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異世界帰還者ノイジーライフ  作者: 完熟ライム
プロローグ 魔王決戦・勇者帰還編
3/17

第3話 魔王との戦いpart3

魔王との戦いについに終止符が!?

第3話、どうぞお楽しみください。


イラハは、僧侶としての才能は凡人程度でしかなかった。

そんな彼女には人に誇れる唯一の特技があった。

それは、観察眼。

彼女の目には、物だろうが人だろうが、その人の本質を見抜く力があった。


その能力で、イラハは原因不明の病や、傷が深く失敗したら死にいたる、などの患者を、的確な回復呪文で治療してきたのだ。


繰り返すが、イラハの回復呪文のレベルは凡人と同程度である。


だが、そんな彼女を見て、町の人々は彼女を女神だの神の申し子だのと、担ぎ始めていつしか彼女は町の誰もが崇拝する人物へと成り果ててしまった。

まだイラハの年齢は13才。

同い年の女の子は町で楽しく遊んだり、学校に通ったりしている年齢である。

イラハは、教会に篭もり、人の相談を受けたり治療したりといった毎日。


ーもう嫌だ。

自由が許されないこの生活が嫌だ。

好きなように私を扱う皆が嫌だ。

ニヤついた思考が読み取れるこの目が嫌だ。

なんでも私を頼れば解決すると思っている思考が嫌だ。

なんでも引き受けるお人好しな自分が嫌だ。


「…ここから逃げだす事を決意する」


そして、イラハという名の僧侶は、その町から姿を消した。


イラハはずっと修道院育ちだった為、生まれてから町から出たことはなく、金も持ち出してこなかった為すぐに困り果ててしまった。


限界が近くなり、道に倒れ、ここで死んだしまうのか、と全てを諦めかけたその時。


「………おい!おい!」


ふと、声がかけられた。


「………?」


「大丈夫か!何があった?」


初めて見た黒髪の少年と、その後に続く大柄の男と優しそうな目をした少女に、イラハは助けられた。


その後、事情を知った勇者達は、今は自分達と行動し、次の街でいい仕事を探してくれるといってくれた。

しかし。


「その誘いは嬉しい。でも、イラハはハル達に助けられた。イラハは、この恩を返したい。なのでイラハは、イラハは…、ハル達の旅について行きたい…!」


次の街がいい場所とは限らないし、また自分が特別扱いを受けるかもしれない。

言葉にした事とともに、そんな不安が拭えなかった。


「いくら凄腕の僧侶だっつってもなぁ…。こんな幼い子を連れて行って大丈夫なのか?ハル」


「そうだよなぁ…。いくらなんでもなぁ…」


「いいじゃない、私も男二人と旅するのはむさ苦しいし、そろそろ女の子が欲しいと思ってたのよー」


「「……むさ苦しい…」」



数時間にも及ぶ説得と熱意の果て、イラハは勇者のパーティの一員となったのだった。


その鋭い観察眼と的確な回復能力のお陰で数々の修羅場をくぐり抜ける事ができた。


イラハはもはや、パーティにかかせない存在となっていたのだったー。




「……ハル。魔王を倒す方法が分かった」



その言葉に、俺は驚愕する。


「本当か!!」


「………かもしれない」


「……おう」


後から続いたもしもの言葉に少し不安を覚えてしまったが、そんな様子を気にも止めずイラハは続ける。


「魔王は、魔族の中でも異質な存在。奴を倒すには、奴の心臓を確実に刈り取り、心臓を消滅させるほか、ない」


「………どういうことだ?」


「説明する。魔王の心臓こそが、彼の生命力の源。体の何処かを斬っただけではその圧倒的な生命力故にその部分は再生する。もし仮に心臓を突いたとしても、心臓と体が繋がっている以上、心臓すら再生してしまう」


つまり、心臓を魔王の体から取り出し、確実に消滅させなければならない、という事らしい。


限りなく不可能に近い行為だ。


今俺達は魔王の不意をついてかろうじて首をはねた。

しかし、今度は、魔王も注意を払っている。

普通に考えて、まずできないのでは?という不安が襲ってくる。

…だが。


「やるしかねえよな…イラハ!」


「うん。【不可能】なんてない、そう言ったのはハル」


イラハも勿論その気のようだった。


そしてイラハはくるりと向きを変えると、イスクスの元へ駆けていった。

イスクスの傷はかなり深いが、イラハの的確な回復魔法があれば軽く見積もっても2分程度で動ける程度になるだろう。


俺はそちらから目を放すと、静かに魔王を見据えた。



…やってやる、やってやる!

