第2話 魔王との戦いpart2
前回の話で主人公の仲間の人数を主人公含めて6人にしていたのですが、今後の時間の都合上、前回の話も含めて4人に致しました。
ご了承ください。
広く、暗い室内。
そこでは今まさに、世界の命運を決める戦いが繰り広げられていた。
4対1。
数の上では非道とも言える戦い。
しかし。
単身で4人の人間と対峙する大男は、互角、もしくはそれ以上の力で4人をねじ伏せていた。
傍から見れば、それはもはや圧倒的。
その大男、魔王は、4人の人間の中核、勇者に最後の一撃を放った。
もはや過剰とも言える一撃。
魔王の勝利は目前だった。
◇
「…俺達は諦めない!魔王!最後の戦いだ!お前を倒して…俺は!…俺達は!世界に平和を取り戻す!!」
…これは。
これは、どういうことだ。
勇者はもはや戦える状態ではなかった筈。
ーまだ力を残していた…?
否。
そんな筈はない。
確かに勇者は身も心も折れ、死にゆく時を待っていた。
…解らぬ。解らぬ。
やはり…人間どもは解らない。
非力、単純、それでいて欲に溺れやすい。
魔族には遠く及ばぬ最底辺の種族、人間に何故我等はここまで追い詰められたのか。
…解らぬ。
人間どもの、思考、行動、何もかも。
……まあ。
それもこの愚かな勇者どもを倒せば終わるだろう。
もう一度。
もう一度、こやつらを絶望させてやるー
◇
希望が満ちる。
満ち渡っていく。
「いくぞみんな!これが…最後の戦いだ!!」
俺は叫ぶ。
そう、これがこの世界での最後の戦い。
そしてー、俺が元の世界へ帰る為の最後の戦いでもある。
俺は帰る。
なんとしても、この戦いを終えて、生きて、帰る。
様々な感情が身体中を駆け巡る。
それらの感情全てが、俺の力になる!
「うおおおおおおおおおおおおッ!」
疾走。
俺は単身魔王へ切り込んだ。
「…おや。自暴自棄とは愚かな選択だぞ、勇者!」
魔王が叫びながら、高速で詠唱を終え、俺に向けて呪文を放つ。
先程と同じ、火の大型呪文。
先程魔王が名を口にした、ヘルファイア。
この世界で数年も過ごしてきて、様々な火属性呪文使いと出会ってきたが、初めて見る呪文。
あそこまで大型だと、火は広がりながら放たれるしかないのだが、見事なまでの球型で俺に襲いかかる。
「ーさせない!…魔法収束!!!」
背後から声。
同時に俺の目の前に鏡のような、透明な膜が現れる。
瞬間。
俺目掛けて放たれた大型火球が薄い膜に触れる。
膜は火球の形に合わせ形を変えると、
火球を覆うような形で包み込んだ。
そのまま中心点に向かって収束するとー、
やがて、消えた。
「………!!」
魔王が驚愕の表情を浮かべる。
まさか自分の魔法が消滅させられるとは思わなかったのだろう。
先程俺は魔王の呪文に対し、同程度の威力をぶつけて相殺した。
その為には、剣に魔力を流して剣を振る、というアクションを行う必要がある。
おそらく魔王は、ただ魔法を放っただけではなく、俺が魔法を防いだ場合も、その行われたワンアクションを狙って追撃を加えるつもりだったのだろう。
魔王はまだ詠唱の途中だった。
完全なる無防備。
「うっらあああああああああ!」
俺は、魔王目掛けて全力の一撃を放った。
◇
「………ッ!…はあっ…はあっ……!!」
後方で、息を切らして膝を着く1人の少女。
今しがた、勇者に向けて放たれた魔法を防いだ、勇者の仲間の少女。
彼女ー、ルーチェは。
生まれた時から天才、神童と、周りから言われ続けてきた。
彼女には圧倒的な魔法の才能があった。
彼女の生まれた村では、その才能故、他の大人子供から気味悪がられた。
物心ついた時から彼女は魔法の天才、未来有望な子供が集まる都市に送られ、1人、魔法についての知識を伸ばした。
ー圧倒的な差。
彼女は天才達の中でも抜きん出た魔法の実力を見せた。
そこには確かに努力もあったのにも関わらず、他の子供達は彼女を妬んだ。
彼女はそうした悪意に耐えきれず、命を落とそうと思っていた。
そんなルーチェを救ってくれたのは、今。
人間では圧倒的に力が及ばない、不可能とも言える敵に対し挑む勇者、ハルだった。
ーハルは私をあそこから救いだしてくれた。
ルーチェは、ハル達との長い旅の中で、今までだれも成し遂げなかった呪文を消滅させる技を編み出した。
魔法収束。
人類初、いや、全種族で初めての行為を成し遂げた。
