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異世界帰還者ノイジーライフ  作者: 完熟ライム
プロローグ 魔王決戦・勇者帰還編
6/17

第6話 帰還part3

「ここは…」


気がつくと、ただただ白い空間が、俺の眼前に広がっていた。


魔王の城の、最後に魔王と戦った部屋も広すぎて遠くが見れなかった程だが、ここはなんというか。


壁が、ない。


ただひたすらに、延々と白い空間が広がっていた。


だが、それには俺は対して驚かなかった。


そう。


あの世界に召喚される際、1度この場所にきているのだ。



「う〜ん…」


隣で、俺のものではない声が響いてきた。


「イラハ……」


そう、イラハだ。


いざあの世界に別れを告げようとしたその時。

不意を突くように突進してきた、あのイラハだ。


「…ん、ハル。よかった。無事みたい」


呑気なものだ。

こちらに気がついた彼女は、ふわふわとした様子で安否を確認してきた。


「…イラハ、なんでお前」


「…イラハには、あの世界に帰る場所なんてない。イラハは一生ハルに着いていくって、決めたの」


「…イラハ…」


「…駄目だった…?」


そうだ。

イラハは確かに謝りに行くとはいったが、それは街を勝手に抜け出したことであって、あの街の人々はイラハに対する対応を変える訳ではない。

イラハは、ケジメをつける為にあの場所に行ったのだろう。

……未知の世界に飛び込む支度も兼ねて。


「…いや、駄目な訳がないよ。にしても、無謀すぎだ」


軽く、イラハの頭にグーパンチをかます。


「…うぅ」


そこで。


『全く、やってくれたな、イラハ』


頭上でそんな声。


「神様…」


今まで何もなかったのに、途端に巨大な男が現れた。

その彫りの深い顔に、もじゃもじゃと髭が生い茂っている。

神様はハルを見下ろすと。


『ハルもハルだぞ。イラハが見えた瞬間に気を緩めなければ、こんな事にはならなかった筈だ』


「す、すみません」


ゆっくり語っているが、神様の目にはどこか厚のようなものが感じられた。


「……神様」


イラハが口を開く。


「イラハには、もうあの世界に帰りたいと思う場所がない。イスクスやラーニャ達も素晴らしい仲間達だけど。イラハは、ハルのいる所に帰りたい…。ハルの帰る所が、私の帰る所」



イラハは、意志のこもった目で、神様に訴える。


『ならぬ。どのような理由であれ、特別な権利に他界へ行くことは』


「………っ」


イラハが悔しそうに唸る。


「…っ、でも神様、イラハはー!」


『と、いいたい所だが』


ふ、と。


神様から感じられていた厚が消え失せる。


『私は、イラハ。お主の世界移動も、許可しようと思う』


「………!!」


下を向いて俯いていたイラハが、ばっ、と顔を上げた。


『私も、ずっとお主達を見てきた。イラハ、お主も数奇な体験を数々も経験した勇者ハルの仲間だ。お主がいなければ、魔王を倒す事も難しかっただろう。とても賞賛に値する事だ』


神様は、一息ついて、続ける。


『そして、何より。私の心を動かしたのは、イラハ。お主のハルに対する想いだ』


「……イラハの、ハルに対する想い」


イラハが復唱する。

神様は頷き、言う。


『そうだ。私はお主の、際程の行為に大変な感銘を受けた。本当は、ハルがゲートに触れた瞬間にゲートを閉じるつもりだった』


またも一息ついて、神様は言った。


『イラハ。お主の想いが、私の判断を変えたのだ』


「……………イラハが…」


イラハはそれ以上は何も言わなかったが、その気持ちは容易に汲み取る事が出来た。


『もし、元の世界に今すぐにでも帰りたければ帰すが…、どうかね』


「いや。イラハは、ハルと一緒」


即答であった。


『…そうか。そうだな。よい。よいぞ!』


神様は自分で何か納得したようだった。

そして、俺の方を向くと、言った。


『ハルよ。そなた達があの世界で過ごしてきた時間。長い年月を過ごしてきたようだが、あの世界と今から戻る世界では、時の流れが違うのだ』


「……えっ?」


俺は、その言葉に旋律した。


俺は、勇者として、あの世界で数年間に渡る旅を続けてきた。

その長い旅の中の年月の倍ほど、時間が経っていたとしたら。

俺の家族や、友人達は。


ぞっ、と。

背筋に悪寒が走り、呼吸が乱れる。


が、神様はそんな俺を一瞥すると。


『そう不安がる事はない。向こうではおおよそ、1ヶ月程しか経っていない』


「……えっ?」


俺はその言葉を聞いて、その場に立ち尽くす。


「…本当ですか?」


『ああ、おおよそ、な。…時にお主。最初にお主に言うたが、お主の本当の体は、あの世界にいるままだ』


そうだ。

俺はあの世界で死んだ後。

まだ俺の体はあの世界に存在している状態だと聞いた。

意識のみこちらの世界にやってきているという事で、元の世界に帰る際に意識を元の体に帰す為、容姿等は元の姿になるそうだ。


ーそういえば、数年間で随分と俺の見た目も変わったものだ。


身長も伸び、筋肉もつき。

顔つきも大人びていることだろう。


「…はい」


『元の世界に帰ったら精神を繋いでいたその体は消滅してしまう。元の世界で、今と同じように動けるとは、思わないほうがいいぞ』


「分かりました」


とはいえ、向こうではそんなに激しく動くことはないだろうな、と思いながら。


『それでは、ハル、イラハ。準備はいいか。向こうの世界に行ったら、もう私と関わる事もできない』


「…はい」


「大丈夫、問題ない」


『…よし、それでは…。っと、イラハ。お主の向こうの世界での扱いは、私が手を加えておいてやろう。安心して行くがよい』


「……神様、ありがとう」


『うむ。では、二人共。これでお別れだ。イラハにとっては衝撃の連続かも知れぬが、用は慣れだ。頑張ってくれ』


そして、俺達の足元が消え始めた。


『さらばだ、勇者ハル!そなたの勇士、私はしっかり見届けたぞ!!!』


「…行ってきます、神様ー!」


俺の意識が途切れた。




ーこうして、俺とイラハは、俺の世界へと旅立った。

俺の世界、俺の国。


俺の故郷ー。


日本、に。








これでようやく、異世界編が終わります。

長かったですね。

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