ついに魔王を倒す術が見つかった。


【不可能】に近い事だが、それは【可能】でもある、という事。


可能である以上、試さず終わるなんて事は嫌だ。


魔王は、俺の中に再び希望の灯火が宿るのを見て、新底楽しげに笑いながら、言う。


「………やっと闘志を取り戻したか!勇者!いいだろう、いいだろう!我が貴様を完膚なきまでに殺してやる!殺し尽くしてやる!…さあ!かかってこい、勇者!!」


「これで最後だ、魔王。俺はお前を、倒す!」


瞬間、俺は剣を握る手に力を込める。


また、剣に魔力を流す。

先程と同じように、剣と一つになる感覚。


剣が電気を纏い、それを正面に構える。


瞬間、魔王が左腕を振り下ろす。

それを寸前で防ぐと、剣を下段から魔王の懐に切り込む。心臓を狙うルート。


しかし、魔王は。

それを待っていた、と言わんばかりに。


「……ッ!」


俺は目を見開いた。

魔王の脇の辺りに、火の塊が生成されていた。


ヘルファイアだ。


それは、俺が発見した瞬間、こちら目掛けて高速で移動してきた。


ー避けきれない!


完全に不意を付かれた。

両腕、足、腰。


全ては攻撃の体勢で、今から防ぎにいっても防ぐことはできない。


まずった…。


まさか、ここで死ぬのか、という何度抱いたか分からない思考がまたしても俺の脳に満ちる。


だが。


火球は俺には当たらず、急激に左に反れ、適当な柱に衝突し、消えた。


「いっけぇぇぇ、ハルぅ!!!!!」


背後から声が聞こえる。


ルーチェだ。


俺の元に来る前にイラハに回復を施されたのだろう。何とか動ける程度には体力を取り戻した彼女は、急いでハル達を追いかけ、咄嗟の所で呪文を放った。


魔法収束ではない。

放たれた魔法の魔力から流れる波を読み取り、魔法のバランスを組み換え、方向を逸らしたり効果を変える呪文。


ルーチェには危ない所を助けて貰ってばっかりだな…。


ありがとう、ルーチェ。


俺が放った雷を帯びた下段攻撃は、肋の辺りから切り込みを入れ、心臓を通過し、右肩へと放たれた。


「ウガァッ!!!」


防いだ筈の攻撃をくらい、魔王が叫び声を上げた。


まだだ。


俺は右肩から抜けた剣をその場で静止させると、すぐさま今きた道に剣を返した。


傷口にさらに傷を入れていく。

剣に帯びている電気が先程の斬撃で残ったままの電気と反応してバヂバヂバヂ、と凄まじい音を上げる。


「うっらああああああああああぁぁぁ!!!」


魔王の左側の肋から剣を抜くと、叫ぶ。


「イスクス!!!そろそろ起きたか!!!!」


同時、背後から現れた影が、魔王に入れた傷に大剣を突き立てた。


「人使いが荒れぇな!!お前はいつもよぉ!!!」


今までの戦闘の間にイラハに治療されたイスクスが、ありったけの力を込めて、剣をさらに奥へと突き立てる。


あの短時間でここまで治すとは、流石はイラハだ。


「ガハァッ!…ッ!貴様らああああァ!!!」


魔王の唸り声を耳に聞きながら、イスクスの剣はさらに、奥へ奥へと突き進む。


「ここだなぁ!!そぅら!!!」


気合の篭った掛け声とともに、剣が魔王の背後から突き抜けられた。


その先端に、ドクン…ドクン…と波打つ心臓が刺さっていた。


魔王の体内で心臓を切り取る技術…。

見かけによらずこの男、やはりなかなかの凄腕だ。


「グッ…、おのれ!おのれえええ!!!」


魔王がイスクスの体を吹き飛ばす。


「ぐああああっ!!!!」


地面に叩きつけられたイスクスだが、その手にもつ剣には、心臓がしっかりと突き刺さっている。


「クッ!!!」


魔王が大剣目掛けて突進してくる。

おそらく、いくら再生するといえども、心臓ともなればどこか一部分でも体内に残されていなければいけないのだろう。


心臓が奪われても復活するのならば、こんなにも必死な様子になる筈がない。


瞬間凍結フローズンロック!!!」


ルーチェが叫ぶ。

その瞬間。


魔王の足から腰にかけてが、一瞬で凍てつく氷に覆われた。

その判断能力の速さが、彼女が天才と呼ばれながらも努力を積んできた証。


「グガァァァッ!こんな小娘如きに!この我がぁぁ!」


魔王はルーチェを睨みつける。

ルーチェはそれを一瞥するが、何も言わず、イスクスの方を向き、言い放つ。


「イスクス、剣を投げて!」


するとイスクスは朦朧とする意識の中思考をかけ巡らせ、ルーチェの考えを悟る。


「………ハル!……やれぇぇぇぇぇぇ!!!」


イスクスが血を吐きながら叫び、その大剣をハル目掛けて投げた。


「あぁ!任せろ!!!」


あの剣に刺さっている魔王の心臓を。

完全に消滅させなければ魔王は死なない。


ならば、一撃でその心臓を消滅させる。


魔王の心臓は特殊な魔力に覆われており、傷を付ける事はできても消滅させるのは難しい。

そんな物質を一撃で消滅させられることの出来る技を、俺は持っている!