…放った瞬間、自分の魔力が一瞬で消える感覚がした。
ふらり、という感覚が彼女を襲う。
「頑張れ、ハル…!!」
かつて天才と呼ばれそれを嫌った少女は、静かにその場に倒れ。
薄れゆく意識の中、自らを救ってくれた少年の、生死をかけた戦いを見守っていた。
◇
「…ありがとう、ルーチェ!!」
視界の隅で静かに倒れ込むルーチェを見ながら、感謝の言葉を口にする。
「小癪なぁっ!!!」
魔王が、詠唱中の呪文を中断し、俺の放った一撃を防ぎにかかる。
だが、遅い。
魔王が咄嗟に突き出した左手を、俺の剣は切り落とした。
「ぐう……」
魔王が呻き声を上げる。
「避けろ!ハル!!!」
背後から叫ぶ声が聞こえる。
咄嗟に俺は身を屈めると、頭上を大振りな大剣が通過していった。
「うりゃあぁああああああ!!!!」
気合いの篭った掛け声とともに、左手を失った魔王に追い討ちをかける横薙ぎの一撃。
ランドゥラム王国式戦闘術。
俺を召喚したこの国では、全ての兵士はこの戦闘術を体に叩き込ませる、というのが風習となっている。
俺も、最初の数ヶ月はこの戦闘術を学んだ。
そこで出会った同僚がこの男ー、イスクスである。
出会った当初、イスクスは勇者と呼ばれ周りからチヤホヤされていた俺の事を嫌っていた。
…実際俺も少なからず浮かれていたし、その時はたいした実力もなかったくせに特別扱いされる俺を嫌うのはまあ当然だったかと思う。
そんなある日、辺境の村が魔物に襲われた、という事件が起きた。
魔物討伐の隊が急遽結成され、俺も訓練の成果を試す為に部隊に編成された。
そして不運にも、この男、イスクスと同じ部隊となったのである。
お互い全く口もきかず、魔物討伐の日が訪れた。
その魔物の力は強大で、部隊は全く歯が立たなかった。
だが、殺されそうになるイスクスを庇い、その後、共に協力して魔物を倒した事で、急激に仲が深まったのだ。
俺が旅に出発した時も付いてきて、今では頼れる相棒となっていた。
……そして今。
イスクスの放った横薙ぎの一撃は、魔王の首を捉え、一気にはね上げた。
「……やった!!」
俺は歓喜の声を上げた。
首を跳ねられ生きている者などいない。
俺達は勝利を確信し、互いに目を交わした。
「ハル!俺達、ついにやったんだな!」
イスクスが笑顔でにやつきながらこちらに走ってくる。
俺もそれを迎え入れるべく、イスクスの元へ、
はし…ろうと…
走ろうと、した時。
イスクスの姿が一瞬で目の前から消えた。
いや。実際は、一気に横に叩きつけられた。
「…イスクスーッ!!!」
反射的にイスクスを目で追いかけ、叫ぶ。
イスクスは端の壁に叩きつけられ、地面に附していた。
かろうじて意識はあるようだが、かなり危ない状況に見えた。
…そして。
「グッフ…フフ…グフフハ、グゲフフフフッ!!」
首のない魔王が言う。
…いや、違う。
首が、生えてきた。
切断された断面から、綺麗に魔王の首が現れ、口を開いたのだ。
「……なっ!?」
「よもやこの程度で我が破られるとでも…?……グフフハ、グハハハハハハ!!!…笑止!我も舐められた者だなァ!!!」
魔王が壊れた笑いを浮かべ言う。
再び、絶望に包まれる。
……こんなやつに、勝てるのか…?
魔王は不老不死なのか。
疑問が浮かぶ。
「……ッ!下がれ、ハル!!!」
壁面に叩きつけられ、血に包まれているイスクスが叫ぶ。
その声に反射的に対応するように、俺は後ろに下がる。
直後、俺のいた場所を、魔王の業火が襲う。
先程より、呪文の発動が、速い…!?
「グハハハハハハ!我も少し手を抜いていたようだ!久しく好敵手と巡り会えず、本気を出す機会などもうないと思っていたが、今!首を切られた瞬間確信したぞ!貴様達は我と戦うに相応しき相手!我も久々に………」
魔王が続けて言った言葉に、
「………本気を、出すとしよう……!」
俺は、衝撃を受けた。
今までの戦いで、本気をだしていなかった…?
もはや勝てる術が見つからない。
その場に崩れ落ちる。
もう、駄目か……?
さすがにこれは、【不可能】かな…。
俺が諦めかけた、その時。
後ろからタッタッタッ、とこちらに向けて走る音が聞こえた。
その音はそのまま俺の隣に立つと、
「…ハル。魔王を倒す方法が分かった」
俺達の僧侶、イラハ。
彼女が、絶望の中に光を灯した。
魔王との決戦は後1話ぐらいで終わると思います。
圧倒的プロローグ