そして、神様が、その大きな両腕を振り上げる。


それと同時に、俺の体が光に包まれる。


『これからお主に、私は関与することができない。だが、世界を救った際には、最初に訪れる祠を訪れるとよいー。大丈夫だ、向こうの人々を信じれば、魔王は倒せる。さらばだ!勇者!健闘を祈る!』









「……ここは」


目をあけると、そこは森の中だった。


なにやら古びた祠の、祭壇のような場所に俺は立っていた。


「…すげぇな」


周りを見渡す。


完全な、自然。


おおよそ現代日本とは思えない光景だった。


だが、そこで、祭壇の下から声がした。



「おお!あれは!!」


「やはり予言は本当だったか!!!」



大人数の、そんな声。


まさか、いきなり敵…?


いやだが。


声音から察するに、敵意はないようだった。


ここにいてもどうしようもない。


俺は祭壇の階段を降りていく。


すると。


「「おおおおおおおっ!」」


なにやら歓声が。


「…………え?」


「貴方が、勇者様ですか!!!」


集団の、リーダーのような。

鉄の鎧に身を包んだ大柄の男が近寄ってきた。


「あ、はい…」


「私達は、貴方というお方が現れるのを待っていました!ようこそ、勇者様!これから、私達の国へ案内致します」


そして、俺は、何が何やらよく分からないまま、周りを大勢の兵士達に囲まれたまま、ランドゥラム王国へと連行されることとなったのだ。


これが、全ての始まり。


これが、俺の数年に渡って続いた、旅の始まり。


そして、これから起こる事の、【はじまり】だった。


はい。

幕間ということですが、今までで一番長いです。

本編に先駆けて、ハル君の世界の事を書きました。

これから色々あって、第1話に繋がるのですが、いつかそっちの話もかけたらな、と思います。

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