ーあの技なら!!!




その技の名は、

精霊解放スピリット・バースト


精霊の持つ魔力を全て解放し、魔力の循環を最大にして放つ技。


…しかし、それには代償があった。


精霊の持つ魔力を全て解放する、それは同時に、精霊との契約が破棄されてしまう、という代償が。


精霊との契約には魔力を必要とする。


その人の限界の魔力を、精霊の力で引き伸ばすのだ。


何かを繋ぐには、連結部がいる。

魔力と魔力を繋ぐ為の、魔力が必要なのだ。


精霊の魔力を全て解き放つ事で、その連結部も放たれてしまう。

そして、精霊は、自分の体を生成する魔力が尽きてしまうことで、消滅してしまうのだー。


その為、精霊は、人と契約する時に、自分が消滅する覚悟を決める必要がある。

故に、精霊と契約する事ができた者は者は世界でも少なく、精霊の信頼に足る人物でなくてはならないのだった。


かつて、俺の目の前で精霊解放スピリット・バーストを放った賢者がいた。

彼の精霊も、彼の為ならば、と反対する事なく命を散らした。


…はたして、ラミエルは、これに答えてくれるだろうか…。


『精霊解放、するんだね?』


「……ああ。すまん、ラミエル」


『なんで謝るのさ。これは僕が選んだ事だ、君が悔やむ事じゃない』


「……そうか。……いくぞ、ラミエル! !俺達の旅に終止符を打つんだ!!!」


『……ああ。ハル、君、いや。君達との旅、楽しかった!!!僕はあの森にいたら出来なかった経験を沢山させて貰った!ありがとう、ハルー!!!」




そして、二人の声が一つになる。






『「精霊解放スピリット・バースト!!!!」』







ー瞬間、俺の剣が今までにないくらいの雷撃を帯びる。

剣だけに留まらず、溢れる電気は俺の体を伝わり、地面に伝わり、部屋中を電撃が包み込む。



「この感覚……、人間がこのような…。……いや、違う!…精霊か!貴様、精霊と契約していたのか……やめろ!!やめろぉぉぉぉおおお!」



魔王が叫び声を上げた。


今まで余裕を見せていた魔王だが、自らの危機を悟り気が動転しているようだった。


精霊と契約しているかしないかは、第三者の目からは判断しずらく、唯一の違いとして、普通の人間は色々な系統の魔法を使用できるが、精霊契約者は膨大な魔力を得る代わりに同系統の魔法しか使用できなくなる、という事だ(ラミエルは雷属性)。


俺はこの戦いで、極力魔法を使用した戦闘は避けてきた。


いや、具体的には、そうせざるを得なかったのだ。

むしろそれは魔王に効果的ではないと判断したからだ。


魔王フォボスは魔族軍の大将だ。

他の幹部達がそうであったように、同じ攻撃を繰り返せば、いつかは何かしらの対策をされてしまう。

それを防ぐ為に、要所要所に属性魔法を使った攻撃を織り込む事を余儀なくされたのである。


ーしかし、今はそれが幸いし、魔王に精霊と契約している事を悟られず、不意を突く形になった。



俺は向かってくる大剣にむけて、正面から迎え撃つ。






「これで………終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!!!!!!!!!!」





頭上に構えた剣を振り下ろす。



大剣ごと、心臓が一瞬で消滅する。




「グッガァァァァァァアアアアアアァァァァァアアアアアアァァァァァァ!!!」



魔王の最期の叫び。



俺は、魔王を、倒した。


これで、この世界は平和に包まれるー。





まだ電撃の音が残る室内で、俺はラミエルの最期の言葉を聞いた。


『……そろそろ僕も消えるみたいだ。これでお別れだね、ハル』


「………ラミエル…!」


『やだなぁ、泣いてるの?君は世界を救ったんだ。ちゃんと笑顔でいないと、皆不安がっちゃうよ?』


「………ッ。……ああ、そうだな…」


俺は涙を拭うと、言った。


「それじゃこれでお別れだけど……。俺はお前を忘れない!!だから!お前も俺を忘れるな!!」


『ハハッ、無茶言うね。……でもまぁ、僕が僕である以上、君を忘れたりなんかしない。絶対だ』


「……そうか。じゃあな!ラミエル!俺は、楽しかったぞ!」


『…うん。僕も、とても楽しかっーたー』


そして、この世界から、一人の精霊が消滅した。



こうして、世界は平和に包まれた。


皆はいずれ、それぞれの帰る場所に帰るだろう。

俺も、帰らなくては。


俺の、世界にー。


ついに魔王が倒れ、そろそろプロローグが終わりを告げようとしています(笑)


後1話分異世界編がありますが、

プロローグの大半はこれで終わりです。

なんだかやり切った気持ちで一杯ですが、

まだまだ頑張っていきます!

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